第9話 決戦 5
そう、いつもギイスの隣で、自らのメガ・マシーン『エスピディランス』を黙々と整備している彼だった。その機体はヴァイランスほど複雑ではなかったが、白い機体は洗練されていた。
「ええい、邪魔をするな!」
ディザイアも横から急速に接近してくるエスピディランスに気づき、剣をそちらに向け、ヴァイランスから離れる。
『16』はすばらしい機動力を発揮させて、その後を追う。
「・・・『16』!君は・・・!」
『『13』!あなたは、生きて下さい!それが、われわれの父、オラクル・バングル名位博士の遺志なのです!』
ギイスは、彼がこんなに生き生きとしゃべることを知らなかった。
スプーンとフォークのように、人間を介さなければ関係を持たないはずだった彼・・・その彼が、自分を『兄弟』として見ていてくれている。しかもそこには、確かに親愛というものすら感じられる。
(博士・・・!あなたは、いったい『何を』造ったのですか!)
もはや、オラクル・バングル名位博士が『人形』という言葉の意味以上の存在に、自分たちを造ったのは疑いようがない。
「うおおっ!」
「うっ!」
しかしそんなことを考えている間にも、エスピディランスは、ディザイアの一振りを受け、その装甲が削り取られる。晶石を含んだ破片は細かい粒となって、空中に飛散してきらきらと輝く。
ギイスは相変わらず動けない。だが、たまらなくなって、その粒を受け止めるように、両腕を差し出した。
「・・・『16』!逃げろ!そいつには敵わない!」
『私たちは、『人形』です。ただ、人間のために戦うだけの存在・・・だけど、私は言いたい。こんな私でも、生まれてきてよかった、と・・・』
その言葉は、ギイスの心に突き刺さった。
そして思い出した・・・自分たちの間には言葉はなかったが、確かに『兄弟』としての絆というものがあったのだ、と・・・自分が見てきた、彼の顔がフラッシュバックした。
「ふん、『人形』とは、これしきのものか!口ほどにもない!」
ディザイアの非情の刃が、エスピディランスの腰を切り裂いた。
刃はさらに、背中の魔導縛光板を粉々に砕く。
「『16』!」
「『ありがとう』・・・」
コクピットにはかすかな音だけを響かせて、 エスピディランスは爆散した。
「!・・・命が終わった」
トゥアはジェネラの流れで、それを察知した。
「・・・ギイス!危ない!」
「トゥア!」
その声がジェネラの流れに乗って、ギイスにも聞こえた。
「ギイス・・・!ギイス・・・!」
グロウズィに抱かれたケージはもはや粉々で、トゥアは高空の風に吹かれるままであった。だが、にもかかわらず、彼女はその端まで言って、叫んだ。
「何だ!?お嬢ちゃん、死にたいのかよ!?・・・まあ、いまだったら、事故ってことにもできるんじゃねぇかね・・・」
醒弥はニヤリと笑った。
「へへへっ、俺のこの性格が、いけすかない『善良な人々』って奴らの役に立つ時が来たってか!?・・・俺はな、誓って、ただただ、ただただ!正直に生きてきただけだ!お利口さんみたいに、ホンネとタテマエなんて使いたくねぇんだ!・・・こいつはよ、破壊をもたらすんだ!こいつがいなくなった方が、本当に帝国のためだぁ!」
次の瞬間、ケージからこぼれるように、トゥアの体は宙を舞った。
「トゥア!」
緑と青に輝く長い髪をたなびかせ、眼下の荒野めがけて、真っ逆さまに墜落して行く。しかしトゥアの目は、遠くで破滅の淵に立っているヴァイランスをしかと見つめていた。
「だめっ・・・ギイス!守りたい、あなたを!いやっ・・・」
「・・・終わりだ!『13』!」
「いやあああっ!!」
その瞬間、トゥアの体から、とてつもない光があふれ出した。
「何っ!?」
四方に広がる幾筋もの光が、その場を包む。同時に『水晶宮』もまた、光に包まれた。
・・・そして、その戦場にいたすべての戦艦やメガ・マシーンが、その光に捕らえられ、包まれてしまったのだ。
「!・・・ジェ、ジェネラの流れが!」
「どうした!」
「しょ、消失して行きます!」
「何だって!?・・・わわっ!」
息も絶え絶えなオスウィータは、その瞬間に不時着をして、辛くも難を逃れた。
「何だ!?」
それはディザイアの刃が、ヴァイランスの白亜の装甲を切り裂かんとした時であった。同じく光に包まれた二機からは、体内を駆け巡るジェネラの流れが、急に消失してしまったのだった。ディザイアは緩んだ手のひらから、不壊の剣を地上に向って落としてしまう。
そして、ジェネラの尽きない流れで空に浮かんでいた機械たちからは光が消え、みなゆっくりと降下し始めたのだった。
「トゥア!」
だがヴァイランスのみは、光に包まれながらも、むしろその光を推進力とするように、ゆっくりとした動きで宙に留まっていた。そして急いで、ゆっくりと降下して行くトゥアの体を、受け止めに行ったのであった。
「・・・くうっ、俺としたことがぁ!ナンバー『1』になれない理由を、自分で作っちまった!くそっ、くそっ!」
醒弥はコクピットの中を思いっきり殴りつけ、その拳からは血が流れ出した。
「トゥア!」
「ギイス!」
ヴァイランスが手を差し出すと、そこにゆっくりとトゥアが降りてきた。
「な、何だ、あの二人は・・・」
なすすべも無く降下するしかない人々は、この二人を眺めているしかなかった。
「天使・・・?」
それは彼らに敵対する人間にも、世にも美しい光景に映ったのだった。ケイディズもこの理解しがたい光景に、むしろ神聖さすら感じていた。
「あいつの勘もまんざらではないか・・・醒弥の予言は。」
「『ケイディズ騎士団長!本国より電信です!』」
「何だ?・・・どんなことより不思議なことが、ここでたったいま起きている、というのに。この事態に匹敵するほどの知らせがあるのか?」
「はい・・・それが・・・『戦闘行為を中止せよ。ディアズ・バイガはアルタキアスと和平を結ぶ』と、いうことです・・・!」
「何だと!?」
人間が『人形』のようではないと、誰が言えるのだろうか。人間たちの道化芝居の後も、空は高く澄んでいた。
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