ペーターを連れてアパートを出たモーフィアスとハイドは車に乗り込んだ。運転席にはモーフィアス、後部座席にはペーターとハイドがいた。

 車のフロントガラスは先ほど割れたので、全て取り外していた。

「さっきの女、いないな」

 後部座席にいるハイドが言った。ペーターの太ももには、隣に座るハイドの冷めた銃口が密着していた。

「男でも見つけたんだろう」

 そう答えながら、モーフィアスはエンジンをかけて、アクセルを踏み込む。

「ヴィヴィアットはここから何分くらいだ?」

「二十分もかからない」

 モーフィアスは答える。「お前、メガネ持ってるか? フロントガラスがないと風が当たって大変だ」

「サングラスならあるけど」

 ハイドが胸から丸いサングラスを取り出した。

「あの、どうしてフロントガラスがないんですか?」

 恐る恐るペーターが訊いた。

「うるさいんだよ、黙ってろよ」

 モーフィアスが後部座席に向かって叫ぶ。

「ごめんよ、あいつ、地球のバチカンっていうところ出身なんだよ。つまりカトリック教徒。コンドームの使用も認めてない奴だから。馬鹿だろう?」

「ハイド、お前は俺が性病の塊だって言いたいのか?」

「そんなこと言ってないよ。けど事実だろう? 人類は火星進出を果たしても、カトリックは避妊をしないのは」

「そんなのはな、みんなベットの中に入ればやってるんだよ。ハードロック聴いてる奴らだって、時にはビートルズも聴くんだよ。それと一緒さ」

「じゃお前は、自分はカトリック教徒だから、ゲイは許せないけど、コンドームはつけるっていうのか?」

「そうだよ」

「それはお前、自分本位過ぎるだろう」

「じゃ、お前はどうなんだよ」

「なんで俺の話なんだよ。俺は別に神様なんて信じてもいないし、ゲイがこの世にいたっていいと思ってるよ」

「だったらそれでいいだろ。俺のことをとやかく言うなよ」

「ちょっと冗談言っただけじゃないか、そう怒るなよ。前を向いてないと、また事故を起こすぞ」

「もう事故なんて起こさない。とっととサングラスをかせよ」

「ほら」

 ハイドが運転席のモーフィアスにサングラスを渡す。

「あ、これいいや。風受けても全然大丈夫だ」

 モーフィアスはサングラスをかけると、アクセルを踏み込んだ。

 ハイドの肩まで伸びている髪が靡く。

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