第12話
予想はしてたんだけど、それ以上に、女の子がいっぱいいて、隆之介くんが登場しただけでキャーって歓声がふくらんだ。
……ああ、どうしよー。
隆之介くんはギターをつかんだ片手を軽く上げてそれにこたえる。それから手馴れた感じでセッティングを済ませるとじゃらーんと一回だけ適当なコードを鳴らした。
たったそれだけでまた歓声が上がる。
ボーカルの、これもちょっとかっこいいおにーさんが司会の銀ちゃんにマイクを向けられて挨拶している。銀ちゃんと並んだ司会のおねえさんにバンドの名前を紹介されて、歓声にこたえる。
結成二週間のわたしたちとは全然違う。
みんな落ち着いてて、はじめてのライブって感じではない。
なんだかなー。
ドラムのスティックがかっ、かっ、とカウントを取ってどどっとロックが始まった。
聞いたことある曲だ。
タイトルはわからないけど、たぶんこれってビートルズだ。あーちゃんが持ってる。うちには古いレコードもCDもよくわかんないデジタル機器もあって、いっつも音楽が流れてる。小さい時から耳にしている曲。
やば、うっま!
ギター、隆之介くん、すっごくうまいんですけど。友達作りに最近弾き始めた人とは思えない。
プロみたいな、にごりのない音が規則正しくリズムを刻んでいく。ストロークはしっかりね。あーちゃんの教えと同じ。
でも……ちょっとなんだか全体の音はばらばらっとしていて落ち着かない。観客の女の子たちがきゃーきゃーうるさいからかな。かっこいー、とかなんとかくーん、とかそういう声。
ギターソロ、隆之介くんが一歩前に出る。また黄色い声。
ソロとか弾いちゃうわけ?
うまい。すごい!
正直歓声がジャマだけど、わたしのいる舞台そではある意味特等席だ。隆之介くんの細くて長い指がネックの上をなめらかに踊るのがよく見える。
かっこいいなぁ。
いやあ、参ります。
勝負とか、わたしも無茶するなあと思った。相手の実力も知らないで、何やってんだろう。
……。
歌っちゃえ。
この歌知ってるもん。歌詞は何となくしか、雰囲気しかわかんないけど、いいんだもん。あーちゃんもよくテキトーな歌詞で歌ってるし。同じ聞いてるなら、負けそうって思ってるより楽しく聞いた方がいい。
だってかっこいいんだもん。
ロックかっこいいね。うん。楽しい。
あーちゃんがよく「この小指がたまらんね」という音。小指の意味がよくわからないけど、あーちゃんが喜ぶビートルズと同じ音を隆之介くんの指が鳴らして曲が終わった。
女の子の歓声と一緒にわたしも舞台そでで拍手をしていた。
「出番だ、いこー」
レンが硬い声で言った。
わたしは二人の腕をつかんだ。
「隆之介くんたちかっこよかったね。一緒の舞台でやれるのちょっとすごいよね。勢いではじめちゃったけど、ここに来てよかったと思わない? 」
二人がわたしの顔をみて一瞬固まってから、笑った。ヒナタのちょっと吊り上った目と、レンのちょっと垂れた目が、おんなじように細くなる。たぶんわたしもおんなじ顔をしている。
「そーだな」
「どうせやるなら楽しくなきゃね」
「自信持って、顔上げて、笑って、元気に。今日はお祭りだっ」
今日は怖くない。引っ張ってくれるあーちゃんはいないけど、一緒に緊張したり笑ったりしてくれる二人がいる。
銀ちゃんにマイクを向けられて、わたしはつい銀ちゃんに抱き着いた。イヤほらだって、地元のアイドルだよ? 銀ちゃんだよ? 限定品のタオルもヌイグルミもうちわも持ってますから。
銀ちゃんに頭をなでられて会場から笑いが起こった。
やば、恥ずかし。
スタンドを低くしてマイクを自分の口元に合わせて、照れ隠し。
「だって銀ちゃんひとりじめの貴重な一瞬ですから」
マイクでしゃべると声がおっきくてびっくりした。
「えーと、わたしたち、ロータスです。楽しんで聞いてください」
三人でじゃんけんして決めた名前を名乗った。レンが勝ったから、蓮の英語で、ロータス。わたしが勝ったらドルフィンで、ヒナタだったらサニーサイドだった。
「ルカ……それ司会さんが言ってくれてるから。自己紹介いらないよぉ」
ヒナタは小声で言ったつもりでも、コーラス用のマイクがしっかりその声をひろっててまた笑いが起きる。
「ばかヒナ、つっこみいらない……あ」
そういうレンの声までしっかり会場に聞こえてて、くすくすいう声が続いた。
なんか、わたしたちかっこ悪いなあ。
ま、いっか。
「こんな感じの三人ですがよろしくお願いします」
「はーい、じゃあ準備できたかな、今回最年少の五年生三人組ロータスで、曲はビーマイベイビー! 」
テンション高めの声を残して司会のお姉さんがすうっと舞台そでに消える。
わたしは客席をまっすぐ見た。
うん。
レッサーパンダじゃない。グレムリンでもない。みんなどっかのお店の袋を片手にお祭りを楽しんでる。
だん、だだん。だん、だだん。
レンがバスドラを気持ちよく踏み鳴らした。
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