第16話 戦い 1
――――
『13』、いや、ギイス、わが息子よ・・・
この真実を知る時、おまえはどんな心持ちでいるだろうか・・・?
喜び、悲しみ、それとも絶望だろうか・・・?
どれにせよ、おまえが何らかの感情に支配され、それを制御しあぐねているのは、容易に想像が付く。そうだ、『人間』としての心を手に入れてしまえば、それに悩まされることになるのは必然だからだ。
というのも、私もこの心に、ずいぶんと悩まされた。
私はずっと孤独だった。
八十年以上の人生の中で、いままで心を許した人間は一人もいなかった。
なぜなら、人はみな、私の見えている世界が見えなかったからだ・・・私がその心を打ち明けようにも、それが彼らには見えてないがために、私の言うことは理解されないのが、初めからわかってしまうのだ・・・
だから私は『史上最高の天才』ともてはやされ、多くの者が私の弟子として志願してきたとしても、多くを語ることはなかった。そのうち、私を理解しようとしなかった者たちは、私の頑迷な態度に、私を憎むようにすらなったほどだ・・・自分たちの無知と無理解、『自分こそが正しい』といううぬぼれを棚に上げて、だ!
いや、こんなところで感情的になるのはよそう。
この通り、私はそれでも、世間に対する期待を持つことをやめられなかった。人が苦しむのは、他人に理解されようとしているからだ。それが裏切られるから、苦しむ。そして人間はやっぱり、どんなに絶望しようとも、また他人に期待するのをやめられはしないのだ・・・
その苦しみがあったからかもしれない。
私がおまえたち『人形』の研究に没頭し、その完成に心血を注いだのは。私は人間と触れ、その期待が裏切られることを恐れるようになるにつれ、おまえたち兄弟の完成だけが、私の生きがいとなっていった。
・・・しかし、だんだんと、私は気づいてしまうことになった。
おまえたちが、人間を凌駕した存在だということに。それは戦争というくだらぬことに使われる能力だけではない。その身体能力ゆえに、おまえたちは『新しい意思』として、人間を超越して生きて行く定めを背負っていることが、明らかとなったのだ。
いったい、どこで生きて行くのか?
それは・・・
――――
上空の強い風は、不気味に装甲の間を吹き抜けて行く。複雑なメガ・マシーンの装甲は自然と笛のようになり、ピーピーという音を鳴らした。
動かない。
二機とも固まってしまったかのように、空中に静止したままだ。そうしている間にも、タイムリミットは刻一刻と迫っている。
と、その時、巻き上げられた布きれが彼らの高さまで飛んできた。
それは一瞬、彼らのメインカメラを覆ったのだった。
そして次の瞬間には、二機ともにそこに姿はなかった。
「うおおおおおっっ!」
双方が少し離れたところから剣を一振りすると、それは即席の『魔術』となって、衝撃波が相手を襲う。
こんなものの毒牙にかかる二人ではないが、無駄な攻撃でもない。それに押し出されるように、二機は空高く飛び上がった。その軌跡には、ジェネラの乱干渉によって、緑色の光がキラキラと輝いた。雲の中に飛び込んでも、それが目印になるくらいだった。
もはや
その雲の中で、二機は猛烈に打ち合った。
重力の力を借りた勢いが相手に受け止められるや、すぐに離れて再び打ち込もうとする。すさまじい数の閃光が起こり、そのエネルギーが雲すら吹き飛ばす。
お互いの
ギイイイイイィィィイッ!!
粒子同士が激しくぶつかりこすれると、さすがの無敵の物質も、自らの死の予感に震えないわけにはいかなかった。
ガッカッ!ガッガガ!!
打ち合うたびに、あまりに近くに寄せ合う装甲はぶつかり合い、鈍い音を発する。
ガゥッ!!
「そこだっ!!」
「くっ!」
ディザイアの剣が、ヴァイランスの
極度に研ぎ澄まされたギイスの感覚は、その痛みを自分のものとして受け取った。彼の中に流れている、わずかばかりの赤い血が流れ出た。
「!!」
その瞬間、ギイスの心に、またもやあの『恐怖』がしみこんで来たのだった。ひっくり返ったインクのように、黒いものが心にぶちまけられる。
「く・・・うううっ・・・!」
腕が震える。当然予想される反撃をかわそうと距離を取ったケイディズも、すぐさまそれに気づいた。
すると彼の心も怒りの感情が支配した。ディザイアは剣の切っ先をヴァイランスに向けた。
「・・・!ギイス、おまえの意志はそんなものか!人間が、私が、どれだけその感情を克服してきたか、おまえにはまだわからんのだ!前に言った通り、おまえはただ最初から力が優れているだけで、決して『強く』はない!弱さを克服しようとする行為、それこそが『強さ』そのものなのだからな!」
ギイスはその言葉に、歯を食いしばった。
(そうだ・・・これはただ自分の命が惜しいだけでしかない・・・しかし、俺の命がなんだと言うのか!俺はずっと、いつでも死んで構わないと思っていたじゃないか!・・・そうだ、それよりも、それよりも・・・!)
ギイスの体に、再び力がみなぎってくる。
心が自らを焦がしつつ、愛しい者のために燃え上がる。
「トゥアっ!!俺は、ただ君を守りたい!!!」
ヴァイランスは、再び大きく飛び上がった。
「ふっ・・・!」
ケイディズの全身に武者震いが走った。
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