第五球目「大親友」
「ん?友樹、それなんだ?」
クラスメイトの一人が俺が何かを書いているのを見て不思議に思い聞いてくる。
「あぁ、これか?一稀との交換日記。」
「え、一稀と交換日記してんの?相変わらず仲良いなお前ら。」
「...実は小学生の頃からやってる。」
「長すぎだろ!...何冊目だそれ?」
「多分10冊以上...」
「...それ、持ってる?」
「...一稀が持ってる。」
「そうか...そういや友樹、一稀って小学生の頃ってどんな感じだったんだ?」
「あぁ...うん...えっとな...」
俺の名前は友樹。
今日から小学一年生だ。
「今日から小学生だな!」
「...うん。そうだね。」
...こっちで面白くなさそうな顔をしている方が一稀。
ちょっと冷たい。
「楽しくないのか?」
「...うん。」
「大丈夫だって、ちゃんと友達出来るって。」
「...そんなこと心配してない。」
相変わらずよくわからない。
小学生になれるって嬉しい事じゃないのか?
「教室、一緒だといいな。」
「...そうだね。」
...そこは嬉しそうな顔するんだな?
「勉強...したくないな...遊びたい。」
「...勉強しなきゃ世界で生きてけない。」
「うぅ...そーなの?」
「うん。そーなの。」
...一稀は男なのに女にしか見えないせいだろうか?...変な気分だ。
「やっと着いた...遠いな!」
「喋りながら歩くからだよ。」
「クラス見に行こーぜ!」
「...あ、一緒だ。これで友達ができなくて一人で悲しくなる事は無いね。」
やっぱり心配なんじゃねえか。
「...俺と一緒だと嬉しいんか?」
「嬉しい。」
「え?あ、お、おう!そっか!俺も!」
...あー...やっぱ男とはいえ可愛いな。
「...変な事考えてただろ気持ち悪い。」
何故バレたのかはわからないけど気持ち悪いは言い過ぎだろ!...と言っても、こいつは表現の仕方が悪いだけで友達のことは大切にしてくれるんだよな。
...放課後。
「なー...野球やらね?」
「...野球...?なんで?」
「面白そうじゃん。」
「...いいけど...」
「ほんとか!?じゃあ今日おかーさんに絶対言えよ!」
「わかった。」
野球に誘ってみたら、案外食いついてきた。
そういえば一稀はあの難しいプロ野球...っていうやつをよく見てたな。
「...野球...」
...久しぶりに一稀の嬉しそうな顔を見た気がした。
そしてその翌日。
「...ところでどこでやるの?」
「ここだ!」
「...えっと...チームって友樹...小学生一年生が入ってもいいの?」
「ここは小学生チームだぞ!」
「いやそうじゃなくて...」
「お、なんだ?野球したいのか?」
一稀がよくわからないが焦っている内に、コーチと思われる人がやって来る。
「おう!」
「はっはっは、そうかそうか。ここの練習は厳しいぞー?着いてこれるかー?」
「着いていける!」
「そっちの根性は十分だが...隣の子は...どうかな?」
「...やれます。」
「...そっちもOKみたいだな。んーっと...監督!」
「あ〜はいはい、新入り?」
監督と呼ばれた女の人がやって来る。
「小学一年生みたいなのですが...」
「...とりあえず投げ込んでみたり、打たせてみたら?」
「...フォームとかは知ってるか?」
「知らねー!」
「知ってます。」
「友樹君は監督よろしくお願いします」
「はいはーい。じゃ、一稀君の方はよろしくお願いしますねー。さ、友樹君こっちだよー」
「...さて、一稀君。ポジションは?」
「...ピッチャーです。」
「...なぁ、経験でもあるのかい?只者ではなさそうな感じがあるのだが。」
「...特にないです。」
「...まぁ、とりあえず投げ込んでくれよ。」
...野球って意外とやりやすいんだな。
「いやー!あっはっは!これまで野球少年は何人も見てきたけど君ほど覚えるのが早い人は初めてだね!」
「そーなの?俺ってすげー?」
「おー、すげーすげー。」
「一稀より!?」
「そりゃわからんなー...」
...その後、ヒョロヒョロとした様子でコーチが監督の所まで走ってくる。
「...どうしました?」
「はぁはぁ...や、やばい。一稀君は『本物』だ。投球がおかしい。」
「...しょうがないですね〜。じゃあ私が行ってきますからもう一人の『本物』でも見ておいてくださいよ!」
...一稀、何やらかしたんだ?
「一稀君。とりあえず投げてみて。」
「はい。」
一稀が小学生とは思えないほどの速さ、コントロールでボールを投げる。
「...ふぅむ...天才みたいだね〜...」
「ど、どうでした?」
「...そのフォーム...プロ野球選手の混合でしょ。よく観察してるね。」
「は、はい。毎日録画して、録画を見直してるんです!」
「...ノートとか、ある?」
「は、はい!こ、これなんですけど...」
「...!?す、すごい...変化球の特徴や、配給。投げる球のパターンまでメモをしてる...どこまで行ったら...ってこれって...変化球...オリジナル...?」
「...そ、その...自分だけの変化球...投げて...みたいな...って...」
「ふふっ...」
「や、やっぱ、おかしいですか?」
「いやいや、そうじゃなくてやっと子供っぽいところ見れたなって思ってさ。」
「あっ...ぼ、僕やっぱり子供っぽくないですか...?」
「うん。とても小一とは思えないね。」
「そ、そうですか...」
「...それはいい所でもあるんだよ。」
「えっ...本当ですか?」
「ほんとほんと、自信持つ!」
...そんな会話が続き、一稀は監督と少し子供じみた話で盛り上がり、友樹はコーチの教えによって成長していた。
「はい、じゃあこの手紙をお家の人に渡してね。」
「今日はありがとうございました。」
「...子供っぽくていいんだよ。」
「そ、その話はいいんで!」
「野球楽しかった!」
「おーそうかそうか!」
...一稀が野球で子供っぽくなっていた...そう考えると、俺は一稀を心の底から笑わせたことなんて一度もなかったな...
...一稀を心の底から笑わせることが出来たのは、確か四年生の時だった。
「...ごめん、いつも塩対応で。」
「いいよ俺は。」
「...低学年の頃に失礼な事をしまくった覚えしかない...」
「あぁ、大変だったぜ、全く、手こずらせやがって!」
「あはは、なんだよそれ。」
「...やっぱ違うな。」
「...?何が?」
「心の底から笑ってない!」
「そ、そうかな?」
「笑ってないんだよ!」
やべ、怒ってんのに変な顔になった。
「...ふっ...」
「え?」
「あはははははははははははは!」
「わ、笑ったァ!?」
「あはは!なんだよその顔!」
「うっせー!人の顔で爆笑するな!」
「あはは!あははははは!」
...こいつ、笑ったらいつも以上に普通の女の子にしか見えなくなるな。
「はー...はー...さ、練習行こっ!」
...その日から一稀は表情が柔らかくなった気がする。
人に対して塩対応を取るのも止め、今の一稀に近付いた...そして、愛想がよくなった途端クラスの人気者に早変わりしてしまった。
「おはよ。」
「おはよう!」「おはよ!」
「...おはよう...」
「おはよう一稀君!」「おはよう一稀!」「眠そうだな、大丈夫?」
...なんの差なんだろう。
確かに一稀は一瞬で性格が変わったし、愛想よくなって、よく笑うようになったから接しやすいのはわかる...だが親友である俺は心の底から笑った時のことを知っている!
...一稀の秘密を知ってるってなんかいいなぁ...
「...顔ニヤついてるけどどうしたの?」
「え?な、なんでもねーよ?」
「そっか...眠い...」
「俺が泊まりに行った日も遅くまで起きてるけど何やってんだ?」
「べ、別に...ほら、交換日記。明日ちゃんと書いてきて。」
...はぐらかしたな。
「おう。お前いつも丁寧...でいいの?」
「いいよ。」
「丁寧だよな。見やすくていいや。」
「...そう思うなら字を綺麗にしたら?」
「ちゃんと忘れずに書いてるのは褒めてくれてもいいと思うんだよな。」
「...うん。それは凄いと思う。」
ただ、これ一稀も一緒なんだよな。
「二人っていつも仲良いよね。」
クラスの女子が話しかけてくる。
「...そりゃ保育園からずっと一緒で遊んでいたし...」
「こいつめちゃくちゃ冷たかったけど」
「そ、それは悪かったってば」
一稀が気まずそうな顔をする。
「ま、幼馴染みって奴?」
「私も二人みたいな幼馴染みがよかったなー...ねぇ?」
「んだよ。俺じゃ不満か?」
「めちゃくちゃ不満!一稀君や友樹君みたいになれ!」
「...無茶言うなよ...」
...この二人、後から一稀に聞いたけど付き合っているらしい。
なんで付き合ってる恋人同士で不満があるんだ?
「...お、二人、よっす。」
亀井兄ちゃん。
野球が超上手い先輩。
一稀とよく練習してるから、一稀と仲がいいし、俺とも仲がいい。
「...そういやそろそろ卒業ですね。」
「あー...そうだな...お前らはそのまんま中学上がるか?」
「はい。そのつもりです。」
「...じゃ、練習はあまり一緒には出来ねえか...個人的な練習以外では...」
「そうですね...えっと...頑張ってください。」
「あ、お兄ちゃん。と友樹と亀井さん」
「なんで亀井兄ちゃんはさん付けなのに俺は呼び捨てなんだよ!」
「別にいいじゃん。」
ぐっ...むかつく...と思っていると、一稀が美穂の近くまで小走りで走ろうとして...
「あ、美穂...!?」
「...ん?その後どうなったの?」
「あぁ、あいつ思いっきり転け」
「うるさい!」
...赤面した一稀が俺の近くまで来てそう叫ぶ。
恐らくその話が何かに気付いたからだろう。
ちなみにその後一稀は思いっきり転けた。
何もないところで。
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