12月23日(祝) みんなの心に涙雨

第20話

 翌朝の朝食は、キッチンに大量にあるパンと、玲央奈さんがサンドイッチ用に買ったハムだった。私はやはりご飯の方が好みだ。

 昨夜玲央奈さんが言ってた通り、午前中に買い物に出掛ける事になった。

 午後2時に父親がアメリカから迎えに来るらしい。……彼女は荷物の整理をしなくてもいいのだろうか。


「長く向こうにいるつもりはないから、大半は置いてくの」


 ……そんなに早く巨乳に育つとは思えんのだが……。根本的に向こうに行ったからといって育つものなのか?


「それよりみんな、プレゼントは何がいい?」


 今日の買い物とは、私達へのちょっぴり早いクリスマスプレゼントだ。


「あの、お嬢様。あたしは……」


「ふふっ、分かってるよ。琉川さん♪」


「はい! ありがとうございまッス!!」


 玲央奈さんの言葉にメイドさん嬉しそうだ。何を買ってもらうつもりだろう。

 さて、私の欲しい物だが……うん、無いな。白夜さんの事はもうほとんどと言い切っていいくらい手中に収めているし、他は何も思いつかないぞ。そもそも私、物欲ってないんだよな。

 どうしよう……。彼に先に決めてもらうか。私はその間に考えよう。


「白夜、キミは何が欲しいのだ?」


「オレ? オレが欲しいのは……まず手に入らないから……」


 何だそりゃ? えらい気になるなぁ。


「びゃっ君、値段が高くても大丈夫だよ。わたしのおこづかい……あれ? 何億ぐらいあったかな? ごめんなさい、あとでパパに聞いとくね~」


 誰に謝ったのだ? それに億って? 聞くに、一応父親に許可をもらわないと使えないそうだが。小学生の頃からそれだけ持っていれば、そりゃ性癖もおかしくなるか。

 この人、白夜さんに正しいタイミングで出会えて本当に良かったな。下手をすればもっと道を踏み外しているぞ。あと詳しい金額については確認しなくていい。何かブルーになる……。


「高いんじゃないけど……。金額にすりゃ高いのか?」


「煮え切らんな。ズバッと言ってくれ」


 気になってしまって、私の分を落ち着いて考えられないぞ。


「いいけど笑うなよ……。……た、タイムマシン……」


 無理だ、笑えん! 笑うところが無い!!

 はぁ……、白夜さんの家族話を聞いてなければ、ツッコミをいれて笑いに出来たかもしれないが。

 しかしこのまま放置するのもな。雰囲気がおかしくなる前に、何か気の利いた事を……ダメだ、何も思いつかん……。


「それは無理。他に無いの?」


 あ、私がどうこうする前に玲央奈さんがブった切っていた。よく考えてみれば私が頭を悩ませるのはそこではなかった。

 結局、白夜さんも私と同じく物欲が無く(プラモデルは安過ぎて却下されていた)、自分達では決められないので、玲央奈さんが決める事になった。……優柔不断な自分が少し嫌になった。

 玲央奈さんに決めてもらった結果、私にはスマホ(あまり使う機会はないと思うが……)、白夜さんにはこの屋敷(!?)が進呈される事になった。ん? 屋敷?


「びゃっ君とお姉様には、わたしの居ない間、琉川さんと一緒にこの屋敷に住んで欲しいの……」


 話によると、メイドさん一人では持て余すからだそうだ。いや三人でも、この広さならそう変わらんと思うのだが……。


「そうだ! 玲央奈?」


 話ついでとばかりに、白夜さんが玲央奈さんにアパートについて聞いていた。


「アパートの家賃、もしかして払ってくれているのか?」


 そう言えば大家さんが代わってから払ってないとか言ってたな。それに玲央奈さん、何故かカギも持っていたし。


「家賃? ううん、払ってないよ」


「あれ、そうなのか。オレはてっきり……」


「アパートごと買ったの」


「「買った!?」」


 おこづかい、ウンタラ億もあれば、あのボロアパートなんざ小銭感覚ッスかね~、ガーッハッハッハ!! ……はぁ、この人が大家さんだったのか。スケールが違うな。


「じゃあ、そろそろ……」


 お、もう出掛けるのか。


「みんな、順番におトイレに行ってくれるかな♪」


 ……私達三人は返事をする事無く、無言で車に乗り込んでいった……。



 「今日最後なのに……今日最後なのに……」とむくれる玲央奈さんを適当に宥めすかしながら、車は携帯ショップに着いた。まずは私の分からか……。

 私はスマホについて詳しくないので、機種選びからカラーまで、全て玲央奈さんがやってくれた。どうやら一番高いのを買っていたようだ。


 ショップから出た後、玲央奈さんが「わたしのいれておくね~」と番号やらアドレスやら登録してくれた。「ふふっ、わたしがお姉様のいっちば~ん♪」と最高潮に可愛い玲央奈さんの横で、私が登録名を確認すると『あなたの天使☆れ・お・な♪』とこのスマホごと消滅させたくなる表示になっていたので、彼女が日本を去った後『琉川さんの雇い主』と玲央奈さんの「れ」の字も無い登録に変更する事を決意した。

 もし登録名変更がバレても「白夜さんがやらかしました」とキリッとした顔で言っておけば大丈夫だろう。私は、ね。


 さて次はメイドさんの番だ。彼女と玲央奈さんが連れ立って入ったのは、コスプレイヤー御用達のお店らしい。らしいというのは私は入店しなかったからだ。それにしてもメイドさん、コスプレイヤーだったのか。髪もボサボサだし、化粧っ気もないのに意外だ。

 私と白夜さんが何気なくウインドウショッピングをしていると、彼がある店の前で立ち止まった。私が昨日訪れた玩具屋さんだった。


「少し見ていってもいいか?」


 玲央奈さん達はもう少し時間が掛かるだろう。私は了承し、二人で中に入っていった。

 彼が真っ先に向かったのは、例のプラモデル売り場である。


「白夜? それは昨日私が買っておいただろう?」


「……アレ、羽根が違うんだよ……」


「え?」


 そう言えば私が壊してしまったものは、天使の羽根のようなものが付いていたな……。

 昨日買った時は店員さんに名前だけ言って、任せっきりにしてたから気付かなかった。同名で違うバージョンがあるとも知らなかったし……。


「すみません、白夜さん……」


 これでは弁償の意味がない。


「いや、いいよ。アレはアレで好きだし……」


 白夜さんはそう言ってくれているが、それでは私の気が済まん。


「コッチの羽根のやつも買おう。もちろんお金は私が出す!」


「そこまで気ぃつかわなくていいって! オレが出すよ!」


 二人でどちらがお金を出すか揉めていると、いつの間にか入店していた、玲央奈さんが妙に興奮した様子で、私達の会話に割り込んできた。


「ねぇねぇ、コレも一緒に買おう! お金はわたしが出すからっ!!」


 そう言って見せてきたのは、やたら手を強調したプラモデルである。


「はぁ……。玲央奈さん、ソレ気に入ったんですか?」


 そこそこカッコいいとは思うが、女の子が好む類いのものでもあるまい。


「うん! だってコレ、必殺技が『ごっどふぃんが~』だよ? 名前も何となくお姉様を想わせるし、アメリカで寂しくなっても、あの時の事を思い出せそう♪」


 私は全力で拒否しようとしたが、玲央奈さんは白夜から箱をひったくり、そのままレジに向かって行ってしまった。……あの時の何を思いだしてナニしようというのだろうな。もちろん私には一向に分からないぞ! うん分からん……。

 ……あれ、考えてみれば玲央奈さんへのプレゼントが無いぞ? 結局プラモデルも買ってもらったし、もらいっぱなしという訳にもいくまい。親しき仲にも礼儀あり、だ。

 玩具屋さんを出て、メイドさんと談笑している玲央奈さんに、私以外で何か欲しい物はないか聞いてみよう。


「あの、玲央奈さんにも何かプレゼントを……」


「うん? もうもらったよ?」


 「みんなと過ごしたこの時間」とか言うのかな? 最後だし、流石のこの人もキレイに締めてくれるだろう。


「昨日今日脱いだ、お姉様とびゃっ君の服と下着♪」


 うん、こんな日でも安定の変態っぷり! かなわん!!


 その後、日々の食料品を買い、そのせいで時間が差し迫ってきた為外食し、屋敷に帰った。外食の時はあまり食べられない私も、今日はお腹一杯食べる事が出来た。

 今までと何が違うのだろう。やはり一人とみんなでとの違いだろうか。今日は気をつかうことが無かったし、多分そうだろう。

 屋敷でウトウトしている時に、玄関のチャイムが鳴った。全員で出て行くと、背の高い40~50代でロマンスグレーの髪、青い眼の男性が佇んでいた。

 雰囲気が玲央奈さんに似ている。この人が玲央奈さんの父親か。確かデンマーク人だと言ってたな。


「玲央奈、準備は出来たか?」


「うん、パパ」


 声ダンディーだなぁ。しかも超美形。体格はシュッとしている。


「あ、パパ。わたしの留守中、この屋敷に住んでくれる二人を紹介するね~」


「ふむ」


「この子が朝比奈美宇ちゃん。わたしのお姉様だよ!」


「……ぐっ…………」


 父親にまで「お姉様」言うなよ!! この人も戸惑って……ないな。娘のこういうのには慣れっこなのかも。とりあえず私は自己紹介をし損ねたぜ!

 玲央奈パパは私の前に跪き、目線を合わせた後、手を差し出してきた。紳士だねぇい。


「留守を頼むよ」


「は、はい」


 おちゃらけて洒落た事を言おうかと思っていたが、これだけしか声が出せなかった。

 握手した手からほとばしるエネルギーを感じた為だ。この人……デキる!


「それでこっちが、その……」


 ん? 白夜さんを紹介する段になって、玲央奈さんが明らかに狼狽している。顔も紅潮してるし、私の時とは丸っきり様相が変わっていた。


「ほう! キミがあの霧原白夜君か?」


「あの? ……はい、そうです」


 玲央奈パパは白夜さんに歩み寄り、握手をした。


「話は玲央奈から毎日、小一時間ほど聞いているよ!」


 話なっが!? しかも毎日て。罰ゲームに近いな……。


「改めて礼を言おう。キミのおかげで娘は良い方向に変わる事が出来た。ありがとう!」


 玲央奈パパは握手を解き、白夜さんにハグをした。……と同時に右手が白夜さんの尻を揉みしだいている。あっれれ~? 何かおっかしいぞ~!?


「えっ!? あのちょっ…………」


「なかなかいい尻をしているな!!」


「「ぶっ!?」」


 ここでも白夜フェロモンが猛威を奮っていた。この男、受け力高過ぎだろう……。もういっそ、香水として売り出してもいいのではないか? ソッチ系の人にバカ売れしそうだぞ!!


「白夜君、いずれベッドで語り合おう!!」


「はいぃっ!?」


 そう言い残すと、ホモのおっさんはハグを解き、身を翻してメイドさんのもとへ向かった。……白夜さん、気をつけて。握手から察するにそのおっさん……絶倫だぞ……。

 メイドさんと二言三言話した後、絶倫の王者は俯いている玲央奈さんの肩を叩いて、車の方に向かっていった。……あれ、玲央奈さん、泣いてる?


「玲央奈さん?」


 私が声をかけると玲央奈さんは顔を上げた。……涙でぐちゃぐちゃだ……。


「うぅ~……。泣かないって決めてたのに~……」


 泣きまくる玲央奈さんを慰めるよう、私は白夜さんの背中を押した。ここは彼しかいないだろう。


「玲央奈……」


 白夜さんは声をかけながら、玲央奈さんの前に立つ。


「びゃっぐぅ~ん…………うわぁぁぁん……」


 玲央奈さんは彼に抱きつき、胸の中で泣きじゃくっていた……――



 ――しばらくして、落ち着いた玲央奈さんが顔を起こした。


「……そうだ、びゃっ君にはプレゼント渡してなかったね~……」


「オレは……別に……」


 白夜さんには屋敷が与えられていたが、これは玲央奈さんが帰ってくるまでの期限付きだ。さっき買ったプラモデルに関しては、彼女の金銭感覚からすれば安価の為、ノーカンなのだろう。


「ごめんね、お姉様……」


 ――そう小声で言うと、玲央奈さんは白夜さんとキスをしていた……――


 数秒の後、重なった二人が離れる……。


「……びゃっ君は誰にも渡さないから……。わたしがいないからって浮気しちゃダ・メ・だ・ぞ♪」


 玲央奈さんは未だ呆然としている白夜さんに最高の笑顔を向けていた。

 そして私の方を振り向くと申し訳なさそうな顔をした。

 そんな顔しなくてもいいのに……。


 私はその程度のソフトキスで心が折れる程ヤワではないし、何より車の後部座席に座る『白夜さんの尻の感触を思い出すかのように自らの右手を見つめているヒーロー候補大本命』が気になって仕方がなかったのだから……。

 それでもこんな気まずいまま、見送るのは嫌だな。


「玲央奈さん! 向こうに着いたら連絡下さいね!!」


 私は「さっきの事は気にしてませんよ」と言わんばかりに、彼女にそう呼び掛けた。


「……お姉様……。うん! 毎日少なくとも二時間は話そうね♪」


 そない毎日話のネタあるかいな!! どれだけ喋ろうとしているのだ、全く……。

 玲央奈さんはメイドさんにも挨拶し、私達に手を振りながら、旅立っていった。

 見送った後私達三人は、アパートから荷物を屋敷へ移し、夕食を食べた後お風呂に入り、それぞれの部屋で眠った。




 ……どこだ、ここは?

 私は小綺麗な服を着ていた。

 周りで鐘の音が聞こえる……。


 ――結婚式だった――


 花婿は白夜さんで、花嫁は……胸の大きくなった玲央奈さんだった……。

 二人は大人になっていて、私は……子供のままだった。

 二人が目の前で誓いのキスをするところで、私は大きな声を上げた。


 ――いやあああぁぁぁ~~~…………!?!?!?――




 気が付くと私は身体を揺らされていた。

 心配そうな顔をした白夜さんが、私の両肩を掴んでいる。


「おい、大丈夫か!? スッゲェうなされてたぞ!?」


 ……ここは、屋敷の部屋……か……。


「……い、いえ……な、なんでも…………」


 私の声は情けない程震えていた。


「怖い夢でも見たのか……?」


「………………………………」


 ……確かに、あれが現実だと思うと……うぅ……。


「美宇?」


「あの、白夜さん……。……おといれ……」


「うん、分かった……。一緒に行こうか……」


 白夜さんは手を繋いで、トイレまで連れて行ってくれた。そして私が用を済ました後……。


「白夜さん……」


「ん?」


「……だっこ……」


「ほら……」


 白夜さんは私を優しく抱き上げる。

 彼は布団に入った後も私が眠るまで、頭を撫で続けてくれていた……。

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