第十二球目「美静」

『Rウイルス適合者リスト』

『多田理恵

金本絵里奈

坂本千尋...







広川一稀

広川美穂

亀井恵

...データ不明者二名』

『広川兄妹の学校生活に支障はない模様。自分が適合者だと気付いている可能性あり。一稀の機械も上手く作動している。美穂の機械は作動していないか、消滅していると思われる。美穂には厳重注意が必要である。亀井恵は自分が適合者だと気づいていない模様。Rウイルスの過剰摂取の影響で病院生活中。一稀と美穂と同じで、適合者レベルがSなので、繊細に扱わなければならない。一稀と美穂の監視を続ける。』

「あ〜もう疲れた!なんでこんなにまとめるの下手くそかなぁ私...あ〜...そっか...宿題やらなきゃ...」




美穂ちゃんは本当に何でもできる。

テストは毎回一位だし、成績はオールA、スポーツも音楽も何でもできる。

それでいて、人との付き合い方が非常に上手い。

コミュ力もあって、初対面の人でも仲良く喋れる。

...男の対象年齢はもっと上げたほうがいいと思うけど...。

本当に何でもできる人だ。

「ん〜?どうしたの?何か考え事?」

「あ、いや別に...」

「今度カラオケ行かない?穂乃果ちゃん達も誘ってさ!」

「か、カラオケ...?わ、私あまり歌には自信がなくて...」

「ん?そんなのどうでもいいよ?私静葉ちゃんと一緒に遊びたいだけだし。」

「じゃあカラオケ以外で...」

「恥ずかしがりながら歌う静葉ちゃんを見たいからやだ。」

「えー...」

...そんな美穂ちゃんと私は親友だ。

美穂ちゃんと出会ったのは確か...



...私が小学生の頃でした。

私は学校でいじめられていました。

クラスの全員が敵でした。

理由もわからないので、抵抗することも出来ませんでした...皆さんは、どのいじめが一番過激か知ってますか?...中学生、高校生、社会...確かに酷いイジメがあることくらい私でも知ってます。

でも...遠慮を知らない小学生のイジメは恐ろしく、怖いものでした。

あの助けを求めることすら馬鹿馬鹿しくなるほどの恐怖。

相談する人がいない怖さ...一生。

忘れる事は出来ない...いや、忘れられないと思います。

「今日も来たよあいつ。」

「きったねーよな。」

「学校来んなー!」

「「ぎゃはははは!」」

...これが怖い。

遠慮を知らない分、全て本気で言っているのだ。

この発言に...嘘、偽りはない。

冗談を言う人など...あの地獄には...一人もいない。

「ただいま...」

「なんだその格好は」

「何にもない...」

「これ以上面倒事を起こすなよ。」

...アザとかは...父の暴力も入っていると思う。

私が小学一年生の頃に母と父が離婚してから、父の心が壊れ、私に理由も無く暴力を振るうことによって落ち着いていたらしい。

...勝手に人を自分の抑制剤にしないでほしい。

「うるさい!口答えするな!」

...反論するとこうやって投げ飛ばされて、更に痛い思いをするだけなので、反論したりはしないが...父は...お世辞にも、料理などの家事が上手いとは言えない。

小学生の私でもできそうなことですら、すぐに投げ出してしまう。

こういうのは...社会不適合者というのだろうか...?

会社でも、上手くいっていないらしい...何故幼い頃の私はこの人について行こうと思ったのだろう...こんなこと...幼く小さいあの頃でもわかってたはずのに...最近では、お風呂が上手く入れなくなってしまった...お風呂が辛いものだとは思ってなかった。

その一日のことをすべて思い出してしまうから、寝るのも一苦労だ。

男子生徒からの暴力と、父からの暴力の二つによって出来た傷が私の体を蝕む。

私なんのために生きているのか、最近は本当にわからない。


「また来たよ」

「アザきもっ」

「死ね!」

...そろそろ、慣れないといけない...と思ったその時だった。

「そういうこと言うの、よくないよ。」

「もう行こーぜ。」

「お、おう...」

...驚いた。

助けてくれる人がいるとは。

「ねえ、大丈夫?」

...クラスで唯一の友達...この子ならなれるんじゃないか...とか、あの日の私は考えていた。

...しかしこれは...私に更なるダメージを与えるための、罠だった。

...私は、その子と仲良くしていた...いや、させられるように誘導されていた。

...ある日、私がいつも通りいじめられていると、その子がやってきて...いじめに加勢した。

「ごめんね。最初は仲良くしようと思ったんだよ?でもね?無理だったよ〜...あはっ。しょうがないよね!キモいんだもん!」

そう言って横腹を蹴った。

...その日から、誰かを信じることをやめた。

いつも聞こえてくる笑いですら、恐怖を感じるようになった。

自分のことを笑っているようで、嫌だった...

...一体、この生活に何の意味があるのだろう...?


...ずっと生きる価値を探していた。

私は休日に人気の少ない公園で特に何もしないのが好きだった。

いつも通りそこでベンチに座っていると、あの子はやってきた。

「こんにちは。」

「え、あ...こ、こんにちは...」

...どうしよう...この子、私のことすっごく見つめてる...どうしよう...

「きょ、今日もいい天気ですね...」

「別に無理に話さなくても...」

ですよね。

「ここにはよく来るの?」

「は、はい...ここでぼーっとするのが一番好きで...」

「友達とは遊ばないの?」

「あ...と、友達は...いないので...」

「あ、そう...私と一緒だね。」

今でこそ友達だらけの美穂ちゃんだったが、あの時は私と一緒で友達が一人もいなかった。

「いいところだねー。」

「で、ですねー...?」

感覚ズレてるのだろうか。

本気で何も無い所なのだが。

「何もないのがいいよねー。」

心読めるのだろうか。

「読めないよー?」

まぁそりゃそうか。

「ねえ、名前何?」

「多田静葉です。そっちは...」

「広川美穂だよ。よろしく!」

「そ、その...私は...基本的に休日はここに居ますので...その...」

「ほんと!?じゃあ休日の日はここに来るね!?」

「え、あ、は、はい...」

...言おうとしたことを先取りされた...



その日から美穂ちゃんと休日に話すようになった。

数週間後。

私はすっかり美穂ちゃんと打ち解けて、初めて敬語で話さなくなった。

「あのテレビ見た?」

「...私あんまりテレビ見ないんだ...」

「あー...ねえ、やっぱりそっちの話聞かせてもらえないかな?静葉ちゃんに友達が出来ない理由が全然わかんなくて...」

「...そっちも後で聞かせてね?...えっとね...」



「...ふーん...皆、屑だね。」

「え...」

「こんなに優しくて、いい子なのに...なんでいじめるの?...しかも理由がわからないって...親も暴力を振るうなんて...」

「ひ、人の悪口を言うのは...」

「...ほら、優しすぎるんだよ。」

「...うぅ...」

「...でも...いいよね...人に優しく出来てさ...私は...違うから...」

...美穂ちゃんの目に涙が浮かぶ。

ハンカチを取り出して、渡す。

「あはは...ごめんごめん...」

「...ねえ、聞かせて。そっちの事も。」

「...私は...人に優しく出来ないんだ。家族以外は、静葉ちゃん以外大っ嫌い。でも...誰も私のことを嫌ってくれない...あはは...もうどう言ったらいいかわかんないや...ごめん...こんな美穂ちゃん...嫌だよね...ごめんね...最悪だよね...」

「...いいと思うよ!」

震えている美穂ちゃんの手をしっかり握ってはっきりと言う。

「え?」

「だってそれが、美穂ちゃんでしょ?...美穂ちゃんが自分を嫌ってほしい理由はよくわからないけど、私達まだ小学生なんだよ?自分の事に悩んでもいいと思う!...たしかにちょっと当たりはキツイし、性格が良すぎるとも思わないけど...私は...そんな美穂ちゃんが、大好きだよ?」

「...やっばり...静葉ちゃんをいじめる人達の気持ぢ...わがんないよ...こんなに...いいごなのに...ひぐっ...うあぁ...」




...ある休日、用事で早めに帰ってしまった美穂ちゃんとわかれた後、何も考えたくなくて外でブラブラしていた。

「...静葉?」

...幼い頃、聞いたことのある声が聞こえた。

「...静葉なの?」

「お母さん...?」

「静葉なのね...?どうしたの...?こんな所で...服...あの人にやられたの!?」

「...うん」

「いや...それだけじゃない...静葉...もしかしてだけど...」

「...お母さん...」

「もう大丈夫...大丈夫よ...」

私はこの後、お母さんに引き取られ、引越しをすることになった。

美穂ちゃんに別れの言葉を言えないことを後悔しながら。

...まぁ...お父さんは私が消えても困らないだろう...




「...素敵な家。」

着いた所は元いた家から少し遠く、元いた家よりも裕福な家だった。

「よかった。気に入ってくれて。」

「...あ〜...そいつ誰?」

一人の男が近寄ってくる。

「あら友樹。貴方の本当の妹の静葉よ。」

「...妹いたの?ま、細かいことはいいか。家族なんだし。よろしくな。」

「...よ、よろしくお願いします...」

「家族に敬語はいらないんだぞ?」

「え...でも...うぅっ...よろしく...」

「おう!...ってやべ、練習行ってくる!」

「行ってらっしゃい。」

...これで、私の生活は楽になるのかな。



「多田...静葉です...よろしくお願いします...」

「今の時期に転校生って珍しいね。」

「可愛くね?」

「可愛いよなー」

「男子!変な事言うな!」

「あ、席はここだよ!」

...前よりは楽しそう。

「私、穂乃果(ほのか)!よろしくね!」

「...美咲(みさ)です。よろしく。」

「よ、よろしくお願いします...」

...前よりは本当に楽しそうだ。

放課後...いつもならみんなに殴られるが...そんなことは無かった。

その代わり、あの二人が一緒に帰ろうと誘ってくれた。

「静葉ちゃんは皆に敬語だよね。」

「そ、そうですね...えっと...」

「穂乃果。何か理由があるかも知れないんだから無闇に聞き出さない。」

...この二人は信じたい...でも信じれない。

友達だと思っていたあの子のようにどこか心の底でいじめようとしているのかもしれない...こんな事を考えている、自分も怖い。

...美穂ちゃんに会いたい...

「ご、ごめん。」

「穂乃果は皆と付き合うのが上手いからいいけど...多分静葉ちゃんは苦手なんだよ。」

...美咲さん...凄いなぁ...苦手とは少しだけ違うんだけど...

「...なんていうか、駄目とは言わないんだけど...静葉ちゃんって暗いよね。」

...それはその通りだと思う。

人を信じられなくなった上に、性格は元から明るくはない。

これでも美穂ちゃんのおかげでだいぶ変わったつもりだ。

「...明るくなくてごめんなさい...」

「...静葉ちゃん...えっと...ごめんね。間違ってたら言って欲しいんだけどさ...」

「美咲?どうしたの?」

「...?」

「前の学校でいじめられてた?」

「...っ!!!」

体が一気に震え出して、立てずに座り込む。

頭が凄く痛い。

「静葉ちゃん!み、美咲!」

「...やっぱりそうですか...その...えっと...私達はいじめないので...その...もし静葉ちゃんさえよければ...仲良くしてください。私も友達がいないので...」

...私はこの優しい誘いにすら疑問を感じるほど心が荒んでいた。

本当に?本当に友達になってくれる?他の友達と一緒にいじめようとしてるんじゃないの?

...でも...美穂ちゃんに似ている...


...体の震えが止まり、しばらく何も話せなかった。

「...前の学校でいじめられていたのなら...人を信じられなくても無理はないと思います。だから...待ってます。」



...自分の家に着いた。

いつもの様な気だるさは無かったが、少し不安だった。

「おかえり、静葉。」

...優しいお母さんの声で、少しだけ安心する。

せめてでも、お兄ちゃんやお母さんの家族だけは信じれるようになりたい。

勿論、他の人もだけども。

「ただいま...」

「元気ないね。何かあった?」

「...ううん。何も無かったよ。」

「そう。何かあったらちゃんと言ってね?」

「うん。」

...?あれ、お兄ちゃんの横に誰かいる。

女の人...?お兄ちゃんの彼女?

「一稀〜...ここわからん...」

「問題の3/4程がわからないって...友樹...高校で補習になるよ...」

「補習...補習って何?」

「そこからか...えっとね。つまり言うと、テストの点数が足らないから勉強をさせられて部活が出来なくなるの。」

「部活が出来ない...!?い、一稀!勉強もっと教えて!」

「...まずbe動詞と一般動詞の違いを覚えてほしいんだけど...」

...どう考えてもお兄ちゃんの勉強を教えている苦労人だ。

お疲れ様です。

「...あれ...友樹。あの子は?」

...気付かれた。

勉強を邪魔しないように物音は立てなかったはずなのに。

「お、静葉帰ってたんだ。おかえり。えっとなー...妹の静葉。」

「...妹いたっけ。」

「昨日出来た。」

「は?」

...お兄ちゃんがざっくりした説明をするから一稀さんが混乱している...。

「なんというか...大変でしょ、この馬鹿。一日いるだけでもそうなんじゃない?」

「えぇ...まぁ...それでも、優し...」

...何言ってんだろう私。

この人はあの父親の息子なのに。

「知ってる。付き合い長いからね。僕はこの馬鹿を止めてあげる抑制剤だから。」

...いい人だと、一瞬でわかった...それにしても...僕...?女にしては珍しい第一人称だ。

「馬鹿馬鹿うっせー!抑制剤って何だよ!」

「そんなのも知らないから馬鹿なんだよ。」

「今be動詞は覚えたぞ!」

「普通の人は疑問文とか否定文とか進んでるんだよ...遅いんだよ...」

「...疑問文...?なにそれ?」

「...なにそれ?って聞いてること。」

「わかるようでわかんねえ!」

「えぇ...」

...いい友達持ってるなぁ...こうやって、人を簡単に信じられればいいのに...あれ?でも不思議だな...一稀さんと話す時、あの二人みたいに緊張しなかったな...普通に喋れた...本当に不思議だな...

「一稀君いつもごめんね〜...友樹が勉強を全くしないばかりに...」

「いいんです。僕は勉強出来てますから。」

「それでも493点はおかしいって!」

え!?493!?...て、天才だ...天才がここにいる...どう勉強すれば7点しか間違えずにすむんだ...

「いいし!野球で潰すし!」

「なら早く僕のボールについていけるようになる事だね。バットにかすりもしてないじゃないか。」

「はえーんだよ。変化球もすげーし」

「...あ...れ、練習したんだよ」

...一瞬。

一稀さんが暗い顔をした気がした。

一瞬だけだったので、本当はそんな顔をしてなかったんじゃないかと思う程だった。

「練習なら俺もしてるよ。」

「...で、そろそろ勉強を終わらせたいから僕の家まで来てもらうね...地下で。」

「...っ!?やめろおぉぉぉぉ...地下室はやだあぁぁぁぁぁぁぁ...」

...地下室...?


...それから約半年。

私は中学生になった。

そのまま転入なのでお兄ちゃんと一稀先輩と和馬先輩と一緒の学校で、勿論あの二人も一緒だった。

「...あれ?静葉ちゃん?」

「一稀先輩、おはようございます。」

「朝早いんだねー...」

「そういう先輩も早いじゃないですか」

「あ〜、和馬が早めに来るから喋れるんだよ...馬鹿は遅いけど。」

「馬鹿ですから。」

馬鹿だからしょうがない。

「...失礼なんですけど...私、最初先輩の事女だと思ったんですよ。」

「...後輩の男子からよく告白されてる...僕、そんなに女に見える?」

「見えます。っていうか告白されてるんですか...大変ですね...」

「...うん...たまに男と言っても食い下がらない人もいるから怖いよ。」

こっわ。



「おい美穂!今日はサッカー部に遊びに来いよ!」

「またゴールを決められに来たの?」

「ちげーよ!」

「ごめんねー、流石に今日は野球部のマネージャーの仕事をやらなきゃいけないからさー?」

「そうかー...また来いよなー!」

自分らしく生きてみたら、友達は寄ってきてくれた。

私も全員が大事だと考えれるようになれた。

でも...自分らしく生きていく事を勧めてくれた友達はもういない。

...あの日から、毎日あの人気のない公園に来ている。

もしかしたらいるかもしれないから。

...いつも、いなくて結局諦めて帰るのだが...



...練習が終わり、マネージャーの仕事も終わり家に帰ると、お兄ちゃんが居なかった。

どうせ友樹の家に居るんだろう。

押しかけてやろう。

「すいませーん!お兄ちゃん来てませんかー?」

「あ、はい...一稀先輩の妹さん...で...す...か...?」

...あれ、この人の髪型見たことある。

喋り方とかこのちっこさとか声とかさっきまで考えていた子に似ている。

っていうかこの子静葉ちゃんやん。

え?待って?何でここに?

「...は?」

「...ひ、久しぶり...」

「久しぶりとちゃうわボケェ!何でいきなりこーへんくなったんや!」

「何処の人!?ごめん!?」

「ふふふ...とりあえず...久しぶり...」

「あ...うん...久しぶり...」

...少し立ち話をすると、同じ学校だったみたいぇ、しかも同じ野球部のマネージャーの様だ。

ふむ、私がサボってない日と絶妙なタイミングで休んだりしていたらしい。

ちょっと神様残酷すぎない?

「ん?あ、美穂、おかえり。」

「おいーっす。」

「え、あ、い、一稀先輩!」

「うん?」

「あ、い、いえ...二人って兄妹だったんですね!」

「あーうん。そうだよ。」

「に、似てますねー!」

この会話を聞いて確信したことが一つある。


これ絶対静葉ちゃんお兄ちゃんに惚れてるよね。

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