キッズケータイ
小学四年生男子の間で、己の携帯電話を持つ子が増えた。
公園から公園へ、はたまた昆虫を求めて遠くの大きな公園へ、いやカードショップへ、と自転車で校区外へ集団移動をすることが増えたものだから、「親の知らない場所」に行ってしまう不安も大きくなる。うちでもとうとう、キッズケータイを契約してきた(夏休みの間には行こうねと言っておきながら今というのんびり具合であるけれども)。
昔のたまごっちのような形状の、画面も昔のゲームボーイより小さな、防犯ブザーつきの機種――お店の人は「小学校低学年くらいが対象ですかね……」と仰っていたが他の機種の値段を見た夫がこの種類に決め、息子が色を選んだ――ものではあったが、まるくてつやつやの、真新しい「自分の携帯電話」が嬉しかったのだろう、夫と息子との間で試しに電話をかけあった後で、ショートメールってなに?どうやるの? という声が聞こえ、風呂から上がった私の携帯電話には、息子からの着信が三件、録音メッセージ(ただし無言)が何十秒か吹き込まれたものが二件、ショートメールで「おかあさんだいすき」さらに時間をおいて絵文字で「あっかんべー」されたものが、その次に「にっこり」笑った絵文字が入っていた。
そうかそうかそんなに試したかったか。
試したいよなあ、わかるわかる。
寝室を覗いてみれば蛍光灯をつけたまま、父子ともにパンツ一丁で熟睡していた。くたびれたのだろう。息子の枕元には、青くてまあるいキッズケータイ。
やれやれ、と、開いたまま放置されている携帯電話の箱から、他の機械と線をつないで寝室のコンセントに挿し、機械にキッズケータイを押し込んだ。
一呼吸、二呼吸おいてから、充電中の赤いランプが灯る。
私はほっとして寝室の明かりを消した。
ニンテンドー3DSと一緒で、充電しないと動かないんだよ……。お店で見た段階で充電残量が減っていたからね。明日のために勝手に充電しちゃうよ。
おかあさんだいすき、に応える返事を送って、息子の携帯電話番号を己のスマホに登録した。
さて、他の子みたいに、首から提げられるようストラップを仕立ててやろうかね。
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