チョコスプレッドの果てへの旅-3
『とりあえず試してみてください、エンプロイー用アカウントを作成しますから』とコノシメイに言われ、断りきれずに第四書類室に戻ったセンは、ニューレリジョンサービスの管理画面を開いた。横の紙コップの中では冷めたコーヒーに浮かんだゴムのアヒルがぷかぷかしている。
ニューレリジョンサービスを使うには、まず教義コントロールサービスを使って教義を管理する必要があると『ニューレリジョンサービスクイックスタート』には書いてあった。
『教義の記述には、DOC(Doctrinally Oriented Config)と呼ばれる形式を用います。以下は、毎日一回『こんにちは、世界』と言うことを信者の義務とする教義の記述方法です。
version: 0.2
name: Hello Worldism
region: Buffalore
policy-document:
believer:
obligation:
-
say: 'Hello World'
frequency: 1
punishment: death
artifacts:
- religious-text
options:
digital: true
』
センはドキュメントの通りにファイルを作成した。そして教義コントロールサービスへそれをプッシュし、次に教義ビルドサービスの管理画面を開いた。
『ソースを選択し、ビルドを実行しましょう。この場合、先ほど作成した教義コントロールサービスのHelloWorldismリポジトリを選択します』
クイックスタートの指示通りに手を動かすと、少し待ってから『成功』の文字が画面上に表示された。同時に表示された『詳細』を選択すると、ずらずらとよくわからないログが並ぶページに遷移し、その下に『成果物』と書かれたリンクがあった。その中の一つを見てみると、電子書籍で経典が出来上がっていた。
いかにもそれらしい表紙をめくると、次のページには細かい文字で教義が書かれていた。
『これはあなたが守るべき掟である。あなたは日に一度、必ずこんにちは、世界と言わねばならない。これを怠ったものはだれでも殺されなければならない』
「おそろしい教義だな」とセンは呟いた。この教えを信仰しても何も救われなそうだし、一日でも言うのをさぼったら死が待っている。ノーリターンハイリスクだ。しかしとりあえずビルドとやらは終わったので、最後に教義デプロイサービスの画面に移った。
『最初にデプロイプロジェクトを作成します。作成したデプロイプロジェクト内で、デプロイ元の教義、デプロイ先の範囲等の設定を行います。完了したらデプロイボタンを押します』
クイックスタートと画面を見比べつつ、センは設定を終えた。最後に『デプロイ』のボタンを押し、しばらく待つと『完了』と画面に表示された。
『おめでとうございます! これであなたは宗祖になりました。より詳しい情報はこちらのドキュメントをご参照ください』
こんなことでおめでとうございますと言われるとは、センは今までの人生で想像したこともなかった。ぽちぽちと画面のあちこちを見ていると、デプロイプロジェクトの管理画面の中で信者数などが見られるのがわかった。
「ん?」
管理画面では、『信者数:1』と表示されていた。詳細を確認すると、信者の一覧に『セン・ペル』と名前が記載されている。先ほど範囲を選択するときに、間違って自分を選んでしまったのだろうか。センは念のため「こんにちは、世界」と言ってから、コノシメイに内線をかけた。
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