第10話 第1部 完
私はタロウ様には内緒でエレナさんと連絡先を交換し、友達になった。
旅から帰るとあっという間にクリスマスで、クリスマスの朝も私は普通にタロウ様と二人の朝食を用意していた。
「サチーっ!」
「何ですか?」
「ほら、やっぱりサンタさんは居たんだよ。ちゃんとクリスマスプレゼントを持ってきてくれたんだ」
パジャマを着たままの姿でタロウ様は嬉しそうにピカピカナイフを私に見せにきた。
まるでおもちゃのナイフを振り回す子どものように。
「良かったですね」
私は軽く微笑みながらお味噌汁の味見をした。うん、美味しい。
タロウ様のプレゼントは旦那様に何を欲しがっていたかを伝えて用意していただいたものだ。それをクリスマスツリーの下にタロウ様が寝てから私が置いた物だった。
「サチのプレゼントもあったみたいだぞ」
え? 私がタロウ様のプレゼントを置きに行った時には何も無かったはずだし、旦那様も奥様もまた旅に出られているのに……。
「ほら」
そう言うとタロウ様は小さな包みを私に差し出した。
「……ありがとうございます」
「サンタさんからだぞ」
包みを開けると赤い和風の櫛が入っていた。
「可愛い」
「サチの髪はエレナちゃんも羨ましがっていたぐらい綺麗だからサンタさんが選んでくれたんじゃないかな」
私はその櫛を両手で包んで胸元で抱きしめて嬉しさを噛み締めた。
ピンピロピンピンピン!
「ん?」
嬉しさに浸っていた私の胸元から変な機械音がした。今もらった櫛から出た音らしい。
「それ、エレナちゃんのテレビショッピングでやっていたマジックポイント貯金箱櫛だよ」
「へっ? マジックポイント貯金箱櫛?」
「胸元で想いを込める事によって貯まっているマジックポイントを貯蓄しておける櫛なんだって」
音がした櫛を見てみると、十という数字が出ている。たぶんこれはマジックポイント十が貯蓄されたという事なのだろう。
まぁ、便利っちゃ便利よね……。
嬉しかった気持ち以上に、何だか笑えてくるおかしさで吹き出してしまった。
「何吹き出してるのさ」
「いえ、幸せなクリスマスの朝だなと思いまして」
「あ、ねぇねぇ! これ見て」
幸せに浸ろうとしていたところを、タロウ様は突然リビングのテレビをつけて私にもテレビを見るように促した。
テレビにはエレナさんが、この前着ていたサンタワンピのオフショルダー姿で何か商品の説明をしていた。そして今日も、お胸がぱゆんぱゆんだ。
「エレナさんのテレビショッピングって深夜にやってるものだと思ってました」
「いつもはそうなんだよ。けれど今日はクリスマススペシャルで午前中からやってるんだよ」
今日の商品はファイヤーキャンドルというものらしい。
タロウ様が番組を見ながら朝食をとりたいと言うので、私も一緒にそのままテレビを見た。
なるほどね。この前、ルイスの山で私たちを助けてくれた雨出し傘と同じような物で、これはキャンドルから炎魔法が噴出すというものらしい。
「ねぇねぇ、あれ買おうよー」
始まった。タロウ様のおねだりだ。
「いらないですよ。炎魔法なら私も使えるんですから」
「ちぇっ」
軽くスネ声を出すタロウ様、子どもか!
けれど、暖かいお味噌汁の湯気と暖かい部屋。
クリスマスの暖かい雰囲気と暖かいタロウ様の気持ちに包まれて、改めてこの家にお仕えできて良かったと感じた。
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