第6話 周りの人のおかげ
ファンとして興奮しているタロウ様より、女の子同士で歳も近い私の方が喋りやすいのか、エレナさんは食後に二人だけでとお茶に誘ってくれた。
エレナさんは私やタロウ様と同じ歳ぐらいかなと思ったら二十一歳だと言う。ちょこっとだけお姉さんだった。
「いつ頃、家督を継がれたんですか?」
タロウ様がエレナさんのテレビショッピングにハマり出したのは二~三年前からだったはず。
「四年前からよ。うちは両親が私の幼い頃に離婚しちゃって、お父さんはずっと不安定で仕事にも身が入っていないところがあったんだけれど、とうとう四年前に蒸発しちゃったの」
なんともまぁ大変な家の事情を会ったばかりの私にサラリと話してくれる。どう反応していいか少し戸惑ってしまうぐらい。
「それじゃあ家の方もお店も方も大変だったんじゃないですか?」
「それがね案外、お父さんいなくてもすんなり回っちゃうのよ。それが少し寂しかった反面、気が付いたの」
「何をですか?」
「我が家を支えてくれていた人々、お店の従業員がどれだけ大事でありがたいかっていう事をね」
同じような事を旦那様がいつも仰ってる、『土岐高丸(私の家の苗字)の者たちがいてくれなかったら勇者家はここまでこれなかった』と。
私、それってよく世間の人が何かを成し遂げた時に「ここまで応援してくれた皆さんのおかげです」という、あれと同じようなもので月並みなフレーズで深い意味合いは無いんだと思ってた。
社交辞令とまでいかなくても、それぐらいお決まりの文句とまで思ってた。
世間の人がよく言う「ここまで応援してくれた皆さんの……」なんて、頑張ったのはその人本人なのに周りの人間にまで気を使うコメントしないといけないなんて面倒だし、大変だなとそんな事に同情していたぐらいだった。
私は旦那様から、私や私の父、そしてご先祖様たちのおかげだと感謝された方の立場だったけれど、その本当の意味合いは分かってない子どもだったのかもしれない。
けれど今、エレナさんが話した言葉は旦那様がいつも仰る事と同じような事なのに何かが私の中に衝撃を走らせた。
旦那様も奥様も、もう一組の私の両親のように私を可愛がってくれている。勇者家に仕えるという立場だと思ってきたけれど、それを嫌だと思った事、そして将来の道を変えたいと思った事は一度も無い。
それは旦那様や奥様の愛情や感謝をいっぱい、いっぱい受けてきたからなんだと気が付いた。
「……サチさん?」
「ごめんなさい。今のエレナさんの話を聞いていて、私、自分が子どもだったなぁと思って」
「子どもってサチさん、まだ若いじゃないですか」
「あ、いやまぁ、年齢的に子どもだけど精神的にはもっと子どもだったなって」
「そうなんですか?」
「人に感謝する、感謝されるということの本当の意味を分かっていなかった。エレナさんが自分の家やお店を支えてくれる人に感謝しているっていう言葉が、ただの言葉だけじゃなくてもっと深い本当のものに聞こえたから、私、気が付いたんです」
「私、そんな大きな事言ってないよ」
顔の前で手を振りながら、エレナさんは少し恥ずかしそうにしている。
テレビショッピングで見ていたエレナさんは、ぱゆんぱゆんオッパイで男性視聴者を惹きつける美少女で、女の私からしたらいけ好かないというか、あまり好感を持っていなかったけれど、こうやって直接話をするエレナさんは普通に友達になれそうなお姉さんだった。
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