第4話 突撃! アメイジング小隊
◇◇◇―――――◇◇◇
「なにっ!? 侵入者だと!?」
『は、はい。今傭兵どもに探させてはいますが………』
「何としても見つけ出して殺せ! やり方は任せる! ………こっちはそれ所じゃないんだぞ………」
〈ドルジ〉グループが保有する〈GG-003〉アルキナイト鉱山総監督を務める男……ロアキ・ドジンにとって、ここでの地位は一時的なものに過ぎないはずだった。ここで「現場を知る者」としての評判を獲得し、何年かすれば地球の本社で、……こんなこじんまりとした監督待機室じゃない、ホンコンの快適な本社ビルで自分のオフィスを持ち、会社役員として特権階級としての生活を享受する………それが、もう手の届く先まで来ているというのに!
ドジンの都合など知らない別の大型モニター上では、3機の見慣れぬデベルが映し出されていた。武器を持っているところから、おそらく戦闘用デベルだ。
徐々にこちらに接近しつつあり、止めようとした〝ミンチェ・ラーシャン〟が3機、有無を言わさず撃墜されてしまった。
30分前、突如として現れた謎のデベル部隊。
おそらく目的は、この鉱山の制圧………!
「………ジゴル! 何をやっているかッ! さっさと奴らを落とせ!」
『だ、ダメですぜっ! 早すぎてこんな払下げ機じゃ………ぎゃ!』
サブホロモニターの一つが瞬間的にノイズを走らせて消失。
大型モニター上では、見慣れぬ戦闘用デベルによって〝シビル・カービン〟がAPFF(対実弾フォースフィールド:Anti Physics Force Field)を一撃で消し飛ばされ、ハンドアックスによって胸部を潰されていた。
その間にも2機が別の敵機によって撃墜される。迎撃に出した部隊はその3分の2を失う有様だった。
「お、おいデマーソン! UGFに通報はしたんだろうなッ!?」
『は、はいっ! ですが早くとも到着は4時間後になると………』
そんなに待てるかッ! もうこちらの防衛戦力は壊滅寸前なんだぞ!
「………そうだ、そもそも奴らの目的は何なんだ!? 上手く金で解決できるなら………」
『そ、それが。………ステラノイドの違法使用容疑で、武装解除と全ステラノイドと採掘済み資源の引き渡し、総監督以下全社員の降伏を要求しているようでし………』
「聞けるかァッ!!」
バン! とドジンは荒々しく端末を殴りつけ、強制的に管制室との通信を終わらせた。
冗談じゃない! そんなことをすれば、間違いなくクビだ! そもそも向こうはこちらの身柄をも要求し、下手をすれば殺される………
次々と撃墜されていく傭兵機を見て、すでにこちらに勝ち目はないことは、ドジンにもよく分かっていた。
「に、逃げなければ………」
そうだ。この身体さえ無事なら、金はスイス銀行以下複数の口座にプール済みで、いかようにもやり直せる。だが、死ねばそこでおしまいだ。
それに………
「………おい、グラジ! 返事しろッ!」
『は、はっ! グラジです! 今逃げた女の捜索中………』
「それは後回しだッ!………こうなった以上、やむを得ん。この鉱山を自爆・放棄する」
『じ、自爆………』
そうだ。この〈GG-003〉全体にエネルギーを供給している、大型ニューソロン融合炉をオーバーロードさせれば、完全に証拠隠滅することができる。奴らにも、この鉱山を渡すものか!
『で、ですが隣には宇宙港が………』
「警報でも出しておけば勝手に逃げる! さっさと人手を集めろッ! このまま黙って殺されてたまるか………!」
そう言いながら苛立たしげに通信を断ち切り、ドジンはすでにまとめていたカバンを掴み取ると、大急ぎで待機室から去った。
つけられたままの大型モニター上で、またも傭兵部隊の〝ミンチェ・ラーシャン〟が撃墜される………
◇◇◇―――――◇◇◇
〈GG-003〉から飛び出してきた戦闘用デベル〝ミンチェ・ラーシャン〟から100ミリ・BP複合ライフル(ビーム・実弾複合ライフル)がばら撒かれる。
「へ!」
月雲は繊細な手つきで操縦桿を操ってみせ、彼の〝シルベスター〟はまるで踊るかのような動作で敵機の攻撃を回避していく。
「アメイジングに、決めてやるぜ!」
そして急接近して返す一撃。トリガーを引いた瞬間、月雲機の主装備、M870・BP複合ショットガンが火を噴き、一発目でAPFFを消し飛ばし、二発目の実弾で蜂の巣に。メインモニター上で、無数の弾痕をさらしながら無力化した〝ミンチェ・ラーシャン〟が向こうへと流されていった。
『2番機! これで6機目ッ!』
『こちら3番機! 3機撃墜しましたッ!』
『単独戦果は1機だろうがッ! 共同込みならあたしは8機だよ!』
ニヤリ、と月雲は頬を緩ませた。アメイジングだぜ、トモアキの奴。初陣なのにいい腕してやがる。
この作戦、絶対生き延びさせてアメイジングなエースパイロットに仕立ててやるからな。
ちなみに月雲機の戦果は5機。まあ悪くない。
要はアメイジングに戦えればいいのだ。100機の敵を盛り上がらない方法で倒すより、1機の強敵を派手に打ち破る方が月雲の好みだった。
「これで……あらかた全機やっちまったかァ?」
『センサーに反応は………いえ、さらに増援3機!』
『あたしにやらせなッ!!』
勢いよく飛び出してきたのは、ジェナの〝シルベスター〟。近接戦を最も得意とする彼女の獲物はもちろん、大質量のハンドアックス。
斬る、よりも叩き潰す、という表現の方が正しい荒々しい戦い方で………まず1機の〝シビル・カービン〟が頭部から腹部までを一撃で切り裂かれ、その背後を取ろうとした〝ミンチェ・ラーシャン〟を返す一撃で胸部から上を切断する。
ハンドアックス表面では、粒子ビームがチェーンソーのように高速回転しており、APFFを切り裂きつつ、その質量と切れ味で敵機を屠ることができる。
残された1機の〝シビル・カービン〟は、気圧されたかのように後退しつつ複合ライフルを乱射。近接戦を得意とするジェナにはいい判断と言えるが………もう遅い。
『もらったァッ!!』
月雲に迫る反応速度で一発も被弾することなく肉薄したジェナの〝シルベスター〟は、次の瞬間大きくハンドアックスを振り上げて……哀れな〝シビル・カービン〟は袈裟懸けに切り裂かれて、小惑星に激突した瞬間、スラスタータンクに引火したのだろう派手に爆散した。
ひゅっ、と思わず口笛が漏れる。相変わらずアメイジングな女だ。
『どんなもんだい!』
「ジェナ。損傷は?」
『あー、さっきの爆発の破片で、塗装がちょっと剥げちゃったかもねぇ』
クスッと、月雲もトモアキも思わず笑ってしまった。
「………よし、今度こそ迎撃部隊は全滅だろうな。全部で17機。かなりの大部隊だったな」
さすが地球の大手企業グループ〈ドルジ〉擁する私兵部隊だ。ほぼダウングレードもされていない軍からの払下げ機をこれほど保有していたとは………。
「アメイジング隊、中に突入するぞ。………なるべく近接戦で、ステラノイドへの被害は最小限に」
『分かってる。あたしを先頭に出しな』
任せる。その瞬間、ジェナ機が先行し、小惑星に取りついて………マニピュレーターに設置型爆弾を握らせた。
「スキャンして向こう側に生命反応がないか、確認しろよ」
『ああ。危険範囲内には誰もいない』
「エアロックが開いてもすぐにフォースフィールドが展開する。トモアキ、遅れるなよ」
『任せてください!』
よし。月雲は操縦桿、それにスロットルレバーを持つ手の力をギリッと強めた。
「内部に突入だ。………ラストフェイズ、アメイジングに決めるぞッ!!」
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