第3話

8回の裏、2アウト2.3塁。

アレックスはベンチで佐藤の打席を見つめていた。その顔にはイラつきと諦めの表情が滲み出ているのが見てとれる。

アレックスはなぜ自分を代打として出場させてくれなかったのか自問自答していた。


考えられる理由は2つあった。1つ目は、アレックス自身の問題だ。

確かに助っ人外国人として入団したものの、母国とは違うプレースタイルに初めは調子を狂わされていたのは事実であった。

しかし、それも最初のうちであり、慣れれば2軍で3割を超える打率をキープできるようになった。

それが打撃コーチの目にとまり、1軍昇格となったのであった。

だから、言うまでもなくアレックスは今絶好調なのだ。アレックス自身もそう感じていた。アレックスに問題があるとは思えないと彼自身も思っていた。


となると、もう1つの理由になってくる。もう1つの理由とは今打席に立っている佐藤の事だ。

彼は今日引退試合らしい。

そう通訳から聞いている。彼がこのチーム一筋に何十年も尽くしていたのは知っている。

しかし、もう3打席も凡退しており、チームとしても勝たなければいけない試合でなぜ彼を打席に立たせるのだろうか。

アレックスにはやはりそれが分からなかった。

そんなことを考えていると、完全に打ち損じた打球音が聞こえた。

どうやらダメだったらしい。

「やっぱりな。」

アレックスはそう1人で呟いてベンチ裏に入っていった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る