第四話
「お前は桃から産まれてきた。」
年老いた母は桃太郎にそう告げた。
そのときから桃太郎は、自分が何者か考えるようになった。
鬼を殺す力をを持って生まれたのは何故か。
夜も眠れなくなるまで考えた。
ある日。
桃太郎は自分が流れてきた川を辿ってみることにした。
川沿いをしばらく歩いて行くと、辺りはいつの間にか山道へ変わっていく。
川はこの山から流れているようだ。
険しい斜面を登り、生い茂る木々をかき分けて進んでいくと、やがて頂上にたどり着いた。
小さな丸い池がぽつんとあった。
青い水面は小波ひとつ無く、鏡のように滑らかだった。
丸池の端から貯まった水が静かにふもとに向かって流れだしていた。
桃太郎は周りを見渡した。
桃の木を探すが、それらしきものはどこにもない。
今までの道中にだって桃の木は一本も生えていなかった。
桃太郎は天を仰いだ。
雲が厚く太陽を覆っている。
手を伸ばせば届いてしまいそうなほど天空が近い。
すると、天から小さな小さな雫が落ちてきた。
静かに落ちてきた一滴は、丸池に吸い込まれ、水面に波紋を残した。
ポツポツと天から雫が降り注いた。
雨か、と桃太郎は思った。
しかし、不思議なことが起こっていた。
雨は狙ったかのように、丸池だけに降り注いでいたのだ。
雨はバケツをこぼしたような激しいものになった。
雨水がを大量に注がれ、池がみるみる広がっていく。
「・・・」
桃太郎は再び天を仰いだ。
雲が近い。
少し灰色がかった白い雲。
雲を抜ければ天の国があるのだろう。
ぐらり
桃太郎の視界が揺らぐ。
天から落ちた雫。
身体が揺らぐ。
落ちた雫は池に貯まる。
池の青。
川となって流れていく。
・・・・・・
ある程度大きくなったのを見計らったかのように雨は止んだ。
池は最初に見たときより一回り大きくなり、水面は再び青く静まり返った。
桃太郎は。
自分が何者かを知った。
ああ・・・
私は落ちてきたのだ・・・
落ちてきた。
その意味は・・・。
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