第二話

犬女、キジ女、猿女、三人の主人、青年の名は桃太郎。

彼は宝玉のような輝きを持つ美青年である。

端正な顔立ちはいつも柔和な笑みを浮かべ、天女のような暖かなオーラが人々を引き寄せた。

三人が桃太郎に魅せられているのはその美貌だけではない。

彼はこの世にたった一人の救世主だった。

桃太郎が産まれたとき、この世界は混沌の真っ只中にあった。

その原因は、鬼である。

鬼は人間よりはるかに強かった。

身体は大きく、頑丈で、目はらんらんと怪しくひかり、鋭い牙で人間などボリボリ食べてしまう。

それがわらわらとどこからともなく現れては人を襲う。

多くの人間が食われ、財産は奪われ、村は焼き払われた。

肉が柔らかいという理由から女、子供は優先的に食われる。

男と老人が、残された。

嫁を娶りたくとも娶れない、独り身寂しい男達の劣情は募るばかりであった。

その事の発端は、とある薪売りの男である。

それは冬の、たいそう雪が降る日のこと。

男は薪を売りに行った帰り、鶴が罠にかかっているのを見た。

哀れに思い、罠から放してやると、鶴はチラリと男のほうを見て、飛びさり、雪に消えた。

その夜も大雪であった。

薪売りのもとに美しい女が現れた。

「雪の為、ここに泊まらせて頂きませんでしょうか」

女は言った。

男は女を招き入れた。

同じ屋根の下、美しい女の前に男はその色情を抑えることをしなかった。

女が正体を明かしても、男は文字通り家に縛りつけ、今度は放そうとしなかった。

翌年、女が産んだ子供は、人間であるが、背に鶴の翼を持ち、足は長く鳥のそれ。

やがて、美しい鶴の嫁が他の独身男性に広まったとき、独り身男達は息を荒げ、罠を片手に森へ押し寄せた。

ケダモノと化した男達に森は阿鼻叫喚。

捕らえられは動物達は恩返しを強要させられ、床へねじ伏せられた。

あちこちから絶叫と産声があがる。

頭に獣の耳を生やしたもの、尻尾をぶら下げているもの、鋭い牙を持つもの、翼で空を飛ぶもの・・・

犬のような人間。

猫のような人間。

狐のような人間。

狸のような人間。

鳥のような人間。

血がドロドロに混ざり合い溶け合い、こねくり回されて出来たものは、もはや人間なのか、獣なのかわからない。

一日中、百鬼夜行のような光景を見ることになった。

人と自然の関係は崩壊した。

鬼が人間を襲い。

人間が獣を従属させ。

獣はまがい物を産み落とす。

最下級に生まれた人間と獣のまがい物はどのような運命を辿ることになったのか。

ピラミッドの底辺に属する者達は、高く積み上げらた上段の重みに耐えなければならない。

すなわち、搾取され、奴隷にされ、生贄にされ、食料にされ。

半分人間でありながら、もう半分は獣というだけでまともな扱いは得られず、忌み子として生命のある消耗品のような運命を辿るのだった。

カオスと化した地はたちまち血肉にまみれ、空に絶望の渦が横行し始めた。

しかし・・・。

作用があればそれに反する作用が現れる。

伐採された木がその切り株から新たな芽を伸ばすように・・・。

世は新たに生れかわる為の浄化作用を発動させる。

天から一筋の光が差し込まれたように突如現れた救世主。

誰もかも平等に照らすその希望の光は、まがい物と虐げられた者達にとって初めての温かさであったのかもしれない。

飢えて死にそうな異形の者達に差し出された手。

そこに団子が握られていた。

「きびだんごです。お一つどうぞ。」

救世主はそう美しい顔で微笑んだ。

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