5
ペーターを連れてアパートを出たモーフィアスとハイドは車に乗り込んだ。運転席にはモーフィアス、後部座席にはペーターとハイドがいた。
車のフロントガラスは先ほど割れたので、全て取り外していた。
「さっきの女、いないな」
後部座席にいるハイドが言った。ペーターの太ももには、隣に座るハイドの冷めた銃口が密着していた。
「男でも見つけたんだろう」
そう答えながら、モーフィアスはエンジンをかけて、アクセルを踏み込む。
「ヴィヴィアットはここから何分くらいだ?」
「二十分もかからない」
モーフィアスは答える。「お前、メガネ持ってるか? フロントガラスがないと風が当たって大変だ」
「サングラスならあるけど」
ハイドが胸から丸いサングラスを取り出した。
「あの、どうしてフロントガラスがないんですか?」
恐る恐るペーターが訊いた。
「うるさいんだよ、黙ってろよ」
モーフィアスが後部座席に向かって叫ぶ。
「ごめんよ、あいつ、地球のバチカンっていうところ出身なんだよ。つまりカトリック教徒。コンドームの使用も認めてない奴だから。馬鹿だろう?」
「ハイド、お前は俺が性病の塊だって言いたいのか?」
「そんなこと言ってないよ。けど事実だろう? 人類は火星進出を果たしても、カトリックは避妊をしないのは」
「そんなのはな、みんなベットの中に入ればやってるんだよ。ハードロック聴いてる奴らだって、時にはビートルズも聴くんだよ。それと一緒さ」
「じゃお前は、自分はカトリック教徒だから、ゲイは許せないけど、コンドームはつけるっていうのか?」
「そうだよ」
「それはお前、自分本位過ぎるだろう」
「じゃ、お前はどうなんだよ」
「なんで俺の話なんだよ。俺は別に神様なんて信じてもいないし、ゲイがこの世にいたっていいと思ってるよ」
「だったらそれでいいだろ。俺のことをとやかく言うなよ」
「ちょっと冗談言っただけじゃないか、そう怒るなよ。前を向いてないと、また事故を起こすぞ」
「もう事故なんて起こさない。とっととサングラスをかせよ」
「ほら」
ハイドが運転席のモーフィアスにサングラスを渡す。
「あ、これいいや。風受けても全然大丈夫だ」
モーフィアスはサングラスをかけると、アクセルを踏み込んだ。
ハイドの肩まで伸びている髪が靡く。
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