第4話 相席相手

「混んでるのでこちら、相席よろしいですか?」

 私たちは二十代ぐらいの男性が一人で座っている席に案内された。

 メニューを見ながら、タロウ様に「何にしますか?」と尋ねようと見るとタロウ様は何やら失礼なぐらいに相席になった向かいの席の男性の事をマジマジと見つめていた。

 注意しようと軽く袖を引っ張ろうとした時、タロウ様は勢いよく立ち上がり向かいの男性の方へ乗り出した。

「あの! もしかしてそれって特守グローブ限定版じゃないですか?」

「ああ、ご存じでしたか。そうですよ、昨年発売した限定の特守グローブです」

 特守グローブ? それってエレナのテレビショッピングの商品だったような。タロウ様がしつこく話題にするから私も何となく覚えがあった。

 この人もエレナのテレビショッピングのファンなのだろうか? けれど、戦士や魔法使いという格好では無く、街の職人のような服装だ。

「俺も欲しかったんですけど、あっという間に売れちゃって買えなかったんですよ」

「限定数が少なかったですからね。これは正規品では無く試作品なんです」

「へぇ、試作品なんて手に入れられるんですか? ある意味、限定品より凄いですね」

「いやまぁ、これ私が作っているものなので」

「え? ええええええええー!」

 さっき、一旦腰を落ち着けたタロウ様だったのに、また勢いよく立ち上がった。ひな壇芸人より反応が良い。

「あはは、ここまで反応して下さるという事はクーパー商店をごひいきにしてくださってる方でしょうか? ありがとうございます。私、クーパー商店の技術担当をしております、ダニエルと申します」

「あわあわ、お、俺、勇者をしていますタロウと言います。クーパー商店のエレナちゃんのテレビショッピングの大ファンです」


 その後、一緒に食事を楽しみながら色々と話をした。

 元々、クーパー商店も普通の街の万屋だったところを新しい社長が目新しい商売を、という事でテレビショッピングを始めたらしい。それを機会に昔はダニエルさんの遊び心程度にしか作っていなかった特殊武器や防具をメインにしたところ、タロウ様のようなコアなファンが増えたらしい。

「ところで今回は、どちらかにご旅行ですか?」

「実は、我が社の人気商品のピカピカナイフの原材料のことで困った事が起こりまして」

「困ったこと?」

「ピカピカナイフの材料に使う鉱石がルイスの山でないと採れないのですが今、ルイスの山にはドラゴンが居座っていてその鉱石を掘り出す事が出来ないのです」

「なんですとー!」

 タロウ様はまたもや大げさに立ち上がり、ダニエルさんの方に前のめりになった。

 そういえば、ピカピカナイフといえば今度のクリスマスにタロウ様がサンタさんにお願いすると言っていた品だった。

「そうなると、しばらくは製造中止ですか?」

「しばらくどころか、いつになるか。ドラゴンは一度気に入ると何年も居座ると聞きますから、それでどうにもならないのかどうか見に行かねばと思いまして」

 ルイスの山はルイスさんという魔法使いさんが昔所有していたという山で、ダニエルさんが言っていたように珍しい鉱石が採れたり、キノコや薬草が採れる。

 ルイスの山があるルイス群の採取許可を持っている人は誰でも自由に色々な物を採取できるらしい。

 それ以外にも低めの登りやすい山だという事で観光で訪れる人もいる結構有名な山だ。

「俺たちが退治に行きます!」

「なっ、マントの街の件はどうするんですか? 受けた依頼はちゃんとこなさないと」

「マントの街が終わってからでいいじゃないか。その後は予定入ってないだろう?」

「まぁ、そうですけど……」

「ダニエルさん、三日後でどうですか? 三日後にルイスの山の麓にある宿で待ち合わせということで」

「本当ですか? 助かります。早速社長に知らせます。喜ぶだろうなぁ」

 タロウ様が勝手に決めてしまったけれど、まぁ人助けになるんだしタロウ様の勇者としての仕事としても悪くないわよね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る