純粋なカイカン
私はソフレについて色々調べた。知りたかったのはカンケイの作り方と周りとの兼ね合いだ。
"ソフレ"
添い寝フレンドの略。異性と添い寝をするだけのカンケイ。体のカンケイもなく、キスもしない。
ソフレのコミュニティサイトを見つけた。私は質問を書き
ソフレ経験者の人達から色々な話を聞けた。
相手はやはり身近な人のようだった。添い寝するなら性的な物を求めようとする人の方が大半だろう。だからこそ、ソフレ相手は知っている方がいい。同感だった。
ソフレは体のカンケイを持たない。キスもしない。これは大原則らしい。他の意見では手も繋がないらしい。異性の友達とは普通手を繋がないからかもしれない。
ただ一緒に寝るだけのカンケイでも、やっぱり友達以上のことをしていると認識せざるを得ない。そんな後ろめたさもあって、周りにはバレないようにしているらしい。中にはカレシ、カノジョもいるのにやっている人もいた。
バレないこと。ソフレのカンケイが誤解を受ける可能性があるからなのはすぐに分かった。一緒にベッドに寝るだけのカンケイだから、と下手な言い訳で首を縦に振る人はいないだろう。
密室で、ベッドに寝ている。その後の展開をどうしても想像してしまう。交際相手がそんなことをしているなんて聞いたら、疑心暗鬼になるのは当然だ。それを分かった上でやっている。
理由はとても単純だった。寂しい、不安。私にも共通する単語が胸をときめかせた。
ソフレ相手に求めるものは様々だったが、要は都合のいい友達以上恋人未満のカンケイが欲しい。恋愛関係の中に求める理想があり、それを叶えてくれる人。それをお互いにルールとして明確に、または暗にそういう関係性を作っているらしい。
ただリスクもある。どちらかがルールを破って、ソフレ以上のカンケイを求めるのだ。それを抑止する意味でも身近、頻繁に顔を合わせ、2人の間に他者の目がある人と、ソフレのカンケイを結ぶのがいいらしい。
またカレシ、カノジョがいる人は好きな人がいるからソフレ相手にキス以上のことを求めないらしい。好きでもない人ならキス以上のことをしたいと思わないから。
私は半信半疑で様々な意見を聞き終え、掲示板から退出した。
私はどうするか考えた。まずはきっかけ作り。
学校に話を切り出せる男友達はいない。元カレのこともあり、学校の男はない。
そうなると、他に身近な男性がいるのはバイト先しかなかった。
☆ ☆ ☆ ☆
ソフレ相手を見定めるのに1週間かかった。
私の高校の時のアルバイト先は書店だった。学生やフリーター、主婦が多く、結構同じ世代の人がいて、働きやすかった。
その中で仲が良かった同じバイト仲間の
爽やかで親しみやすい人だった。優しそうな雰囲気を持った彼に、私も好印象を抱いていた。私だけでなく、バイト仲間や社員さんのフォローもできる人で、頼りにされているのがよく分かった。現在カノジョはなし。ソフレ相手には適材。
私は宇野さんによく相談に乗ってもらっていた。私が高校生で1人暮らしをしていることを知った宇野さんは、私のことを心配してくれていた。私はいつものように宇野さんに相談を持ちかけた。
私と宇野さんはバイト終わりに近くのカフェレストランへ立ち寄った。私はブイヤベースとチーズと6色のたっぷりサラダを頼んだ。バイト終わりの食事は凄く美味しかった。
私は進学の悩みを相談した。宇野さんは真剣に聞いてくれていたが、本当の目的は違う。私は申し訳なさそうな表情を作って切り出した。
「今晩、一緒に居てもらえませんか?」
宇野さんは動揺した様子だった。
「え、どういうこと?」
「家の周りをうろついている男がいるみたいで。窓から外の様子を見たら、物陰から私の住むマンションを見ている男が見えて。それと、時々つけられているような気がするんです」
「警察には?」
宇野さんは深刻な顔で聞いてくる。
「いえ、警察に電話したら何かされそうで……」
「分かった。ボディーガードするよ」
「ありがとうございます」
宇野さんには悪いと思ったけど、当時の私にはこれ以外の方法は思いつかなかった。レストランを出て、私は宇野さんと肩を並べて歩きながら私の自宅へ向かった。
この知らない土地に引っ越してきた頃、暗い夜道を1人で歩くのは本当に怖かった。ニュースで誘拐や殺人の被害者が同じくらいの年の子が出ているのを見るけど、一緒に暮らす家族がいるのと1人暮らしをしているのとでは受け取る印象が変わってくる。
この安心感。何より信頼できる人がそばにいるだけで、夜の道の景色に深みがあるように見えてくる。遠くで聞こえてくる猫の縄張り争いの鳴き声は私と宇野さんの表情に笑みをくれた。
私はドアを開け、1人暮らしの部屋に初めて男性を入れた。「どうぞ」と言った私の声は微妙に発音がおかしかった。宇野さんの背中を見送り、緊張気味な手でドアを閉めて鍵をかけた。
私達は2つのコップをローテーブルに置いて、学校のことや宇野さんの大学の話などで会話を弾ませた。
私はタイミングを計っていたけど、楽しくなっていた。いつもの退屈な私の部屋なのに、いつもより明るく見える。宇野さんの顔から目を離せなくなっていた。
でも、私の渇きが潤うことはなく、心は水を欲するように泣いた。今にも飢えて死にそうな人がそばにある水辺に這って近づこうとする。飢えた心はそんな状況になっている。私はそれを自覚し、恋の幻を頭から振り払った。
私は宇野さんの目を見つめた。宇野さんの名前を口にして、瞳に熱を込めた。
「お願いがあるんです」
「なに?」
「添い寝してくれませんか?」
「……え?」
「あの、我が儘なことだって分かってるんです。でも、何もしないでほしいんです。ただ添い寝だけ、してくれませんか?」
私は嘘と真実を混ぜた不安をぶつけた。これで私を見る目が変わる。それは覚悟の上だった。
リスクのない決断なんてない。求めるものが現実的でないほど、リスクはつきもの。私は無言の部屋の中で、宇野さんの言葉を待った。
宇野さんは微笑を零した。
「不安だったんだろ? いいよ」
私はローテーブルの下で強く握っていた両手を
「ありがとうございます」
「じゃあ寝てみる?」
「はい……」
私と宇野さんはベッドに入った。宇野さんはどこか余裕げだった。それは包容力のある宇野さんの人柄が表れていた。理解されないお願いかもとビクビクしていた私は、緊張から解けた体の反動で動きがぎこちなかった。
自分の部屋なのに、私が緊張している。その状況がおかしくて、自嘲したニヤニヤが止まらなかった。
「横になればいいんだよね?」
「はい」
「じゃあ……」
同じベッドで同じ毛布に包まれている。足と足が時折触れ合う。仰向けで毛布を口元まで引き上げた私は、ベッドの中で体勢を整えた。宇野さんは横向きで私を見ていた。
「寝ていいよ」
「はい。変なお願いして、すみません」
「いいよ」
甘い吐息は耳にかかりそうでかからない。私は宇野さんに少し身を寄せた。
「明日、何かありますか?」
「なんで?」
「その……無理、させてませんか?」
「明日は何もないよ」
「じゃあ、泊まってくれますか?」
「うん」
私は降りてきた喜びを胸に抱いて目を瞑った。脈打つ心臓の音が早い。熱くなる体は、私を眠らせてくれなかった。
どれくらい経ったか分からないくらい目を瞑っていた。私は目を開け、隣を見た。宇野さんは静かな寝息を立てて眠っていた。人の寝顔を盗み見るのは背徳と興奮に焦がれていく感覚があった。
電気をつけたままだった部屋の天井を見上げる。多幸感の波が体の下から押し寄せてくる。
宇野さんを信頼して良かった。待ち焦がれた
宇野さんが急に動いた。私はびっくりして動けなかった。宇野さんは寝返りを打ち、私の体に身を寄せるカタチになって、うつ伏せで寝始めた。
急接近してきた宇野さんの顔がすぐ横にある。近い。息を止めていた私の背筋を駆け上る電気のようなカイカンを噛みしめた。寝息のかかる頬は痺れていた。
私は毛布から少し出ていた宇野さんの手にゆっくり触れた。心地よい温もりとカイカンに身を
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