エピソード02 -未知なる細胞-

 いつも通り朝食を済ませて、いつも通り父さんと母さんがいる。

 ただ違うのは俺の体の異変と、不思議なイタリア人の姉妹がいることだった。

「ショーヤ。昨日は――」

「ああ、もういいんだ。俺こそごめん」


 ――今、もしこの場でライオンのような姿になったらどうなるだろうか?


 俺は怖くて仕方なかった。どっかの研究所に連れてかれていろいろと調べられるんだろうな。そう思うと病院には行けそうもない。


『——続いて、次のニュースです。昨日、午後八時三〇分頃、イタリア・ローマで起きたテロ事件の怪物の目撃情報により警察が出動した事件で、警察側は野生動物の見間違いとして発表しました。では続いて――』


「ローマのリオン患者多発テロ事件か。あの時はパパも海外出張で偶然、現場にいたんだ。怖かったな」

 父さんは新聞を折りたたみ机に置くと顔を曇らせた。

「父さんよく無事だったね」

「ああ。その時、主犯格の少年が今でも見つかっていないらしい。早く捕まってくれないとイタリアなんて怖くて行けない」

「あなた」

 母さんが父さんをよせと言わんばかりに肩を叩いく。

「ああ、ごめんよ二人とも」

「いいんです。慣れてますから」

 ジョアンナさんとマリアーナちゃんは悲しい顔で下をうつむいた。俺は緊張で食事が喉を通らない。


 沈黙を破ったのは意外にも、マリアーナちゃんだった。

「昨日は突然飛び出して行って、ごめんなさい。発作が起きて」

「オーマイゴッド! あたしからも謝ります」

 父さんと母さんはニコニコしながら、「いいよ」とうなずいた。俺はご飯を口にかけこんでしばらく黙っていた。

「そういえば、ジョアンナさん日本のお城に興味があるんだっけ?」

 俺も口を開き質問する。

「うん、一度見てみたいなあ」

「今度の土日あたりに行こうか?」

「私も行きたいです」

 マリアーナちゃんも賛同してくれたので家族で行く予定をたてた。


「――来る!」

 また、昨晩のようにマリアーナちゃんは止める間もなく外を飛び出していく。

「妹は発作が始まると外に出ていくんです」

 ジョアンナさんのその言葉はどこか嘘のような気はしたがあえて突っ込まないでおいた。自分も同じ発作があるかもしれないからだ。


「勝也、学校に遅れるわよ」

 母さんお言葉に反応して時計を見ると午前八時を回っていた。

「俺、気分が悪いんだ。今日は休むよ」

「どうしたんだ、風邪か?」

「それっぽい」

 父さんに聞かれておれはそれとなく答えた。

「一応、病院に行った方がいいぞ。夏風邪はこじれるとヤバいからな、ははは」

「そうするよ」

 俺は食卓から離れて自室へ行きスマホで、またリオン細胞の事を検索した。興味深い記事があったので、読んでみた。


『リオン細胞とは心臓の中心に極めて微細な細胞の事である。この細胞はまだ未知なる存在で、摘出は困難を要する。今現在この細胞を除去する特効薬を研究・開発中であるが、おそらく一年はかかるだろう。リオン細胞研究チーム最高責任者・大八木啓子』


「特効薬の研究・開発が進んでいるのか。病院に行こうかな」

 俺は安易にそう思い始めた。だが現実は甘くはない。自転車で三十分くらいの総合病院に行ったが、やっぱり診察を受ける覚悟がなかった。


 病院の前で立ち往生していると、パトカーがかけつけて現場は騒然とした。俺や他の人たちはテープが張られた外に追いやられた。

 しばらくすると鬼のような怪物が病院の出入り口から飛び出してきて、患者はおろか、看護師までもが襲われていく光景を目にした。

 白昼堂々と暴れまわる怪物に警察は銃を向けなかった。むしろその様子を見てるだけだった。まるで何かを待つかのように、だ。

 名古屋のベッドタウンはその怪物の出現によりパニック状態だった。


 そこに空から飛んできたのは白鳥のような姿の怪物だった。そして周りはまた騒ぎ始めた。みんなは俺を見ていた。

「ここにも怪物がいる!」

「ライオン男だ」

 俺は知らぬ間にライオンのような姿になっていたらしく、周囲は俺から蜘蛛の子を散らすよう逃げていった。車のミラーを見るとやはりライオンの姿になっていた。

「オーマイゴッド! 日本にリオンが二体も出現するなんて思ってもいなかったわ」

 声の主はジョアンナさんだった。俺を含め怪物は三体なのに、二体とは――そうこうしているうちに、白鳥の怪物は、鬼の怪物と戦い始めた。鬼の怪物は見境なく暴れてるのに対して、白鳥の怪物は自我を持っているらしく、臨機応変に戦っている。空を飛んではヒット・アンド・アウェイで鬼を攻撃する。

 そして弱ったところを、リーダーらしき刑事さんの合図で鬼の方だけを麻酔銃のようなもので発砲して動きを封じた。


「ジョアナ君、話が違うようだが? リオンが二体も出現するなんてイレギュラーすぎる。さてもう一体の方も片付けるか」

「そうね。やるのよ、ゼータ・チーニョ・リアン!」

 ジョアンナさんがそういうと白鳥の怪物が俺をめがけて飛んできた。俺はとっさにそれをかわして、鋭い爪で攻撃した。


 そのダメージで白鳥の怪物は空中から落下した。するとわき腹を押さえて少女の姿に戻った。

「マリアーナちゃん? どうして――」

「え、その声はショーヤお兄ちゃん?」

 俺はその瞬間に元の姿に戻った。そしてジョアンナさんと、マリアーナちゃんが俺に向かって、

「何で隠してたの?」、と怒りをあらわにしてきた。

「違うんだ! 俺がこの姿になったのは昨日からなんだ」

「え、覚醒したのは昨日なの? イレギュラーで出現したのはそういうわけね。ひとまずここにいる人たちの記憶を失くさないと日本中がパニックに陥るわ」

 そう言うと、ジョアンナさんは薔薇をイメージさせる姿になり辺り一面、薔薇の香りを漂わせた。

 俺はその香りを嗅いで意識がもうろうとしてきた。マリアーナちゃんと警察官たちはガスマスクを装着して匂いを嗅ぐのを防いでいたことは覚えている。

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