第6.5話 這い憑きし者
寝室。
「あぁもう、本当に可愛いなぁ。こんなに安心しきっちゃって」
(……)
ベッドの中で規則正しい寝息を立てる里織の表情は安心して寝付いていることが簡単に窺い知ることができるほど穏やかなものである。
一方、それをベッドに腰掛け眺めながら里織を撫でる深藍の顔には柔和な笑みが刻まれていて、その瞳には愛し子を見るような慈愛が宿っている。
「……あ、
そしてその愛しい者を見守るような表情から一転、今度は異なる笑顔……周囲に元気を与え、幸福すら齎しそうな綺麗で素敵で無邪気な笑顔を浮かべいましがた別の星で起きた事故に嬉しそうに声を弾ませる。
「ちゃんと視た通りになったね。いやぁ。視れる未来は所詮観測時に一番可能性の高いものだけじゃん? いや、正確には他の確率の世界も視れるけど、確率的に視ても仕方ないものばかりだしさ」
「そうでなくても現状この世界に居ない……例えば世界を移動してきた神様が気紛れで介入しただけで簡単に変わっちゃうから、もしかしたら視た通りにならないかなぁって思ってたけど、無事視た通りになったね」
本当に楽しそうに嬉しそうに。
喜色満面かつ明朗な声音で。
深藍は言葉を紡ぐ。
「さて、それじゃ今から予定通り意気消沈……塞ぎ込む文ちゃんを支えに行こうと思うんだけど……どういうポジションで仲良くなろうかな?」
「近所に引っ越してきた同年代の少女として距離を縮めるか、偶然出逢った頼れる大人のお姉さんとして近付くか、養子として接近するか。どれがいいと思う、華林?」
憧れの先輩へのアプローチの仕方を模索する乙女のような純真な笑顔を浮かべる深藍は、自身の膝で寛ぐ狐へ意見を求める。
「その前にベッド消したら?」
が、狐……華林から返ってきた返答はそれだった。
丸くしていた身を起こし、グッと伸びをする華林に深藍は可愛らしく頬を膨らませ抗議する。
「え~。もっと真剣に考えてよね。これから仲間にする相手のことなんだから。ていうか折角畳に合うデザインのベッドをチョイスしたのに。まぁあたしも畳には布団の方が合ってると思うけどさ」
「なら布団でいいじゃない。ていうかどうしてわざわざベッドを創造したのよ。……大体想像はつくけど」
「それはほら、ベッドの脚に手を縛りつけるプレイのために……って、呆れた顔しなくてもいいじゃん。ていうか華林も好きだよね緊縛プレイ」
「確かに好きだけれども。わざわざその為だけにベッドを用意するってどうなのよ。別に緊縛プレイにベッドが必要不可欠なわけじゃないわよね」
「それはそうだけど……うん、そうだね。いらないね、ベッド」
瞬間。深藍が言い終わる否や、ベッドが布団に早変わりする。
ベッドと布団では当然のように高低差があるため普通ならベッドが消えた途端に浮遊し、布団の上に落ちることになるのだろうが、そんな常識彼女達には通用しない。
里織の体はまるで始めから布団で寝ていたようにしっかり布団の中に入っていて、ベッドに腰掛けていた深藍も当たり前のように何事もなかったかのように布団の上に座している。
「……さて、そろそろあたし達も寝よっか」
「文のことはもういいのかしら?」
「うん、もう大丈夫。無事決まった。文には同い年の少女としてアプローチをかけることにする」
「そう。それじゃ寝ましょうか」
「うん、寝よう寝よう。っと、その前に……お休み♪」
寝室に設置されたカメラに向かって挨拶をした後、電気を消す。
深藍は暗闇の中でそそくさ布団の中へ入り込む。
続き華林も布団に潜り込む。
「華林、お休み」
「えぇ。お休み」
里織に寄り添った深藍と華林は互いに挨拶をし合い、静かに寝息を立て始めるのだった。
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