第2話
「高崎監督。どうしますか?代打であれば、アレックスが最近調子を上げていて良いと思いますが。」
長田バッティングコーチが聞く。
「いや、佐藤に行かせる。」
おれは迷いもなく答える。
今日が大切な試合なのは分かっている。しかし、そんなことより一チーム一筋でプレーしてきた功労者の引退試合なんだ。代打なんて出すものか。
「そうですか。もし打たなかったら明日あのスポーツ紙にまた書かれますね。」
長田は苦笑いで言った。
それは知っている。しかも、佐藤はきっと打てないだろう。それでも彼はこの打席に立つべきなのだ。
高崎もまたこのチーム一筋でプレーしてきた選手であった。佐藤の二年後輩にあたる。現役時代は選手会長を務めた時期もあり、今は監督としてチームのために手腕を発揮している。
そんな高崎が一つだけ現役時代に悔いに残る出来事がある。
忘れもしない6年前のあの日、彼の引退試合の最後の打席。彼は代打を出された。チームの優勝のためなのは分かっていた、仕方なかったのだ。その時はそう思っていた、しかし引退してからそのことが忘れられなくなっていた。彼が野球を忘れられず監督として舞い戻ったのもそのためだ。
佐藤さんにはこの気持ちを味わって欲しくない。最後まで悔いなく終わって欲しい。それが高崎の思いであった。
監督として佐藤に打席に立つように伝えた。打席が出されるだろうと思っていたらしく、彼自身少し驚いていたがその後ありがとうと言った。
そう、それで良いんだ。最後くらい自分のために打席に立つのも良いと思うんだ。
「自分のためでなくチームのために打席に立て。」
高崎が選手会長に初めて就任した年、前選手会長、佐藤に教えてもらった言葉を思い出しながら高崎は佐藤を打席に見送った。
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