第5話 社長さん
マントの街でのタロウ様の戦いぶりは、まるでニンジンをぶらさげられた馬のようにはりきったものだった。
私も一日もあれば解決出来るかな? と依頼を受けた時から思っていたけれど、もう本当にあっという間に片付けてしまった。
そんなにピカピカナイフがほしくて、発売が中止されるのが嫌なのね。
そのために予定よりも半日早くダニエルさんとの待ち合わせのルイスの山麓の宿に着いた。
「お二人がドラゴンを退治してくださるんですか? ありがとうございます」
待ち合わせの宿に着くと、ダニエルさんだけじゃなくエレナさんまでいた。テレビショッピングに出ている時と同じようにオフショルダーのセクシーな服を着ていた。しかも今着ているのはクリスマスを意識しまくったサンタワンピースデザインのオフショルダーだ。
可愛いけれど、やっぱりお胸がぱゆんぱゆんなのが目立つ。
タロウ様の視線も自然とそこに行っているので軽く耳を引っ張ってやった。
テレビで見ている感覚のままだった時は『エレナ』と呼び捨てで意識していたけれど、こうやって実際に会ってしまうと『さん』を付けずにはいられなかった。少しだけ私たちより年上かもしれない。
「エレナちゃんだ! 本物だ、やっぱ可愛いなぁ」
タロウ様は挨拶そっちのけで異様に興奮している。
「初めまして。勇者をしていますタロウと私、魔法使いのサチと申します。よろしくお願いします」
「こちらこそ、本当にありがとう。よろしくお願いします」
そう言ってエレナさんは私と握手してくれた。けれど私の事をじっと見つめたまま固まったようになってしまった。どうしたというのだろう。
「ごめんなさい、あまりに綺麗な髪だから見とれてしまって」
エレナは私の髪を見つめていたようだ。
私の髪は黒くてまっすぐで、呪いの人形のようで私はあまり好きじゃなかったんだけれどエレナさんに褒められると悪い気はしなかった。
「……ありがとう」
「社長も直接、お二人にお礼を言いたいとこちらに合流しました」
「え? エレナさんって、テレビショッピングに出ているタレントさんだと思っていました」
だって、慣れた感じで男性を惑わすようなお胸アピールの商品説明だったんだもの。
「何だか恥ずかしいです」
テレビで見るエレナさんよりも清楚というか控えめ感があるからか、ますます私はエレナさんに今まで持っていた女子としての、嫉妬のような感情が薄れていった。
「サチは知らなかったのか? エレナちゃんはテレビショッピング界の有名な社長さんの一人なんだよ」
そうだったの? 私たちと大して年齢が変わらないように見えるのに、社長さん?
「はい、社長をしていますがお二人と歳も近いと思いますし普通に接してくださいね」
そう言って、ニッコリ笑ったエレナさんはテレビで見る姿を思い出させる可愛らしさがあった。
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