性癖

 色鮮やかで、つるんとした、まるい物に弱い。

 フユサンゴの実を見かける時期になると、しみじみと思う。

 そんな時期に鉱物即売会の祭典があって、いそいそと出かけてしまい、色鮮やかでつるんとした磨き石や、結晶の断面の鋭利なきらめきや、熟練の職人さんがカットした石の底から立ち上る光に、目を奪われてしまう。下手をすると魂まで奪われて鞄から財布が出ることもあるし、時間もすっ飛んでいって、ちょっと一回りしてからお昼ご飯をと思っていたら三時間を過ぎていたりする。

 くたびれはするけれど「眼福」という言葉のとおりに、幸せな気分のまま、帰りの電車に乗る。始発だから、並んで待てば、座って帰れるし。


 しかしながらもうひとつ弱いものがあって。

 自分よりしんどそうな人がいたら、尻がもぞもぞして落ち着かなくなるのだ。

 人によっては「この偽善者が」と罵りたくなるだろうが、自分からすればこれを気にせず座っていられる人のほうが羨ましくもある。

 たとえ、団塊の世代くらいのおじさんおばさんの三人組が座席すべて埋まっている状態の車両に乗り込んできて、おばさまが「次のにしましょうよ」と気弱に意見したらおじさんたちが大丈夫大丈夫と言いだし、「若いもんの前に立って、座りたいと言って立たせりゃいいんだよガハハ」などと大変傲慢に聞こえる言い方をしていたとしても――後で夫に報告したところ「おれならそんなん無視するわ」と切り捨てたし実際に他のどなたも一切動こうとしなかった――放っておけなくなり、おばさまのところへ歩いていって、よければどうぞ座ってくださいと言ってしまう。だって背が丸まってくたびれていらっしゃるのだもの。

 おばさまはためらっていらしたが、おじさんたちに促されて、私が誘導した席に座った。ほんとうは三人ともどうぞと言いたかったのですけど、お尻が一つしかなくって、残念です三つに割れてればよかったのに――とぼやいたらやっと笑ってくださったのでほっとした。

 実際の「若いもん」でも譲りたくない時だってあるし、表には出ないだけで譲れない状態の時だってあるのだ。おじさんたちに説教してやろうと、思い立ったのは駅を降りてからだった。遅い。私が座っていた席の近くの人たちは、そのまま座っていられただろうか、私が余計なことをしたせいで、もやもやしなかっただろうか。それも気になって、私のほうがもやもやした気分のまま、駐輪場に向かって歩いていたら、フユサンゴの実が道の端でつるんと輝いていた。

 日暮れ近く、立地のために薄暗くなったところでも、あのオレンジ色は目立つ。

 石のカーネリアンは真冬の夜の暖炉のような、暖かみのあるオレンジ色だった。穏やかな、にじみ出るような色のオレンジとはまた違う、鮮やかな実の色だった。もやもやなんて吹っ飛ばしてしまいそうな色にほっと心をなぐさめられて、また駐輪場に向かって歩いた。

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