アイのミツに濡れる

 五月雨さみだれに街は濡れていた。傘を差して、大学の大通りを行き交う学生達。ダンスサークルに顔を出そうと思い、私は着替えを済ませて体育館に入った。既に学生達が練習をしていた。


「おはよう」


同じ学年のサークル仲間の女の子河北卯月かわきたうづきが壁際で見物していた。


「おはよう」


私も同じように壁際に座り、その練習姿を見ることにした。

ジメジメとする空気は体育館の中にも漂っていた。ただ立っているだけで汗ばんでくる。


「はあ……もうすぐサークルにも出られなくなるねぇ」


 卯月がしみじみと呟く。


「そうだね」


「大学祭が私達の最後の舞台になるかもね」


「でも、ダンスはやれるんじゃない? 社会人になっても」


「そうだけどさぁ、こんな風にみんなとダンスできるかどうか分かんないじゃん」


「かもねぇ」


「あ、そっか。ダンス教室に通えばいいんだよね?」


「ダンス教室ねぇ~。どんくらいかかるんだろう?」


「あ、それがあったかぁ」


 卯月は頭を抱える。


「安い所なら探せばあるでしょ」


「ダンス教室に通えるお金を確保できる仕事に就かないとなぁ。それかー、ダンス教室を自分で開いちゃったりね」


「え!? 自分で開くの?」


「良くない!? 自分のダンス教室」


「卯月のダンス教室かぁー」


 私は苦笑いを浮かべる。


「何でそんな嫌そうな顔すんのー?」


「いやだってさー」


「なに?」


「卯月が指導してたら生徒が置いていかれそうな気がする」


「うっ……痛い所を」


 卯月はダンスサークルの中でも一目を置かれている。だけど、人にダンスを教えるのは苦手なのだ。それを本人も自覚しているようで、渋い表情をしている。


「あ~! 手頃な値段でダンスできたらいいのになぁ」


「お金があっても時間があるかどうか」


「そういうのは無理矢理作るのが大人でしょ!」


「そう?」


「そうよ! 仕事だけの日々なんてあり得ない! ノーダンス、ノーライフ!」


「全然カッコよくないよ?」


「うるさいなぁ~」



☆ ☆ ☆ ☆



 サークル活動を終え、卯月を含めた女友達と一緒にカラオケに行くことになった。私は久々に女同士で楽しもうと大学を出た。


何を歌おうかと考えながら友達と歩いている最中、私の携帯が鳴った。

私は携帯をポケットから取り出し、画面をつける。佐々木君からのメールだった。


『今日会える?』


私は少し思慮してメールを返した。


『ごめん、今日はいいや』


私は携帯をしまってカラオケ気分を楽しもうと思った。

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