禁断

リソウの始まり

 私達のカンケイにはルールがある。


 手を繋がない。キスをしない。体のカンケイにならない。恋心を持たない。おおやけの場ではソフレの話をしない。好きな人ができて、付き合おうと思っているなら付き合う前にお互い話しておく。カレシ、カノジョを無断で作らない。


これが私と佐々木君の間で交わしたソフレカンケイのルール。これを破るのが普通。でも、佐々木君は破らない。佐々木君も私と同じようにアイを求めているから。

彼も以前からソフレをしていた。それを知ったのは4ヶ月前、冬の足音が近づいてきていた12月のことだった。


 冬の匂いが辺りを包み始めた頃、学科のゼミで親睦会が開かれた。ゼミの先生が奢ってくれるというのでちゃっかりついていく。そのゼミ仲間には佐々木君もいた。

7人くらいの学生と1人の先生で小さなパーティーを開いた。場所は個室のあるレストラン。クリスマス仕様に染められた店内の中、こんがり焼き上がったチキンやまるごとトマトの入っている薄く黄色に染まったスープなどがテーブルに並び、ちょっと忘年会っぽくなってないか? とか細かいことを考えながら談笑に花を咲かせた。


 偶然佐々木君と帰り道で2人きりになった。その頃はまだあまり話したことがなかった。微妙な気まずさを携えて、お互いに気を使いながら話していたように思う。

すると、私達の前に見覚えのない女性が立ち塞がった。私は高校の時と少し被る状況に恐怖を覚えた。佐々木君は「早恵さなえちゃん」と言葉を漏らした。

早恵と呼ばれた女性は可愛らしい風貌だったが、眉間に皺を寄せて私を一瞥いちべつした。


「この人誰?」と佐々木君を睨みつける女性。佐々木君は困惑しながら「同じ大学の子」と答えた。「付き合ってるの?」と敵意のこもった声で女性が問う。「違うよ。こんな所まで来るなよ」と佐々木君は鬱陶うっとうしそうに顔をゆがめた。

私は「席外そうか?」と佐々木君に聞いた。「ごめん」と佐々木君に返された私は、女性の横を足早に通る。


 女性と佐々木君が話し始めた。私はそれを背にして離れていく。「もう一度やり直したい」とか「分かってよ」など、女性は佐々木君に懇願こんがんしている。



元カノ?



私は想像を膨らませてしまう。聞き耳を立てていたら微かに‶ソフレ″という言葉が聞こえた。

私はどうするか迷った。少し罪悪感はあったが、私は角を曲がった瞬間走り出し、回り込んでもう一度2人が話し込んでいる道に戻った。私は陰から覗いて聞き耳を立てる。


女性は感情的に声を荒く張り上げていた。


「お願い! 私と付き合って!」


「いい加減にしてくれよ。君とは付き合わない」


「ルールを破ったことは謝る。でも好きになっちゃったんだもん。しょうがないじゃない!」


「しょうがなくないよ。ルールを守れないってことは、君はしょうがないと言って他の男と寝るんだろ」


「そんなことしない。信じてよ!」


「もうやめよう。君も早く次の男を見つけてくれ」


「あなたはいいの? ソフレがいなくなって」



 やっぱり聞き間違いじゃなかった。ソフレだった? 佐々木君が?



「心配してくれてありがとう。でも大丈夫だから」


佐々木君が振り返ろうとした。見つかると思った私は覗くのをやめた。


「もう、私にチャンスはないの?」


「ああ……さよならだ」


足音が近づいてくる。私はすぐ近くにあった美容院に入って、出入り口の前にあった大きな観葉植物に隠れた。

道を歩いてく佐々木君の背中がショウウィンドウから見えた。その時、私は佐々木君をソフレ相手にしようと決めた。


 後日、佐々木君と同じ講義で隣に座った。私は講義を受けながら行動を開始した。

ノートの端に『ごめん。この前の話聞いちゃった』と書いて、佐々木君に見せた。

佐々木君は驚いた顔をして固まった。『私もしてるの。ソフレ』と続けて書いた。

佐々木君は少し考えた後、自分のノートの端に書き始めた。そこには、『今日時間ある?』と書かれていた。

その日の夕方、私と佐々木君は話し合い、ソフレのカンケイを始めた。

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