Mr.ライトフライ
@raimugipanpan
第1話
8番レフト佐藤。
ウグイス嬢がコールする。歓声はまぁ最近の中では1番だろうか。一応現役選手の引退試合だもんな。
8回裏、2アウト2、3塁。
おれたちは3-2で負けている。本当は代打が出されると思っていた。チームとしてもこの試合は落としたくないからだ。
おれたちのチームは5年ぶりにAクラスがかかった順位に位置している。相手のチームはそのAクラス争いを8月からして来たライバルだ。それでも監督はおれを打席に立たせてくれた。自分のためにもチームのためにもここは打ちたい。
思えば18歳で、自分で言うのもなんだが期待のスラッガーとして入団し、この球団一筋でやってきた。一時期は4番を打っていた時期もあった。全てが変わったのは30歳の時死球で腰を痛めてからだ。それ以来自慢のパワースイングが出来なくなった。その頃からだろうかあのあだ名をつけられるようになったのは。
Mr.ライトフライ。本当に忌々しい。初めにこの名前をつけたのは地元のスポーツ紙だっただろうか。いつからかおれはこう呼ばれるようになった。
しかし事実なんだ。おれは本当にライトフライしか飛ばせない。でも今日は違う、今日は違うってところを見せてやるんだ。
打席に立つ。自分の今日の成績は3打数全て三振。さすがに現役最後の打席くらい三振では終わりたくない。
相手のピッチャーは先発から変わった2番手のルーキーだ。キレのある変化球を武器に今シーズンメキメキと頭角を現した選手でもある。
おれたちのチームの応援歌が聞こえる。なんだか懐かしいメロディだった。
相手が振りかぶった。狙いは初球。
間違いない、ストレートだった。
おれは全身でバットを振る。引退試合なんだ、最後くらい奇跡を起こしてもいいだろう。
しかし、ストレートであるはずの球はおれの内角にえぐれるように曲がっていった。おれは完全に不意をつかれたようにへなちょこなスイングになる。
バットに当たった。しかし完全に打ち損じた。走りながら打球の行方を見る。間違いない。ライトフライだ。
奇跡なんて起きるはずがないよなぁ。
そう思いながら、おれは現役最後のベースランニングを始めるのであった。
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