第3話


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 瞬く間に夕方が過ぎ、終業が近づいてきた。東京市場は既に仕舞っている。運用計画と日経平均株価、私が実際に運用しているポートフォリオの価値に何かおかしな点がないかを検証する。運用計画との乖離が激しければ、その時点で原因を探す作業に入るのだが、スタッフから入った今日の成績を見る限り問題はなさそうだった。

 私は今の投資信託会社で働き始めてから、運用成績は最低でも年二十五パーセントはキープしている。年二十パーセントで優秀と言われるこの世界では相当なレコードだろう。少しくらいは他人に自慢してもいいということだ。

 私は帰り支度を始める。コートを羽織り、PCの電源を落とす。既にスタッフはもういない。

 PCのファンが止まった。私は朝と同じような無人のトレーディングルームの明かりを落として部屋を出た。

 会社を出て電車を使い高輪台にある自宅に寄り道をせずに戻る。少しの時間が惜しいというわけではないのだが、時間はあったほうがいいに決まっている。

 何故なら今夜、私は人を殺す。

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