第十球目「笑顔」
春の大会の二週間前。
僕と亀井先輩はまた入院する事になった恵先輩の見舞いに行った。
「あはは、いつもありがと〜...ははは、練習もやりなよ?」
「やってますやってます。」
「...体調はどうだ?」
「ん?今は悪くないね、ははは」
「何笑ってんだよ?」
「別に〜?ふふっ...」
最近の恵先輩はよく笑う。
それが悪いわけでは無いのだが...
「大丈夫なんですか?」
「ヒャヒャ、大丈夫大丈夫!」
...たまに笑い方が変だったり、夜な夜な屋上で一人で座ってたりするので、よくわからないのだ。
もしかしたら僕達を心配させない様に笑ってくれてるのかもしれない。
それとも...何か隠してるのだろうか。
「最近さ、眠くないのにすぐ寝ちゃうんだよね〜えへへ、なんでだろ〜?」
「それただ眠かっただけだろ。」
...そんな事は無いと信じたいものだ。
春の大会は僕達は出ない事に決まった。
僕も、和馬も友樹もその方がいいと考えていたので、反論はなかった。
亀井先輩の実力が圧倒していて、地区予選は楽々と進んでいた。
決勝戦。
僕は恵先輩の病院に居た。
本当は応援に行きたかったが、亀井先輩があまりにも心配していたのでついつい「じゃあ僕が病院で恵先輩を見てますから。試合はテレビで見ますし。」と言って引き受けてしまった。
僕も僕だが、血が繋がってるわけじゃない、ただの仲のいい先輩と後輩なのに妹の見守りを任せる亀井先輩も亀井先輩だと思う。
まさかの「すまん。頼む。」の二つ返事だったし。
信頼されるのは嬉しいのだが...
「あはは、どーしたのー?」
「...亀井先輩は何故僕に大事な妹を任せたのかな...と思いまして。」
「んー?あはは、どういう事〜?」
「...いやその...」
「ふふっ、でも私は一稀君が病院で一緒に居てくれるのは嬉しいけどな〜?」
「えっ...そうですか?」
少し意外だった。
いつも亀井先輩と一緒に来るので、僕が来た時の反応は気にしていなかった。
「お兄ちゃんが安心して任せてくれる理由もなんとなくわかるよ〜?えへへ、一稀君は優しくて、頼り甲斐があるから...その...好きだよ?はは。」
「僕彼女いるんで。」
「あーもー!今真面目に話していたのにー!...ふふっ...そういう所だよね。」
自分では全くわかっていなかった。
そういう所を、皆は理解してくれているから僕のような変わり者でもちゃんと接してくれるのだろうか?
「...お兄ちゃん勝てるよね〜?えへへ」
「当たり前じゃないですか。先輩が負ける所なんて想像出来ませんよ。」
「...えっと...あー...コールド勝ち...決勝戦なのに...ははは...あーあ...」
恵先輩が呆れながら笑う。
まぁ僕もそう思う。
相手のチーム泣いてるし...流石に...このやり方は先輩らしくはないが...まぁ...やはり制限を解放してしまうと地区大会ではこのくらいの差があるのだろう。
...相手には可哀想だが、これが実力の違いだと思って諦めてもらうしかない。
「今年も甲子園...優勝かなぁ?」
「それはまだわかんないですよ...」
「あはは、だよねー!」
恵先輩はどう思っているのだろうか。
自分が死ぬ事を理解しているのならやはり助かる手術を受けれるお金を稼いでほしいのだろうか。
それとも...命よりも、自分の事を愛してほしいのだろうか...?
恵先輩の心情は...僕には...読めない。
僕は、やって来た亀井先輩と話した後、病院を後にした。
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