第十一球目「病気の後輩」

「Rウイルスの予防接種いくぞー...こら、大吾隠れるな。」

「観念しろ大吾、無駄だ。」

「ぎゃああああ美穂助けてええ...」

「本当にそれで来たらシャレにならないからやめろ。ほら行くぞ。」

大吾の注射嫌いは相変わらずだ。

俺と和馬は大丈夫なのになんでこいつだけダメなんだろうか。

「佐助兄ちゃん!引っ張り出すぞ!」

「おう。」

「いやだあああぁぁぁ...」



まぁ流石に病院に来た後からは観念して大人しくなった。

「そういや...Rウイルスって何?」

「あぁ...本来の用途は人の力を引き出せる可能性のあるものだったらしいんだが、失敗してな...何かの拍子に流出した今では、インフルエンザみたいなもんで、熱とかが出てくるんだよ。」

「人の力を引き出す?」

「人間の脳が100%使われていないことは知っているよな?」

「おう。」

「そーなんだ...」

「...大吾にはちょっと難しかったかな。それで、少々危険だがウイルスの力で脳を攻撃して、100%の力を引き出せないか...なんて考えた奴がいたんだよ。」

「実際には無理なのか?」

「それが、適合者と言ってな?ある条件を全てクリアした者のみには実は引き出す事が出来るらしいんだよ。」

「...難しいんだな。」



予防接種が終わり、俺達が帰ろうとした時に、俺は声を掛けられた。

「あれ...もしかして佐助先輩ですか?」

「お、恵ちゃん。久しぶりだね。」

「えへへ、予防接種ですかー?」

「うん。そっちは...入院中かい?」

「あっはは...はい...体調不良です...」

「お前らは先に帰...ったか...大丈夫かい?」

「ふふふ、大丈夫ですよ。」

恵ちゃんは俺が八九高校の三年の頃に一年だった子で結構仲が良かった子だ。

「えっと...俺時間あるけど...」

「ほんとーですか!?ちょっと話しま...ゲホッ...ううっ...は、話しませんか?」

吐血した。

恵ちゃんが「またか...」と言わんばかりの顔でいるからいつもの事なのだろうが...心配だ。

「大丈夫?病室行くかい?」

「は、はい...えへへ、ごめんなさい」

「謝らなくたっていいよ。大丈夫。」



結構あの後は普通で、取り留めない話を続けていた。

「えへへ...仕事は上手くいってます?」

「いってるよ。期待の新人だってね。」

「凄いですねー...いや本当に...ふふ...」

「...おっと...そろそろ帰らないとな...じゃあ...気を付けてな?たまに来るよ。」

「はい!そっちもお仕事頑張ってください!本当にたまにでいいですからね!」



「......ゲホッゴホッ...うっ...ゴフッ...はぁ...はぁ...あはは...ちょっと...先輩の前でこんな姿見せ過ぎるのも嫌だったからって...無理...し過ぎちゃったか...な...!?せ、先輩...!?か、帰ったんじゃ...!?」

「...そんな事はどうでもいい。何故無理をした?...それはなんだ?どう考えたって体調不良から来るものじゃないだろ?...なんで...嘘をついたんだ...?」

「ご、ごめんなさい...ゲホッ...こんな姿を見せるの嫌だったんです...ゴホッ...」

「そうかよ。無理をしてそんな事になる状態なら気遣うのは俺じゃなくて自分の体調だろうが。」

「...はは...」

「...ところで、教えてくれ。恵ちゃんのその状態は一体何なんだ?」

「...命...です...」

「え...?」

「...余命...です...」

「なっ...!?」

...絶句した。

さっきまで笑って話してくれた子が、いきなり余命だと言ってきたのだから。

つまり...あの気遣いを責め立てた自分は...とんでもない愚か者だったのだ。

「後二年です。」

「...」

「手術にはお金がいります。」

遂に、表情が消えた恵ちゃんに、なんといったらいいのかわからず硬直する俺に、恵ちゃんは容赦なく自分の身に起こってる絶望を伝えてくる。

「そのお金は3億円です。」

「ですが、私はこの身体。家は貧乏で、収入源といえば...お兄ちゃんがプロ野球選手になるくらいでしょうか。」

「二年で3億円稼げるでしょうか?新人から?...わかってくれますか?」

「あぁ...」

「そんな顔、しないでください。」

「やめろ。」

「えへへ、大丈夫ですよ。」

「笑うな。」

「ふふふ...どうしたんですか?先ぱ」

「やめろって言ってんだろ!」

「なら無責任な事言わないで下さい。」

「うぅ...うぁ...!」

「先輩。」

「.......なんだ?」

「私、先輩の事、大好きです。」

「.......」

「一年生なのに三年生に絡んでるのなんて、私ぐらいだったと思いますけど...真剣にあの時から、佐助さんに一目惚れしてたんです。さっきみたいに、ちょっと惜しいところがありますけど、私のことを心配してくれて、自分の事を心配しろって言ってくれて...そういった...優しい佐助さんが、大好きなんです。」

「......」

「あ、あの...よかったら、なんですけど...別に断ってくれてもいいですし...えっと...私に、思い出をくれませんか?残った二年間だけですけど愛してくれませんか?」

「...断れるわけないだろ...」

「すいません、卑怯な質も」

「好きな人に告白されて。」

「...えっ...」

「そうやって、空回りするけど、いつも皆を気遣ってくれて、いつでも優しいお前が大好きだ。俺の方からも言わせてくれ。こんなのでもいいなら、二年間俺に守られてくれ。守らせてくれ...恵。」

「...はい!心強いです!佐助さん!」

...こうして...俺と恵の二年間以上続くことを許されない恋愛が始まってしまった...

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