第8話 追撃
◇◇◇―――――◇◇◇
『………我々は〝リベルター〟。地球による独裁支配より宇宙を解放するために設立された、私設軍隊である。
我々の活動目的は3つ。
一つ、宇宙植民都市を地球から政治的・経済的に独立させること。
一つ、宇宙移住者たちの安全を確保し秩序を取り戻すこと。
一つ、人類がこれまで築き上げてきた、正義と道徳を執行すること。
地球による、地球重視の政策によって宇宙植民者が得るべき富や資源は全て地球へと流失し、結果として宇宙植民都市では貧困・暴力が蔓延する結果となった。我ら〝リベルター〟は、この前時代的事態を解決するべく、地球による独裁支配を打破するだろう。
繰り返す。我々は………』
「もういいッ! 通信を切れ! ただの録音通信だ。それより〝アーマライト〟の発進を急がせろッ!! 東ユーラシア艦隊に先を越される訳には………」
5隻のビショップ級航宙打撃艦から次々と光点が……新型戦闘用デベル、IGF-2000〝アーマライト〟が緊急発進していく。
UGF(統合政府軍)第4艦隊。地球―月航路上の安全確保を担当する、USNaSA系の宇宙艦隊である。艦隊総司令官はセイグ・オリアス・イスニアース准将。まだ28歳と若手ながら、その力量と………USNaSAの名門、イスニアース家の長男であることから、艦隊総司令官を任された男。
旗艦〈ヴォーデン〉のメインスクリーンには、地球―月航路上の資源小惑星兼中継ステーション〈GG-003〉の姿が大写しとなっていた。
その時、資源小惑星からいくつもの光点が放たれる。
旗艦ブリッジに響き渡る警報。
「そ、総司令官! 〈GG-003〉からデベル7機発進!」
「機種特定を急げッ! 停止と武装解除を………」
「これは………UGF艦隊所属機です! 東ユーラシア系、〝イェンタイ〟!」
うぐ………セイグは歯噛みした。
東ユーラシアに先を越されるとは………!
地球上全ての国家を統合・統一政治運営することを目的に築かれた〈地球統合政府〉。
地球上全ての軍隊を統合した〈統合政府軍〉………通称UGF。
だが現在、その戦力は大きく二つの勢力に分かたれている。
一つがセイグら……USNaSA、南北アメリカ合衆国宇宙軍とその旧西側同盟国軍を中心としたUSNaSA系UGF。
もう一つが東ユーラシア連邦……中国、ロシア、東南アジア諸国を中心とした連合国家を中心とした東ユーラシア系UGF。
地球統合政府が設立されてもなお、独自の発言力・経済力を有するこの2大勢力は現在、………かの旧ソ連や旧アメリカ合衆国のように、水面下での対立を繰り返す関係にある。
「総司令官! 宇宙港から北洋級強襲突撃艦が………通信です!」
「………メインスクリーンに!」
憮然とした表情でセイグが命じた瞬間、ブリッジのメインスクリーンに、UGFの高級士官制服を完璧に着こなす壮年の男が映し出された。
セイグは思わず歯ぎしりを隠せなかった。……東ユーラシア、特にヌジャン准将はこの辺りの宙域における、セイグの〝政敵〟と言える相手だ。
『こちら、UGF第3艦隊総司令官、ロペス・ヌジャン准将だ。不審な通信と、通報を受けたため演習を打ち切って急行した』
「これはヌジャン准将………ここは第3艦隊の管轄から少々、離れているようだが」
『演習でな。我らは常にいかなる事態にも対応できねばならない………だが今回は少々遅すぎたようだ。互いに』
「?」
『〝リベルター〟なる武装組織がここを襲撃。鉱山区を運用していた〈ドルジ〉社のほぼ全社員と保管資源、それに所有していた作業用デベル7機が持ち去られたようだ。宇宙港やその他民間人への被害は無い』
海賊か? だが、それに持ち去られた物資の量から……民間船ではありえない大型宇宙船か、それなりの艦隊ということになる。UGF以外でそれだけの大型船や船団ということになるが、大規模な宇宙船を擁する犯罪組織はこの宙域にはいないはず………
「そ、総司令………」
ややトーンを落としたオペレーターの声に、察したセイグは、
「後で共同調査の提案書を送る。通信終了。………どうした?」
ヌジャンのニヤついた表情がメインスクリーンから消し去られた瞬間、次いで航路図が表示される。
「センサーがイオンの航跡を捉えました。付近のデブリ帯に続いているようですが………」
「残留物から船の種類、サイズを特定できるか?」
「調査中……民間払下げの古いルーク級強襲艦2隻と大型貨物船が1隻と推定」
ルーク級強襲艦は、かれこれ半世紀前の旧式艦で、確かに海賊などの犯罪組織によって運用されるケースが多いとされる。
だが………なぜデブリ帯に?
あの程度の規模なら第4艦隊の戦力だけで虱潰しに探せる。奇襲できるだけのデブリ密度、センサー妨害要素がある訳ではない。
「妙だな………全艦で他の航跡もよく調べてみろ。宇宙港を行き来するスペースプレーンの痕跡もだ。徹底的に」
了解! とオペレーターデッキが慌ただしくなる。
数分後、
「総司令! 微弱ですが、不審なイオン航跡を捉えました。………一度フィルター処理でイオン残留濃度を低下させた痕跡があります」
「でかしたぞ! おそらくそれだ………ヌジャンめ、小癪な真似をしてくれる………」
あの東ユーラシアの提督ならやりかねない。ルーク級2と大型貨物船の航跡は、ダミーだ。
だが、この程度の小細工で………
「〝アーマライト〟隊を全機戻せ! 準備完了後、その不審な航跡を追尾するッ! 想定針路、目的地を直ちに算出せよ!」
◇◇◇―――――◇◇◇
「第4艦隊、〈GG-003〉から離脱していきます! 先ほど我々が観測した微弱なイオン残留物を追尾するコースに入ります」
「よろしいので、閣下? このままでは〝リベルター〟艦討伐の功績が………」
「構わん。………〝リベルター〟なる組織については、未知数な面が多い。あの小僧で一当てしてするとしよう。だが念のために、〝奴ら〟に連絡を取れ。少しは〈ドルジ〉に恩を売るのも悪くなかろう。それと、ステラノイドの痕跡を全て抹消しろ」
「全て………となりますと、埋葬された死体等もあるかと存じますが?」
「全て掘り返して宇宙に捨てろ」
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