第7話 異世界で迎える初めての朝

 翌朝。


(ど、どうして深藍さんの顔が目の前にッ!? ていうか抱き付かれてる!? って、なんだか暑いと思ったら寝間着の中には華林ちゃんが!?)


 窓から射し込む陽光を浴びる里織は朝っぱらから混乱の極致にいた。

 というのもなぜか目を覚ましたら深藍の顔がドアップで映し出されたのだ。しかもこれまたなぜか深藍は抱き枕をそうするように抱きついていて、それもただ腕を回すだけではなく脚も絡めてきているせいで身動きが取れない。


 更にいえば密着しているのは深藍だけではない。なんだか違和感があるので隙間から中を覗いてみたら、何故か下着の上に華林が乗っかっていたのだ。貧乳とまではいかないが深藍より少し小振りの胸は華林の重みで潰れている。


 まぁだが、噛みついてるわけでも爪を立ててるわけでもなく、アレルギーを持ってるわけでもないのでこちらは構わないといえば構わないのだが……はっきりいって毛むくじゃらなので擽ったいし暑い。


(そ、それにここって昨日の部屋だよね? あ、あれ? ベッドは? ベッドはどこにいったの? なんで布団しかないの?)


 視線を巡らせた里織は自分がいる場所が昨日の夕方寝ていた物と同じなのに、昨日あったはずのベッドが消失していることに首を傾げる。

 ベッドだ。布団は簡単に引っ張りだせても、重量級のベッドをかたすのは安易ではないはずだ。なのになぜベッドが消え失せているのだろうか。


(……ま、魔法?)


 と、そこで里織は自分自身の疑問を払拭する一つの可能性を導きだす。

 昨日深藍は魔法で記憶を覗いたと言った。

 魔法。魔法だ。魔法である。摩訶不思議な頂上の力である。

 科学の世界で生きてきた里織の常識では計り知れない力を用いたならば、ベッドを片付けるぐらいできるかもしれない。


(……で、でも、なんで? 片付ける意味ないよね?)


 だが、そうだったとしても今度は新たな疑問が生じる。

 魔法でかたしたとしたならば方法については答えが出る。しかし今度は代わりに何故、かたしたのか。理由がわからなくなる。わざわざベッドを片付けて布団を出したのなら尚更。


 唯一考えられるのは深藍がベッドが嫌いだという可能性だが、それなら自分をベッドで寝かせ深藍は取り出した布団で寝れば済む話だろう。そうせず二人とも布団で寝ているというのだから本当に意味がわからない。


「ひゅゃぅっ!?」


 と、一人思考に耽っていた里織は突然胸に感じた生暖かさとざらついた触感にすっとんきょうな声を上げた。


「な、なななななぁ! か、華林ちゃん!? なにやってるの!?」


 見れば、華林が寝惚けているのか胸に舌を這わせていた。しかも下着越しではない。下着の下に顔を突っ込み直に胸を舐め、時には吸っていた。

 別に動物に胸を舐められたからといって欲情はしないので変な気分になったりはしないが、物凄いむず痒いのでこれ以上胸を弄るのは勘弁願いたい。


「……ど、どうすれば……止めようとして引っ掻かれたら嫌だし……」


 だが勘弁願いたいが、気弱な里織にはどうすることもできない。

 睡眠を邪魔されれば気が立ち気性が荒くなる。それを考えると怖くて止めようがないのだ。


 結局里織はその後、深藍が起床し華林を起こすまで胸を弄られ続けるのだった。

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