百年のワッフル-5
「申し訳ありませんが、この先には許可されている方以外はお通しできません。お引取りください」
「どうして。私はれっきとしたメロンスター社社員だよ。社員証もこの通りちゃんと持ってる」
「しかし、あなたにこのゲートを通る権限はありません。お引取りください」
「でもどうしても用があるんだ。緊急の、必須の、重大な、スペシャルなやつが」
「お引取りください」
「そういうんなら、こっちにもやり方ってものがある」
「どのような?」
警備ロボットは慇懃に、かつ自分の大型で銃も何も通らないようなボディと両サイドに取り付けられているフォトン銃を見せつけながら言った。しかし、今日のセンは自分が蒸発の危機にあろうとも引くつもりはなかった。それほどの怒りに燃えていたのは、それはただ単にワッフルメーカーに対するものだけではなく、今までの人生の中で積み重ねられてきたサポートセンターというものに対する怒りだった。
センはロボットから一歩下がり、地面にワッフルメーカーを置き、専用のパウダーをセットした。今手持ちのもので一番殺傷能力が高そうなのがこれだった。時限式爆弾のようなものだ。
しかし、センがワッフルメーカーのボタンに手をかけたとき、後ろからセンを呼ぶ声がした。
「センー」
センが振り向くと、そこには先程のシュレッダーロボットがいた。
「何? 今ちょっと忙しいんだ。さっきの話の続きなら後にしてくれない?」
「そう……いや、違う。あの、緊急のソフトウェアアップデートがあって、センの了承が必要なんだ。いつものようにぱっと押してくれていいからさ」
そう言って、シュレッダーロボットはアップデート対象一覧を表示した。画面が小さい上、ずらずらとソフトウェアの名前が出てきて見づらい。『セキュリティアップデート10.9.8』や『シュレッダーコアv1.0.2...羊皮紙の裁断に対応しました』、『ロギングv2.2.2...記念すべきゾロ目!』などとが並んでいる。
「この『ハンカチ落としv5.4.2』って何。前に削除しておきなさいって言ったでしょ、まだやってなかったの」
「やだやだ、まだ僕チャンピオンになってないのに。それにそんなことどうでもいいよ、早く『了承』押して」
そう言ってシュレッダーロボットはセンに画面を押し付けるように動いた。
「わ、何を……」
「いいから早く」
そうやってセンがシュレッダーロボットと攻防を繰り広げていると、後ろから何か大きな物音がした。センとシュレッダーロボットは争いを止め、そちらのほうを見た。
そこにあったのは、先程の警備ロボットが倒れている光景だった。その重さに押しつぶされ、ゲートも配線を見せてばちばち言っている。
「あれ……」
「どうしたんだろ。壊れたのかな」
「みたいだけど……おかしいな」
こういう警備ロボットは、たとえどこかに不具合が起こってもちゃんと監視システムがそれをキャッチし、本格的に壊れる前に代わりのロボットが派遣されてくるようになっている。それがいきなり倒れ、しかも周りの設備まで巻き添えにしたというのは今まで聞いたことがない。
しかしこれはセンにとってみれば千載一遇のチャンスだった。センはワッフルメーカーをかかえ、警備ロボットとゲートを乗り越えると、やすやすとワッフルメーカーサポート窓口に侵入した。
「わー、押してから行ってよ、ちょっとー」
シュレッダーロボットも着いてきたが、センの思考はもはやそちらを向いていなかった。入口近くの案内図を見ながら、サポートセンターじゅうが阿鼻叫喚に陥るところを想像してほくそ笑んでいた。
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