1-9

「知らなかったんだ」


騙されていたなんて…。


そう言って悲し気に、そして優しく微笑む彼の姿はまるで聖人のようだ。


冷たい風が今更思い出したかのように二人の頬を撫でる。


彼はお腹に置いていた右手をゆっくりと力なく動かした。


そこからは未だ止まることを知らない彼の血がゆっくりと流れていた。


少女の足元には彼の血が広がり、それは最初に出会った頃よりも広がっている。


未だに話せているのが不思議なほどだ。


「彼女に買えなかったこと連絡したんだ」


広がり続ける血と話し続ける彼。


少女を避けて広がる血に見向きもせずに少女は無言で彼を見つめていた。

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