第8話 決戦 4
「うおおおっ!!」
一瞬だった。だが、さすが騎士団の二大巨頭。ジェネラの波動を身にまとい、機体を急上昇させるほどのエネルギーを絞り出し急降下してくるヴァイランスの凶刃を、すんでのところでかわしたのであった。
「何だと!?」
醒弥が驚いている間に、ケイディズは急速にターンしてくるヴァイランスとグロウズィの間に立ちはだかった。
「醒弥!『ネロオストロア』に『24』を渡しに行け!俺は『13』と戦う!一騎打ちだ!」
それを聞くなり、醒弥は笑い出した。
「ははっ!ここでおまえが撃墜されてくれれば、ナンバー『1』は俺のものってわけだぁ!」
「・・・そうさせないために、俺は負けられんな!」
「まあ、せいぜいがんばってくれたまえ!」
そう言うなり、グロウズィは後方に待機する戦艦ネロオストロアに飛んでいった。
ケイディズが答える間もなく、ギイスはディザイアの装甲に打ちかかる。ケイディズもディザイアの剣を目にもとまらぬ速さで振りかざし、ヴァイランスの剣を受け止める。
剣から伝わる振動が電流となって、コクピットのケイディズの腕を痺れさせた。
するとジェネラの波動は反発し合って爆発し、二機を離れたところに押しやった。二機はそれに乗じて、体制を立て直す。
(これがナンバー『1』!?)
ギイスは相手のメガ・マシーンの禍々しくも、しかし神々しい姿に圧倒されずにはいられなかった。その機体・・・ディザイアは、おそらく彼らにもギイスがアルタキアスの筆頭だと知らされているだろうが、その敵を前にしても、まったく恐れを感じさせない。
ケイディズはゆっくりと、剣の切っ先をギイスに向けて言った。
「さあ、かかってこい、『人形』。」
(くっ・・・やれるのかっ!・・・だが、やる!トゥアが!)
ギイスは自分の恐れをたたきのめすように、己の中の獣を解き放つ。
「うおあああっっ!」
再び、ギイスの脳が沸騰する。体にジェネラが駆け巡り、晶石が輝く。
ギイスの腕に宿った炎はコクピットを焦がし、ヴァイランスの剣の切っ先まで駆け上がった。
そして壮絶な打ち合いが始まった。ある時は剣を突き、また振りかぶり、未だかつて誰も見たことのないメガ・マシーン同士の戦い。
しかし二人とも隙がなく、その強靱な刃はこぼれることを知らない。
だがこちらには時間がない。すぐにトゥアを奪った奴を追うために、次の一撃にすべてをかける。一瞬でも、躊躇したらあの装甲は破れない。
「覚悟しろっ!」
ヴァイランスの剣が、ジェネラの波動をまとってディザイアに向って行く。
「・・・ふっ。」
すると、ケイディズは笑った。
「・・・貴様たちだけが『人形』だと思うな!俺たちも人間ではない、国家の『人形』なのだ!」
「何!?」
ディザイアと衝突する寸前、ギイスは気がついた・・・相手のメガ・マシーンが、先ほどの打ち合いであふれ出したこちらのジェネラを、吸収していたのを!
(まさかっ人間が!?)
ヴァイランスの有り余るジェネラは、ディザイアのコンデンサに貯められ、ディザイアはその力のすべてを、その一瞬にかける。
「うおおおっ!!!」
ケイディズは絶叫した。
次の瞬間、真正面に打ちかかろうとするヴァイランスの切っ先を軽々と剣で流し、その機体をも、すさまじいエネルギーによって横に逸らす。
そして一瞬の間に振りかぶると、ヴァイランスの肩に強烈な一撃を食らわせたのであった。
「うわああっ!!」
ヴァイランスの左肩は、無残にも真っ二つになってしまった。
ギイスの身が激しく揺さぶられ、手はトリガーから外れた。
エネルギーの吸収・・・自分の精神とメガ・マシーンとを直結する操作方法は、パイロットにもまた、その機体のダメージをフィードバックさせる。
ジェネラの流れが、自分の身に突き刺さるのだ。電撃を受けたような衝撃に、ギイスは目がくらむ。
だがすぐに、ギイスは相手を見据え、体勢を立て直すことに考えを向けた。
(まだ、剣を持つ右手は無事だ!これしきのことで、戦意を失ってたまるものか!)
しかしその時、予期しないことが起こった。
ふと、『恐怖』という感情が、ギイスの心に忍び込んできたのであった。
「うっ・・・!」
息ができない。心臓の鼓動が、こめかみに響く。外側から自分の内側に、水がしみこんで行くような冷たさ・・・全身に悪寒が走り、皮膚に残っていた鳥肌が一斉に立つ。
(死ぬ!?・・・俺が、死ぬ!?)
以前はこんなことで心を乱したりはしなかった・・・痛みというものは、あたかもゲームでHPを削るのと等しい、ただの肉体機能の欠落に過ぎなかった。腕を切るくらいでは、痛みはあるものの、腕を動かすことに支障はない。腕は、吹き飛んでしまうまで、その機能を果たせるはずだったのだ・・・!
だがいまは、どうしたことだ、両腕がピクリとも動かない!
ほんの一瞬のこと。
だがもちろんその一瞬の間に、ディザイアは最後の一撃を食らわせようと、その凶器を大きく振りかぶるのであった。
(恐れている・・・?『人形』が・・・?これでは、ただの『物』じゃないか!)
しかしケイディズは、ヴァイランスから一瞬で消えた戦意と、その敵を目の前にして、まったくの無防備状態に陥ってしまったことに、むしろ戸惑いと・・・そして怒りを覚えていた。
「俺がこんな『物』を倒して、それが何の誉れになるというのか!これがアルタキアス最強という戦士なのか!こんなものは、初めて戦場に出た、新兵以下ではないか!」
ケイディズは思わず振りかざした剣を下げ、左手で、両腕を下げたヴァイランスの胸の辺りをつかんだ。
お互いの装甲が擦れ合い、顔を突き合わす。
「貴様は、やはり『人形』だ!その生まれながらの能力に、頼り切っていたに過ぎない!・・・終わりだ!」
ケイディズは、再び剣を振りかざした。
「あ・・・ああ・・・」
ギイスはその凶器を、仰ぎ見ることしかできなかった。
「『13』!」
とその時、コクピットに聞き慣れた声が響いた。だが、それが自分に向けられたのは、記憶によれば初めてのことだった。
「・・・!!『16』か!?」
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