第三羽 うさぎ課

アニマルカンパニー第一セクション内、うさぎ課。月曜日の朝である今、私はさっそくその場にいた。

うさぎ課の様子は、至って普通だった。案内されるまでは机の周りにうさぎが放し飼いにされているような雰囲気を想像していたが、人間が事務作業をする場所は一般的な会社と何ら変わらない様子で少し安心した。窓際にある偉いさんの方達であろう机に、一般社員用の机がぱっと見た感じでは約三十ほどある。昔の会社は机間のスペースがかなり狭く息苦しかったが、ここではかなりの余裕がある。これなら椅子の背もたれに思い切りもたれかかって背伸びしても後ろの人に触れることはないだろう。

机の上には、うさぎグッズや模型など、その人の趣味であろう品

が色々置かれているのが見える。漫画や小説、間食用のお菓子など、前の会社では見られただけで怒られそうなものが普通に置いてあるのを見るに、自由な風土であることを感じ取れる。

所々から笑い声も聞こえてくる。前の会社と色々比べて申し訳ないが、朝は基本的に皆機嫌が悪く殺伐とした雰囲気になっていたのと大違いなので、ここが本当に職場なのか疑ってしまうぐらいだ。気持ちの切り替えが済むまでは、良い意味で戸惑いそうな気がする。


うさぎ課を訪れた私を、まずは課長が紹介してくれる。そして、そのあとに私自身の言葉での自己紹介。これは昨日考えてきたギャグの成果が試されるとき!

「本日より仮所属になりました、野花といいます。よろしくお願い致します」

うん、やっぱり普通が一番である。


一通りの自己紹介を行ったあと、用意してもらった島に案内される。ここで言う島というのは、うさぎ課はそれなりに広い部屋であるため、机をチーム単位で固めているのだ。その様子が上から見れば島に見えることからそう呼ばれている。私は比較的入口に近い場所にある、少しこじんまりとした島に案内される。その中で今は使っていない机を一つ用意してもらっているのだ。

「よぉ、奇遇だな。ええと、」

私が席に着いたときにそう気安く話しかけてきたのは、初めてアニマルカンパニーを訪れたときに動物駅で出会った男性。確か東十条と呼ばれていた。

「野花です。よろしくお願い致します」

私がそう言うと、東十条さんは考え込むような仕草をする。

「野花君か。この課には野原(のばら)さんがいてややこしいな」

そして、うーんという声を漏らす。略すと、いやなんでもない。

「それなら、野花の野を取って、野うさぎちゃんでいいんじゃない」

いつの間にか東十条さんの後ろにいたラフな格好の女性がそう言った。

「野うさぎか、そりゃあいいな。よろしくな、野うさぎ君!」

「よろしくね、野うさぎ君!」

「頼むぞ、野うさぎ君」

出社した即日に私の名前は変更となった。ゲームでもまず最初に主人公の名前を変更するわけだし問題ないかと自分自身でも意味がわからない納得をする。

そんな私はさておいて。東十条さんは何かに気づいたような表情を見せる。そして口を開く。

「おっと、自己紹介が遅れたな。俺の名前は、東十条(ひがしじゅうじょう)王子(おうじ)だ。よろしくな」

東十条というのはわかるが、名前は王子なのか。漫画やアニメ以外で本名が王子という人に初めて出会った。

「そして、この後ろに立っているワイルドな女性が、増田(ますだ)京子(きょうこ)」

増田と呼ばれた女性はこっちを見て、微笑む。こちらの女性は普通の名前だった。

「増田よ。よろしくね、野うさぎちゃん」

「こ、こちらこそよろしくお願いします」

ラフな格好、漫画肉が大きくプリントされた野暮ったいTシャツに、自分で破ったのか元々そういうデザインなのかわからないような褪せたジーパンを履いている。そんなお世辞にもお洒落とは言えないような格好をしているのにも関わらず、髪は茶色でふんわりとしたカールが大人の女性といった雰囲気を出している。そのアンバランスな姿から放たれる微笑みは、とても綺麗に見えた。

私のそんな想いを感じたのか、東十条さんは私を制する。

「京子はやめておけ。いいか、これは先輩としての忠告だ。そう、死にたくなければ、京子はやめておけ」

ドガーーーン。

通過電車が近くでいきなりクラクションを鳴らしたときのような驚き。突然響く激しい音と共に、東十条さんは椅子ごと壁に向かって吹き飛んでいく。そして鈍い音と共に悲鳴。東十条さんはそのままグッタリとして動かなくなった。

一瞬の沈黙のあと、周りから「京子ちゃん、手加減してやりなよ」「新人さんびびっちゃってるわよ」などの声が増田さんにかけられる。増田さんはそんな声に耳を貸さず、そのまま苛立った様子でうさぎ課を出て行った。どうやら増田さんはうさぎ課ではないようだ。

「と、とりあえず俺の話を聞いてくれ」

「あ、東十条さん生きていましたか」

「生きてるよ。勝手に先輩を殺さないでいただきたい」

東十条さんは何事もなかったように椅子を机まで移動させ、背もたれが壊れていないか確認してから改めて座りなおす。そして、

「生きてるよ。そして、ナレーションスタート」

と、勝手にナレーションを始めた。

【東十条さんのナレーション】

俺、東十条王子と増田京子。もちろん俺たちにも新入社員の時期はあったわけで。そしてあの頃は今と違って時代がそうさせていた様で、新入社員というのは色々と懇親会という名のどうでもいい宴会を強制されていた。あの日もそんなどうでもいい日のはずだった。

「王子さん、家でもうさぎ飼っているのですか」

普段なら新入社員の女性は上司の横で機嫌を取っているものだが、その日はそんな上司が関係が怪しまれている女性と妙に親しく話しているからお役目御免になっていた。だからなのだろうか、京子は俺の隣に座っていた。

「うん。プリンセスといってね、女の子なのにやんちゃなやつなんだ。特に俺の足元でくつろぐのが好きで、いつも私がパソコンを使うために椅子に座ると足元に寄ってきて寝転がるんだよ」

「へー、いいな。ねぇ、今度見に行ってもいいかな」

「うん、いいよ。でもうさぎは夜行性だから、そうだな、終電でうちに来なよ」

「う、うん」


東十条さんのナレーションが強制中断される。ぞくりと身震いするほど空気が変わったと思ったら、いつの間にか私たちの傍に増田さんが戻ってきていた。

「それで乙女心を震わせながら王子の家に行ったら、本当に始発の時間までうさぎを見せてくれたり話をしてくれたりで、何もなかったの。信じられないでしょ」

この目の前にいる派手な服装の男性は、実は見た目と違って草食系なのだろうか。

「だから次の日、うさぎを見せてもらったお礼に王子を招待したの」

まさか増田さんの家だろうか。どきどき。

「猛獣課に」

「えっ?!」

東十条さんは遠い目をしている。

「それで全治一ヶ月。でもそれから入院先に京子は毎日来てくれて、さすがの俺もその気持ちに気づいたというわけさ」

「本当に鈍感な人よ」

増田さんはさっきまでのピリピリした雰囲気ではなくなっていて、仕方ない人だったわと優しいそうに付け加えている。

「もちろん話はこれで終わりじゃないぞ。お見舞いに来てくれたとき、一体何を持ってきてくれたと思う?」

東十条さんの問いかけ。

「定番を言えば、フルーツ。りんごとかですかね」

「あほっ!」

東十条さんはペシっと机を叩く。ビクっとする私。

「にんにくだよ、にんにく。毎日にんにくを持ってきてはだな、やれ焼きにんにくだの、摩り下ろしだの、明らかに病人に食べさせるべきはないようなものを持ってきてくれたわけですよ」

「私がにんにく好きなだけよ」

東十条さんは増田さんのその言葉に思いっきり首を振る。

「本音は、精力つけて肉食系になれってことだったんだよ。ああ、いやらしい」

スパコーン、と何故か手にスリッパを持っていた増田さんは、東十条さんの頭をそれで叩いた。とてもとても良い音がうさぎ課に響き渡る。何するんだよ!という言葉はどうやら口に出せなかったようで、東十条さんはただ口をうさぎのようにもごもごさせているだけだった。


そんなやり取りを見て、気づいたことがある。

「もしかして、さっきからの一連の流れは、お二人のノロケだったりします?」

東王子さんと増田さんは目を合わせて、実にいやらしく笑った。

「「正解!」」


なんか、どっと疲れた。これは勤務初日だからということにしておこう。



 ☆



うさぎ課というからには、主役はうさぎである。いい加減にその主役たちにも登場してもらおう。

うさぎ課での自己紹介と庶務事項の説明を一通り終えたあと、私は東十条さんに連れられてうさぎが飼われている建物に来ている。うさぎ課がある建物内でうさぎも飼っているのかと思えばそうではなく、すぐ隣の建物まで移動することになった。

「うさぎは、ある意味俺たちの最大のお客様だ。失礼のないように」

東十条さんはそう言うと、建物の中の設備を順に説明してくれた。うさぎを扱う課だけに、たくさんのうさぎが飼われており、そしてそこに多種多様のうさぎがいる。ネザーランドドワーフ、ロップイヤー、ジャージーウイリー、ライオンラビット、ミニレッキス、そしてミニラビット。

「違う、彼女はドワーフホトだ。俺の一番のお気に入りなんだから、しっかり覚えておけ」

ミニラビットは、いわゆる雑種のことである。それはつまりそれこそ無限の組み合わせを持つ種類である。なので素人は自分の知らない種類のうさぎを見た場合は、ミニラビットと思ってしまうもの。東十条さんは、ここでうさぎのプロとしてやっていくのなら、しっかり見極めろと付け加えた。

私は改めてドワーフホトを見る。写真では見たことはあったが、実際に生で見たのはこれが初めてだ。純白の身体で、眼の周りだけが黒色になっている。これだけ可愛いのであれば、ラヴィアンローズにいたらトップアイドルになれるだろうに。今度行く機会があれば提案してみよう。


「そうだな、野うさぎ君はロップじいの推薦だから大丈夫だとは思うけど、一応うさぎについての基礎知識を確認させてもらうかな」

東十条さんはそう言うと、部屋の隅に置いてある木製の椅子に座る。そしてその隣に座るように私に促す。私は座りながら、どう説明したものかなと戸惑いながらも、うさぎを飼い始めたときに学んだことを話していく。尚、既にうさぎを飼われていたり知識をお持ちの方は読み飛ばしてもらっても大丈夫である。


うさぎと出会うには、ペットショップに行けばいい。うさぎの種類は様々だが、大きく二つに分かれる。さきほど名前をあげたような純血種と、ミニラビットと呼ばれる雑種だ。ミニラビットと聞くと小さいうさぎを想像されるかも知れないが、雑種の総称なので、もちろん個体によってはビッグラビットになる。

うさぎは草食動物なので、主食はペレットという固形タイプの草と、チモシー種等の牧草を食べる。りんごも好きで、これは中身よりも皮の部分の方が好きだったりする。そして最近はもう勘違いする人はいないだろうが、水はきちんと飲める環境を用意しなければならない。うさぎに水を飲ませたらだめというのは誤りである。うさぎは私たちが思う以上にグルメで、ペレットの種類を急に変えると食べなかったりするので、出来る限り同じ種類のものをあげるか、混ぜて与えるようにしたい。ちなみに私の飼っているうさぎは混ぜてもちゃんと選り分けていつものしか食べないのだが。

そしてそういった主食だけでなく、おやつも与えてあげればとても喜ぶ。おやつには、乾燥ニンジン、乾燥マンゴー、ビスケット等がある。与えすぎたら主食を食べる量が減るので気をつけたい。でも少量であればスキンシップにもなるので良い。

以上で説明は終わり。


上手くまとめられなかったが、言いたいことは言えたと思う。

「うむ、基本的なことはわかっているな。これならここのうさぎのことをある程度まかせても大丈夫そうだな」

東十条さんはそう言うと、机の上にあるノートを手に取る。

「このノートにここで飼われているうさぎの体調や食事量を毎日書いている。餌やり担当になった場合はまずそれぞれの餌箱を見て、このノートに食事具合を記入すること。そして昨日までの体調状況から判断して、今日の餌の量を決定するんだ」

今日は見本を見せるよと言って、東十条さんはノートを見ながら軽量カップを手に取り、餌袋からカカッとペレットを掬い取り、それぞれのうさぎに与えていく。私はそれにあわせてチモシー草を補充していく。チモシー草はどんな減り具合にせよ容器満タンまで入れればよいから、わかりやすい。

一通り餌をやり終えると、東十条さんは胸ポケットからクッキーを一つ取り出す。そしてそれをドワーフホトにだけ与える。

「みんなには内緒だぞ」

ドワーフホトは、しっぽを振りながらがつがつがつと勢いよくクッキーを食べている。東十条さんは幸せそうにその様子を見ている。そして、そんな様子を見ている私に、東十条さんはクッキーを手渡そうとする。

「どうだ、家で飼っている本妻とは別に、ここうさぎ課に愛人を作らないか」

東十条さんのその誘惑に、私は一言。

「ノーサンキュー」

両手を前に出してお断り。頭の固いやつだなと言って呆れ顔を見せる東十条さん。


やはり私は彼が嫌いだ。



 ☆



うさぎ商品考案大会。アニマルカンパニー社内で毎年開催されている大会であり、そして今年も色々な戦いが繰り返されているようだ。私にとっては初挑戦であり、それはまさに経験不足と言える状態以前の話である。

ならば勝算は無いのだろうか。否。もしこれが体力や技術を争う競技であれば、後半戦から参加しても歯が立たないだろう。だがこれはアイデアを競う勝負なのだ。それに、このうさぎ商品考案大会は、何度でも挑戦することが出来る。今回で予選は二十三回目。自信のあるアイデアを持っている人であれば、早いうちに発表してしまっているであろう。この時期は言わばアイデアの二軍、三軍が発表されるはずだ。それなら私にも勝ち目はある。


と、対戦相手を見るまでは思っていた。

「あら、野うさぎちゃんが対戦相手なの」

対峙する相手、それは増田さんだった。彼女の所属はうさぎ課ではなく猛獣課だが、これはうさぎ課限定の大会ではない。あくまでアニマルカンパニー社内の大会なのだから参加資格はもちろんある。

「よろしくお願いします」

「ふふ」

私の少し緊張した挨拶に、増田さんは不敵に笑った。


VS増田京子。


先行は、私、野花真。

「私が提案するのは、鼻シールです」


人間の鼻と鼻の穴を覆う形のシール。これには二つの特徴があります。一つ目は、寝転がってうさぎとフェイストゥフェイスで触れ合う際に埃をフィルターするということ。もう一つは、うさぎの鼻や口に直接触れるのは食糞後の場合もあるため衛生的に良くないので、それも防ぐことが出来るということです。


私のプレゼンテーションを聞き、増田さんは拍手をしてくれる。

「確かに王子もよく寝転がってうさぎといちゃいちゃしていたわね。そういうときに鼻シールつけていればいいんだろうけど、ねぇ」

増田さんのこの言葉の意味はなんだろうか。わかるのは、褒めてはいないということ。

「まぁ初めてのプレゼンにしては良かったと思うわよ。だけど、相手が悪かったわね」

増田さんが見せる絶対的な自信。私にはまだ何か足りない点があったのだろうか。

後攻は、増田京子さん。

「私が提案するのは、うさぎを足で挟むための靴下です」


椅子で座っているときや人間側も寝転がっているような場合、うさぎを足で挟むことをする人は多いとアンケート結果に出ています。私もしています。夏なら素足のままで問題ないのですが、冬の場合、寒いので靴下を履くことが多いわけです。靴下を履いたままうさぎを挟む。それはうさぎの感触が直接伝わらないし、うさぎ自身も慣れない靴下の肌触りで挟まれても嬉しくはないでしょう。

そこで、今回提案する、うさぎを足で挟むための靴下があります。従来の靴下と違い、内側に穴を開けます。開いていると寒いように思われるかも知れませんが、実際に寒さを感じるのは指先であり、そこはしっかりガードされているので問題ありません。これは市販の靴下の側面を切り取って実際に試してみたので確かです。この靴下なら直接うさぎの感触を楽しむことが出来、冬場の寒い時期でも足を暖かくしたままに出来ます。快適な人間とうさぎのライフを送ることが出来る一品。いかがでしょうか。


私は増田さんのプレゼンテーションを聞き、そのアイデアの素晴らしさに素直に感心し、拍手した。私自身うさぎを飼っている期間はそれなりに長い。それにも関わらず、私は今日の増田さんのようなことを思いもしなかった。

うさぎ課ではない増田さんですらこのアイデア力。思っていた以上にアニマルカンパニー社の皆は凄い実力の持ち主なのかも知れない。

気圧され気味な思いでそんなことを考えていると、増田さんが舞台から戻ってくる。

「野うさぎちゃん、どうだったかしら」

審査員が審議中の間、私と増田さんは二人椅子に座りながら会話する。

「凄いですね、こんなアイデア思いつきもしませんでした」

そう言う私に、増田さんは首を振ってみせる。

「そうじゃないわよ。野うさぎちゃんのアイデアも悪くはないの。ただ、実用的ではない」

「と、いいますと?」

「靴下は常に履いていられるから、タイミングが良いときにいつでも挟める。鼻シールはいつでもつけておくわけにはいかないでしょう。じゃあ触れ合うときにわざわざ鼻シールをつけて意気込んでいくのかしら。なんかそれって疲れちゃうよね」

「た、確かに」

そういった視点で考えるということが抜けていた。確かにこれはアイデアうんぬんという問題ではない。

私は自分のアイデアの不甲斐なさに気落ちして視線を地面に移す。すると、それを見た増田さんが私の背中を思い切り叩く。むせた。そしてたぶん背中にモミジが出来ているであろう。

「野うさぎちゃん、思考の幅が狭いわよ。こういうときはね、こう言い返すのよ」

そういって増田さんは立ち上がる。そして、

「これは一般家庭用ではなく、動物園の触れ合い広場などで客に渡して貼ってもらうのに使用すればいいのです!」

と、審査員にも聞こえるぐらいの大きな声で言った。

「ね?」

そして笑った。今だけは、東十条さんが羨ましく思えた。


結果は、もちろん増田さんの勝利に終わった。増田さんが審査員に聞こえるようにさっきのことを言ってくれたから、私のアイデアも企業向けとしては一考の余地ありということになった。

「だが、敗北は敗北だ。プギャー」

どこからか沸いてきた東十条さんが笑いながらそう言った。

これだから、東十条さんは嫌いだ。


こうして、私のアニマルカンパニー社での、仮入社として過ごす初めての週が終わった。



 ☆



夜。寝転びながら携帯ゲームをしていると、部屋を自由に遊ばせているラビーが近づいてくる。そしていつも通り、携帯ゲームにつけているストラップを噛んでくる。

「やめて欲しいぬぅ」

そう言いながらストラップを噛めない位置に移動させる。すると今度は腕のパジャマの裾を噛んでくる。これは遊んで欲しい、というより撫でて欲しいアピール。

私は左手で携帯ゲームをプレイしながら、右手でラビーのおでこや耳の裏のつけねを撫でる。ラビーは気持ちよさそうにしている。だが、左手だけでゲームをプレイするのは辛い。

「もう、仕方ないなぁ」

だからいつも私は携帯ゲームを置き、ラビーを撫でることに専念するのであった。


なでなでなで。

「ラビー、会社で野うさぎって呼び名つけられたよ」

なでなでなで。

「私が野うさぎなら、お前は家うさぎだな」

二人合わせて、家野うさぎ。だからどうした。


そして、夜は更けていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る