第5話 決戦 1

 東部大陸と西部大陸の間にある中部大陸には、有力な国家もなく、どこまでも荒野が広がっていた。

 何億年も前の地層が風雨に晒され、途方もない時間をかけて大地を削って行った結果、そそり立つ奇岩や、大地に開いた大穴など、自然の驚異を目の当たりにできるところだ。

 ここを飛行船でもチャーターして観光できたら、すばらしいバカンスになっただろう。


 だが、いまやここは戦場と化そうとしていた。

 地平線から昇ってくる『水晶宮』を背後に、ディアズ・バイガ帝国軍が、海を背後にアルタキアス連合王国軍が、それぞれ地上と空中、あるいは海上に展開している。戦局に大きな影響を与える機動人形の数はディアズ・バイガが優位に見えるが、アルタキアスは『人形』の力をもって、これに対抗しようとしていた。



「攻撃開始!」

 ついに、戦端が開かれた。

 空中に整列していた、ディアズ・バイガの誇る『魔術』部隊の機動人形隊が、一斉に魔導縛光板を展開して、それぞれの`属性`を持つ『魔術』を放つ。


「対魔術防御!テレキネス・フィールド展開!」

 『風』の属性を持つ緑色の『スライトス』は、『風刃』というジェネラの刃を繰り出す。

 『炎』の属性を持つ『オーレン』は、『焔幕』を天高く射出した。


 そして『雷』の属性を持つ『ボルグ』は、最も後方から、『雷火』を放った。

 それぞれの魔術は空中で炸裂し、逃れられない弾幕を作る。目がくらむ光を放って、その場に居合わせる物体を・・・空気までをも引き裂いた。

 前衛を任せられたアルタキアスの無人航空兵器が、次々と落ちて行く。


「おおっ!!」

 アルタキアスも負けじと、魔術部隊に反撃させる。それぞれの魔術が空中で干渉すると、磁性が反発し合って、すさまじい音をとどろかせる。

 しかしアルタキアス側にとっては、魔術によってそんなに晶石のジェネラの蓄えを浪費するわけにはいかなかった。


 晶石が採掘できる『水晶宮』は、ディアズ・バイガ側が支配している。

 しかし、さすがに彼らが国家事業として採掘し、晶石を独占しようとするのは、世界中の反発を呼び起してしまうだろう。そのために、採掘許可を与えるという形で、各国の業者に参入を許した。そのために、晶石はアルタキアスも、普通に手に入れることはできる。


 だがそれでも、供給元を握られていることに代わりはなく、割高なコストと配分の少なさにアルタキアスは苦しんでいた。その中で、日常の経済活動を超える大量の晶石の入手は困難を極めた。それがディアズ・バイガにとって敵となるものであれば、なおさらだ。アルタキアス連合王国は国を挙げて、三十年以上もの時間を掛けて、来たるべき『決戦』に向けて、晶石を密かにため込んできたのだった。


 そのため、晶石の不足を補うために、もはや時代遅れの金属の火薬弾も撃たねばならなかった。しかし魔術の幕の前に、次々と落とされてしまう。それでも、とにかく数を撃ち込めば、それをすり抜けてどうにかなる。

 休むことのない弾幕の応酬が始まった。



「敵確認・・・α射程範囲内に十二機接近。」

 ギイスはその戦場の中に、再びヴァイランスと共にあった。

 恐ろしい勢いで飛び交い、視界を潰そうとする弾幕をもものともせず、すばらしい機動力を見せて、前線へ向かう。メガ・マシーンの防御力、装甲と機動性にとっては、弾幕も脅威ではない。


 十五機に及ぶアルタキアスの『人形フィギュア』たちは、白の装甲で揃えられたそれぞれの機体に乗り、自分が何のために戦っているのか、そんなこともわからず、死地に赴く・・・


 彼らをめがけて、あらゆる魔術が襲いかかる。しかしギイスは冷静にヴァイランスのテレキネス・フィールドを展開させ、正面から襲いかかった風刃を電磁の力で、炎を吹き消すように振り払う。


 ギイスの目が、モニターで踊るカーソルより先に、二機の『スライトス』を捕らえた。魔術部隊は常に前線からは離れるようにしているものの、騎士型のメガ・マシーンに狙われれば、ほとんどなすすべはない。

 二機はすぐに繰り出せる、細かい『風刃』を砲弾のように使いながら、ヴァイランスと距離を取ろうとする。


 しかしそれも、弾幕をくぐり抜けてきた『人形フィギュア』には無意味だった。戦闘モードに入ったギイスの目にはすべてがスローモーションのように動いている。


「くっ、これが『人形フィギュア』の力だと!?」

「ばかな・・・!こんな連中に、人間が負けてたまるかよ!」


 魔術部隊の叫びに構わず、ギイスは剣を構えた。再び二機を同時に屠るべく、その剣の前にはあまりに無力な`柔肌`に狙いをつける。


 ・・・だがここはこの前の`平和`な戦場ではない。

 ヴァイランスの肩の『13』の数字・・・それはいまやディアズ・バイガにとっては、五十年来の宿敵、この上ない名誉をもたらす獲物なのだ。

「・・・!直上!」


 二機に気を取られ・・・いや、人間ならば一瞬にすぎないのだが・・・ギイスは急降下してくる機体に気づかなかった。

 気づけばヴァイランスの背おっている魔導縛光板の一部が欠けているのを、機体のジェネラの回流の異変によって察知した。

 しかしその瞬間には、すでにギイスは機体を直下に向け、急速に上昇してくる相手をみすえていた。


 それは、黒い機体に重厚な装甲を備え、二本の剣を構えた、あの憎き印・・・大鷲の神の姿をかたどった紋章、ディアズ・バイガ帝国宮廷騎士団・・・そのナンバー『4』、データに記された名前は『クライス』だ!


「見つけたぞ!『13』、この『人形』めが!ナンバー『5』、カレルモの仇!宮廷騎士団の底力を思い知れっ!」


 威勢のいい声が、ジェネラの流れに乗って響いてくる。相手はこの前の『5』よりも年上、それに番数が高い・・・すなわち、さらに技量は上、ということを表している・・・!ジェネラの濃度の濃い場所では、このように意図せず、お互いの声が伝わるのだ。


 相手は重量級の機体とは思えないほど、軽々と飛び回っている。両手に持っている長短二本の剣が、見た目に反して攻撃型であることを示唆していた。

 やはり『5』と同じく、相手はこちらの攻撃をも恐れずに果敢に攻めてくる。

(並の人間じゃない・・・!)

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