某編集者
以前、出版社の編集をやっている方が直々に投稿策を評価してくださるという企画がありました。
皆こぞって意欲作を投稿しました。
出版社がどういう基準で作品を評価し、どういう物を望んでいるのか?
自分の文体は標準的な書籍の水準に達しているのか?
自分の表現方法に問題はないのか? 人称など根本的に勘違いしている部分はないのか?
ラノベメインですが、一般でもOKですという事で投稿作はかなり多いものになりました。
そして評価のほどは?
僕も脚本をやる事はありますが、本業はプログラマーです。
学生時分からプログラムをやっていて、教育雑誌なんかに本場で活躍しているプロの方が記事を書いていたりしました。
ハガキの質問コーナーなどもあり、僕も質問した事があります。
同じ事をするプログラムを、プロの方が書いた物と比べる機会もあるのですね。
それは一目見ただけで、
「これがプロの仕事か」
「こうまで違うものなのか」
と感銘を受けたものです。
自分はまだまだだ。もっと精進しなくては、と今に至り、今では逆の立場になる事の方が多いものです。
そして一物書きとして、その本場である出版編集者の批評を見るにあたって同じ感銘があったか? と言えばそれはありませんでした。
そのくらいの批評なら僕でもできる、というより一般サイトで批評を書き込んでいる素人と何も違いを感じない。
出版社の名前も当人の名前も伏せられているので、本物なのかどうかも分からない。
こう言っては何ですが、ボランティアでそんな事をやってくれる人というのは、結局そのくらいの位置にいる人という事です。
本当に拾い上げて書籍化できる権限を持っている、文章の拙さを的確に指摘できる人はそんな事をしているヒマはない。
編集者としては下っ端も下っ端。もしかしたら企画を盛り上げるために頼まれただけの偽物かもしれない。
これはその編集者を卑しめているのではなくて、むしろ出版業界の名誉のためにそう解釈しています。
新人賞の批評がそのレベルでされているというのなら、それはそれで大変な事です。
曲がりなりにもプロの編集者を名乗っているのなら、それ相応の仕事をやらなくてはなりません。
忙しい合間にやっているボランティアだから適当にやりました、なんてのは通用しない。
実際そのサイトの宣伝目的でやっているのだから営利目的です。
ゲームも無料公開されるものはありますが、バグがあっていいとはならないですよね。不備があれば然るべき評価が厳しく下されます。
それに投稿する側も遊びでやっているわけではない。
本物の編集者に見てもらえる、とプロを目指す人達が、忙しい中本気で考えて執筆したものです。
忙しい時に書いた物だから、と批評が甘くなる新人賞なんて無い。
だからその仕事は編集者の普段の仕事ぶりなのだと、編集者も皆に判断されるのです。
しかも素性を明かしていれば当人だけの問題ですが、匿名なら出版業界全体の代表とも言える。
実際出版社で働いているがどこにいるのかは分からないからです。場合によっては無関係の出版社にも迷惑をかけてしまいかねない。
その覚悟がなければ肩書きを名乗ってはいけない。
では実際どのような批評だったのか? というのを取り上げてみます。
多かったのは「今のラノベの売れ筋はこうで~、それを踏まえると~」のようなもの。
一般向けに書かれている物に「ラノベらしくない」と言われても「そんな事は分かっている」という反応しかできない。
ラノベしか評価できないなら初めからそう言ってくれればいい。投稿者も遊びで書いているのではない。一般向けに書いている人達の方が本気度は強いと思われます。
文章力、などの評価も5段階で数字が付けられるているだけ。
こちらとしては、プロの方が、どういう所を文章力と判断しているのか、とかその指針を知る事ができれば有益なんですね。直に見てもらえる数少ない機会として人が集まっているのです。
数字だけつけられても、「これよりもこれが高いの? それは何を見て判断したの?」と疑問符のつく場面も多い。
設定やストーリー。もう少し具体的なとある作品の事例。
主人公少年は幼い頃に母を亡くし、男手一つの父を手伝いながら妹達の面倒も見ている。そこで同い年の女の子が現れ、と二人の距離を描いている話でした。
チェック項目に「ストーリーに関係のない暗い設定がないか?」というものがあり、それを取り上げて「母を亡くしているという設定が重い。ここは一人旅に出て帰って来ない、くらいの方がよい」と批評されていました。
まあ今のラノベらしいありがちな設定と言えばそうです。
しかし僕が見た限りでは、その作品で「幼い頃に母を亡くしている」という事象は、主人公少年の人格を形成する重要な要素です。
だからこそ、現れた少女に「二度と手に入る事のない、母の面影を重ねる」わけなのですね。そこには母が生前に残してくれた縁があり、と続くわけですが、
旅に出て一切連絡が無いならそれは捨てられてるんだからそっちの方が陰湿でしょ。
それを軽く明るいノリで描写する事は可能ですが、作者はそういうものを書こうとしていない。それはもう全く別の物になってしまう。
要求されるどんなものでも書けるのが作家ではありますが、やはり得手不得手、得意分野はあるのです。作家の資質を見極めて、面白いものを引き出すのも編集者の仕事です。
少なくとも僕は監督する時はそうしている。
これは一つの例ですが、その作品で作者が伝えたい事は何か? というテーマ性が見られていない感が否めない。
最近のラノベの傾向に合わない物を弾くのなら、そこには似たり寄ったりな物しか残らない。
なにより間違ってはいけないのはこれはラノベ新人賞の批評ではない。一番評価が高かったものが発刊されるわけでもなければ紹介されるのでもない。
皆自身の技術向上、または自分が今どのくらいの水準にいるのかを知りたいのです。
極めつけは後の方の作品になるほど、露骨に他の人の批評をコピペしている。
その企画は同時に一般の批評もされているのですが、その引用が目立つ。
同じ作品を読んで批評しているのだから内容が似るのは自然な事だ、という事でしょうか。
それは是非、僕の時に言ってほしい。
今時の傾向に合わせているのだから似るのは自然な事で、それはオリジナリティが無い事にはならない、と僕の時に口添えしてほしいものですね。
よく読む時間がないから、安全パイを選んでいるのでしょうけれど、やはり素人の批評の引用なので、時折「ん?」と思うような事も同じように批評している。
何より一般の人と同じ批評ならそれはその程度の批評力という事です。一般人の気が付かない事を指摘してほしい。
全部が全部メタメタと言うわけではないですが、全体的に言える事は編集者個人の好みは分かったが、編集の判断基準と言えるものは分からなかった。
結局分かったのはやはり個人個人判断の基準は違うのだな、という事。
だからチェック方式が採用される。
チェック方式も諸刃の剣で、見方によってはかなり乱暴な批評の仕方です。
所詮人間、されど人間。
そこに絶対的な物は存在しない。
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