フユサンゴ
フユサンゴのオレンジ色の実を見かける時期になった。
薄暗がりの植え込みの合間に見かけることが多い。色鮮やかなオレンジ色の、つるんとした、まるい実が、フユサンゴの実。名前を知ったのは大人になってからだった。
子供の頃、田んぼに水を流し込むための水路沿いにフユサンゴの木が植わっていたことがある。
子供の自分の膝よりも低い木で、飴玉か宝石のような、つるつるまんまるの実をつけ、濃緑色の葉を茂らせていた。幼い私にとって、コンクリートやアスファルトで固められたまっすぐの道沿いに、一本だけぽつんと植わっている光景はとても神秘的だった。たんぽぽのように綿毛を飛ばして生える草でもないのに。種か。オレンジ色の実の中に種があるのか。種があるとしても何故こんな所にわざわざ根を張るのか。
ひとりで友達の家から帰るときに、オレンジ色の夕暮れの日の中で、実をもぎとって指の間でくるくる回して眺めたこともある。夕日の中でなお濃く輝くまんまるの実は、神々しくさえあった。
水をきらしてはいないか心配になって、足元の水路に手をつっこみ、木のてっぺんから水を降らせると、水は淡く黄色い光になって、きらきらと飛び散った。木の根元のコンクリートが水を吸って黒くなるまで何度か水をやると、満足して、頭を垂れ始めた稲穂に囲まれて、私は立った。足元を水が流れていく。水の表面でオレンジ色がゆらゆら跳ねた。
ある時、あの木が根元からごっそりなくなっていて、……傍の田んぼの持ち主か、溝掃除の日に集まったおじさんおばさんが、雑草と一緒に刈ってしまったのだろうけれど、……あの実を家に植えていれば、家で育てることができて、こんなに残念な思いはしなかったろうに、と後で悔やんだのだった。
夕焼けのアスファルトの道に、一本だけまあるく茂る、濃緑色の木。実は夕日よりなお明るく、オレンジ色で、丸い。
あの姿は今も、忘れていない。
園芸店で「フユサンゴ」と書かれた札と、あの時の木と同じものに出会うたび、家でも育ててみたいと思うのだが、出会うタイミングがいつも盆帰省前の、直射日光が庭をじりじり焦がす時期で。家に迎えるなり枯らしてしまうのではと気が気でなく、未だに手を出せていない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます