第17話 戦い 2
オオオオオオオオッッッッ・・・
高空の闇がうなりを上げ、雲を雷のような閃光が照らし出す。
二機の姿は、もはや鬼神と言うべきものであった。
複雑な装甲は切り裂く空気の鎧を身にまとい、衰え行くジェネラの流れを、強引に捕まえる。
ギガッガッ!!
ガガガッ!!
剣同士が打ち付けられる度に稲妻が走り、少し遅れて轟音が響いてくる。
だがそれを耳にしようとした者は、たちまち鼓膜を破られてしまうだろう・・・!
「おまえはっ!多くの人間を犠牲にしようと言うのかっ!」
「そんなことは俺にはできないっ!だがっ・・・その前に大切な人を守らなくてはならないっ!」
ヴァイランスがディザイアに剣を突き立てようと急降下する。
しかしそれは空しく宙を切り裂き、逆にディザイアが急反転し上を取って、こんどはヴァイランスを追いかける。
オオオオオオ・・・
圧縮された空気が赤みを帯び、二機を尋常でない高温にさらした。
「ならばっ、私も戦うまでだっ!それが多くの人間のっ、リィニスのためになるならばっ!!」
二機はもつれながら、眼下に広がる荒野の湖めがけて落ちていった。鈍色の水面が、硬い岩のように獲物を待ち受ける。
しかしそれでも、お互いの機体から目を離そうとしない。
「うおおおおおっっっっっ!!」
ボウッ!!
二機は浅い角度ではあったが、猛スピードで水面に衝突した。
バッ!ババッババッ!バッババッッ!
瞬間に湖面が大きく円形にえぐれ、湖底が露わとなった。巨大な水柱が立ち上り、水面は波に襲われて湖自体が大きく歪んだ。
ドウッ!ドッ!ドドッ!
二機はなおも水面をバウンドし、もつれにもつれて回転しながら、互いの装甲に一撃を食らわさんと逸った。
やがて吹き上げられた水が雨となって降り出した。
「オアアアアアッッッッ!!!」
しかし二機が悲しい定めを背負い、空しく命を削っている間にも、運命の遊星はついにこの星にたどり着いたのであった。
それに呼応するように、『水晶宮』も元あるべきところに還ろうと、徐々に高度を増して行く。
「やめてっ!・・・本当に・・・本当にみんな死んじゃうんだよぉっ・・・!どうしてっ・・・?どうして、止められないのっ!?」
トゥアの体からは光があふれ、その長い美しい髪の中では、ジェネラの流れが光点となって見えた。
自分の中に感じる、無限とも思える力を発揮している。
だがそれでも、彼女を嘲笑うかのように、運命の巨体の上昇は止まらなかった。
「セレネっ!セレネっ!お願い、止めて!止めてよおっ!」
『・・・これが運命なの・・・これが、私たちの運命なのよ・・・』
「う・・・わああぁぁぁっ!!」
トゥアの叫びが、『水晶宮』にこだました。
「・・・!トゥア!」
体勢を立て直すと、ギイスは心に届く声にはっとして上を見た。
「よそ見している場合か!」
その隙を逃さず、ケイディズは渾身の一撃を放った。
「しまったっ!」
ディザイアの光を帯びた剣は瞬時にして、ヴァイランスの左肩から一文字に、左脚の大腿と右足の踝を切り裂いたのであった。
だがギイスも、その剣筋から一瞬たりとも目を離さなかった。
自らの体が切り裂かれ悲鳴を上げている中で、不思議なほど『見えていた』。
「うおおおおおっっっ!」
「!?」
ヴァイランスの左腕が、引きちぎられる直前にディザイアに向って伸ばされ、その手はディザイアの頭部を掴む。機体を寄せ、装甲同士を打ち合わせる。
そして横一文字に、ディザイアの魔導縛光板もろとも、上半身を一刀両断したのだった。胴体と両腕が、地上に落ちて行く。
場を静寂が包む。
二機の目からはじょじょに光が消えていった。それは機体が損傷したからではない。ついに、ジェネラの供給が止まり始めたのだった。
「『水晶宮』がっ!」
トゥアを乗せた『水晶宮』はいまや、夜空の彼方に消えて行こうとしている。
三百年の間、人間に与えられていた力も、はかなく消え去ろうとしている。
「ジェネラの出力低下!」
「くそっ、本当に・・・本当にジェネラがなくなっちまうのか!?」
この時、飛行船でギイスを追っいて、遠くからこの戦いを見ていたパンドーリス以下、各国の部隊の機械たちは、急いで近くの安全なところに降りなければならなかった。
「ジョーダンじゃねぇ!んなカッコ悪い死に方ゴメンだ!」
醒弥はグロウズィで近くを飛んでいた。戦争の終結以来、暇をもてあました彼は、隙があれば二人の戦いに割って入ろうと思っていたのだが、突然の出力の低下で、危うく地上に真っ逆さまに落ちてしまうところであった。
「トゥア!」
「早く行け!」
見るとケイディズは、破壊されたディザイアの上に立って、叫んでいた。
「どのみち、ジェネラがないと生きて行けないおまえは戻ってこれまい!・・・さあ、早く!」
「ケイディズ!」
「・・・またな!」
ケイディズはとても晴れやかな顔で、右手を挙げながらそう言った。ギイスはその姿が何だかおかしいくて、笑った。
「ありがとう!・・・さあ、ヴァイランス・・・頼む、『水晶宮』に!トゥアのところに!」
するとヴァイランスの目に光が宿り、魔導縛光板が最後のジェネラをはき出して、その機体は空に上っていった。
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