1-13

店を出た後、彼女がバーに行きたいと言ったので向かうことにした。


「隠れ場的なところでね、穴場なのよ」


彼に腕に絡みつき、ぴったりと寄り添うその姿に道行く人は何を連想しただろう。


少なくとも幸せな恋人同士には見えなかったに違いない。


「おかあさーん、蛇みたいだよ」


夜遅くまで親戚の集まりでもあったのだろうか。


どこかの子供が彼女を指さして大きな声で叫んでいる。


「もう、何言ってるの。失礼でしょ」


少し酔っているのか、声が大きくなっているのにも気づかずに注意する母親の姿を彼女はちらりと笑顔のまま見つめた。


「帰るわよ!」


何かを察したのだろうか大慌てで子供の手をひいて歩き出す母親。


その姿を楽し気に見送ると、彼女は彼に向かって笑顔で話しかけた。


「今日はクリスマスだから皆、浮かれているのね」


「そうだね」


先程のやりとりをぼんやりとしか聞いていなかった彼はのちに後悔することになる。


あの時の光景をもっとちゃんと見ておけばよかったと。

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