第14話 想いの鼓動

「『13』!静かにしろ・・・っぐわっ!」

 ドアを勢いよく開けた兵士はそれと同時に、強力な拳をその顔面に受けなければならなかった。一瞬で彼は気を失い、後ろにドサッと倒れた。


「・・・!何だと!」

 一緒にいた兵士たちは、銃を抜き構える。彼らも、まさか『人形』であるギイスが自分たちに刃向かうなどとは予想すらできず、完全に油断していたのだ。

「うわっ!」

「ぐはっ!」

 しかしギイスは、メガ・マシーンで鍛えた驚異的な身体能力を見せ、兵士たちがその引き金を引くヒマも与えず、拳と脚でその体を吹き飛ばしていった。

「くそっ!!」


 それでも何とか姿勢を立て直そうとした一人の兵士は、引き金を引いた。銃弾はギイスの肩をかすめ、背後の窓を貫いた。それと同時にギイスの拳は、兵士の顎にヒットしていた。兵士は力なく倒れた。


 そして兵士たちを倒したギイスは・・・泣いていた。

 痛いわけではない。彼は、兵士たちの苦しみ、悲しみを、その身で理解していたからだった。

 人間の言うとおりにしてきた自分、それは窮屈であると同時に、少なくとも味方の人間にはいかなる苦しみや悲しみも与えなくて済む、ということであった。

 兵士たちだって、ギイスが憎いわけではない。

 それでも自分の役職から、また世間の『常識』から、ギイスに対してきつく当たらなければならないのだ。


 お互いに何の恨みもなく、わだかまりもなく・・・しかし、肩を組んで友情を確かめることもできない。それができたら、どんなにいいだろう・・・!

 その運命の悲劇に、ギイスは涙していたのだ。

「ごめん、ごめん!・・・でもっ、俺は・・・!」

 不可解な力が、ギイスを突き動かしていた。



「トゥア、ギイスに・・・このことを伝えたのか?」

 ケイディズの問いかけに、トゥアは頷いた。しかし彼の方は見ずに、セレネの大晶石の方をじっと見ているだけだ。

 彼女は戦っているのだ。それは、生粋の戦士であるケイディズにはすぐにわかった。


 セレネと、ギイスとの離別と・・・自分が犠牲になること、と。

 そしてケイディズは、そんな彼女の決断を、歓迎しないわけにはいかなかったのだった。


「礼を言わねばならない。私はトゥア、君がそこまでしてくれることを、な。」

「そう、『たったそれだけ』だもの・・・私が犠牲になれば、ずっとこの世界はこのままで・・・」

 トゥアは涙を流していた。清らかな水が、晶石と反応して空中に散って行く。


「・・・シン、『ディザイア』を用意するように伝えてくれ。私はすぐにここを立って、受領しに行く。」

「団長!それは・・・!」

「ギイスは、このトゥアの決意を認めないだろう。もう、奴は『人間』、いや、醒弥が言った通り、人間以上の存在だ。必ず、トゥアを助けにくるだろう・・・だが、私は、それを認めるわけにはいかない!もし、トゥアの犠牲を邪魔するというのならば、今度こそ奴を・・・倒す!」



「大変だ、『13』が逃げた!やはり奴は、ただの『人形』じゃない!」

 それが伝えられると、基地の中は大騒ぎになった。


 しかしそれに構うことなく、ギイスは格納庫に急いだ。途中で銃を撃ってくる兵士たちも、ギイスの反応力の相手ではなかった。

 ギイスの脳はいまや完全に覚醒し、相手の動きと共に、すべてのことが明らかとなったのだった。

(名位博士は、このことを知っていた!いや、俺たちを作り上げている間に、気づいたんだ!俺たち、いや、最後の作品である俺が、人間を超えた使命を持っていることを!)


 しかし、いまはそんなことはどうでもいい。もうギイスに涙はない。

(俺は、間違っているかもしれない、むしろ、ケイディズの方が、みな正しいと言うかもしれない・・・いや、必ずそう言うだろう!俺のやろうとしていることは、間違っている、間違っているんだ・・・だけどっ、だけどっ!)


 正義が、悪が、何だというのだ?

『正しい』、『間違い』が、いったい何だというのか?

 ただ、ただ・・・愛しい人のために!


「トゥア、俺は、俺はっ・・・君を助けるために生きるんだ!」


 いつもの格納庫の中で、ヴァイランスはいつものように膝を突いていた。

「いたぞ!撃て!」

 しかし待ち伏せしていた兵士たちが、一斉に銃を撃ち始めた。

「邪魔をしないでくれ!」

 だがギイスに、迷いは一片たりとも見られない。その銃撃の中にあえて身をさらすと、意外とどこにもかすめず、その体はヴァイランスの脚に取り付き、それが盾となってくれた。


「くそっ、メガ・マシーンにも連絡しろ!こいつを取り押さえるように・・・って!」

 すると、ヴァイランスが独りでに動き出したのだった。その振り上げた脚を避けるのに、兵士たちは騒然となった。

 メガ・マシーンは『人形』と同じく、その主人たるパイロットの操作がなければ、決して動かないはずであった。それが『道具』として当然のことだ。

「おまえは・・・!」


 どうしたことか。そのジェネラの流れが影響したのか。ヴァイランスは主人の意図を汲み取ったように、そのそばに手のひらを近づけ、そこにギイスが乗るやいなや、腰のコクピットまで導いたのだった。

「ありがとう!本当に・・・!おまえを棺桶だなんて思っていて、ごめんな!」

 するとヴァイランスの恐ろしい顔が、一瞬笑ったような気がしたのだった。


「行くぞ!!」

 いつものように・・・しかしこれが最後であるという覚悟を決めて、その機体とシンクロする。

 そして、腰の剣を抜き、格納庫の天井を切り裂いて、ヴァイランスは大空に飛び立っていった。


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