七夕の短冊
息子の通っていた幼稚園では、短冊に「将来なりたいもの」を書いていた。
短冊は子供たちが工作の時間に用意するらしく、画用紙を彦星や織姫をかたどって可愛らしいお人形の形にしたり、星のかたちに切ったりしていた。先生が園児ひとりひとりになりたいものを聞いてそれぞれの短冊に代筆し、園児名を書き添えていた。
七夕が近づくと園の戸口に天井まで届く笹が立てられ、私たちの頭の上で、無数の星がひらひらと風になびいていた。送り迎えのために園にやってきたお母さんたちは我が子のもおともだちのも、探して読んだ。
年少さんの時の、息子の願い事は「てつぼうになりたいな☆」だった。
てつぼう? てつぼうって、あの鉄棒よね? 園庭にある遊具の鉄棒よね? と、周りのお母さんたちに確認してしまうくらい、息子のチョイスは謎だった。せめて哺乳類にならないか。それが無理でも有機物。
しかし眺めていると、いくらぶら下がっても叱られないし潰れることもない、しっかり地面に腰を下ろした鉄棒は、息子にとって「全幅の信頼のおけるもの」「強いもの」だったのかもしれない。
年中さんの時は「でんしゃのうんてんしゅになりたいな☆」だった。
よかった。人間だ。しかも職種を指定だ。
電車大好きで、特に近くを通る鉄道会社の電車が好きで、同好の士であるおともだちとは日々マニアックな会話を繰り返していた。池袋に運転士の学校があるから入学するといいよ! と周りのお母さんから教えられた。大変現実的な流れになってきたな……と思ったが、鉄道マニアの中でもよりすぐりの精鋭が集まる学校って入学するのは難しいのではあるまいか。よう知らんけど。
年長さんにもなると、おともだちの前で先生に自分の夢を話すときは、周りが気になるし周りに合わせてしまうのかもしれない、と、「サッカーせんしゅになりたいな☆」と書かれた他の子の短冊の間に埋もれた、息子の「サッカーせんしゅになりたいな☆」を見上げて思った。
おまえ、サッカーせんしゅとか、一言も言うてなかったやんか。
サッカーを習っていたが、息子は「はしったらつかれる」「はしらなくていいから」とゴールに立つことを選び、ゴールで仮面ライダーウィザードのポーズをとり、ポーズを決めている間にシュートされたボールを取り逃がしてしまうような子で。
短冊を見た翌週、ポケモン映画を観に行ってマクドナルドで「さいきょうのポケモンになりたい」と言っていた。こちらが本音だったのだろう。
今日、別のスポーツ系習い事のロビーに笹があり、子供たちがめいめい用意された短冊に願いごとを書いていた。そこの習い事に限らず、ピアノの演奏会のこととか、好きな子と結婚したいとか、可愛らしいお願い事がいっぱいあったのだけど。
自分も書く、とマジックを手に取った息子が「デュエマの大会に出てゆうしょうできますように」と書き、一緒にいた子たちに「よりによってデュエマとか」「しょうらいのゆめを書くんだよ」と揶揄されていたが、息子は「これがしょうらいのゆめだから」と言い切り、一番高い枝に短冊の紐を引っかけようと背伸びしていた。
年長さんの頃は周りを気にしていた息子も、小学四年生になって、周りを気にしない強さを手に入れたのだな。それを将来の夢にすんな、というつっこみはあれども。
強くなったねえ、と思いながら私もマジックと短冊をお借りし、「息子くんがもう少しまじめにレッスンを受けてくれますように」と書いてきた。サッカーの頃からそこだけは進歩してない。習い事に真剣に向き合ってくれる日はいつですか。
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