三度目の……
「……寒」
会社からの帰り道、コーヒーを飲んで呟く。
普通に大学を卒業し、普通に就職をして今ではサラリーマンだ。
あれから黒服バンドの三人との交流は殆どない。ハルさんの卒業式くらいだったろうか。
その時も成瀬さんは来れず、成瀬さんとの交流はあれ以来無いと言っていい。
人の足音、喋り声、カラスの鳴き声や工事の音、様々が入り混じる帰り道を俺は鼻歌交じりに歩く。
俺の鼻歌は周りの雑音に掻き消され、誰かに対して届く事は無く雑音に混じりこむ。
他の人が出す音もそう。俺の耳には雑音となって届く。
そんな中、ハッキリと聞こえたその音に俺は立ち止まる。
聞こえてきたのは俺よりもハッキリとした鼻歌。
決して大きな音では無い。寧ろよく聞いてもわからないくらいの小さな鼻歌だろう。
しかし俺の耳には届いた。パッヘルベルのカノン。しかも少しアレンジが加わっている。
「まさか……ね」
ため息混じりに小さく呟きながらも、俺は進路方向を変える。
進路方向を変えた瞬間、すれ違った。
心の中でため息をつく。どこまで一途で単純なんだ、俺は。
少し大人びているが、歳にしてはまだ幼い顔、少し伸びた黒髪のセミロング……変わっているが変わらないその姿を見た瞬間、俺は……
三度目の一目惚れをしたのだった。
黒服バンド-カノン四重奏- ナガカタサンゴウ @nagakata
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