第二球目「天才野球少年」
八九高校(やきゅうこうこう)...その名の通り、野球の名門校に入った僕、広川一稀(ひろかわいつき)(ポジション投手。)と幼馴染みで親友の多田友樹(ただともき)(ポジション三塁。)
僕達は八九高校の野球部に入るために、小学生の頃からずっと野球を続けてきて、僕も、友樹も才能を発揮していた。
目指すは甲子園優勝。
でも...僕は一つだけ悩んでることがあった。
「よっ一稀、今日も可愛いな。なんつって。」
「あぁ、うん。おはよう友樹...冗談だとしても言うけど、僕男だからね?」
そう、僕は男なのだが...見た目が女にしか見えないらしくて、高校では不本意ながら、男女どちらからも人気だ。
「今日からやっと部活に入れるな!」
...まぁ友樹は普通の友達として接してくれるからいいんだけどね...
「うん。そうだね...勿論野球部だよね?まぁ推薦で野球部しか選べないけど...」
「野球以外に何があるんだ?」
「根っからの野球馬鹿だね。」
「うるせー、お前も馬鹿って言うな。」
二人で話していると、僕は気配を感じたので1歩右に逸れる。
「おっす」
「ぐえっ」
動かなかった友樹は後ろからのしかかってきた人にぶつかり苦しそうな声を上げる。
「和馬...そろそろそれやめろ...」
鈴木和馬(すずきかずま)(ポジション二塁。)
中学校から友達になって一緒に野球の練習をしていた。
和馬はふっ...と笑うと、
「友樹だけじゃなくて一稀の苦しむ顔も見たいな...」
「それはわかるが離せ、痛い。」
「いやわからないでくれないかな。」
「お前は見た目に反して強すぎなんだよ。察しもいいし。筋肉質じゃないのにどうなってんだよ。」
まぁ...自分で言うのはなんだけど、僕は強い。
柔道と空手では全国一位になった事が合わせて五回ある...新聞でも女子扱いだったのは不服だったけど。
そして和馬の言うとおり、僕は筋肉質じゃない。
女子にしか見えないらしいからね...ちなみにその二つは野球をしながらは難しかったので、中学三年生の頃にやめた。
後、多分五回が少ないと思った人もいると思うが、その五回は僕が少し通っていた間にあった大会の回数だ。
他にも色々やっていたが、どれも野球ほど楽しいとは思えなかったので中学生の時に全てやめた。
全ての先生にやめることを止められたが、押し切った。
「和馬と俺は結構筋肉質なのにな。」
二人は特に何もやってなかったらしいんだけども、筋肉質で、ムキムキだ。
そしてイケメンだ。
羨ましい。
野球だけでそうなるのなら僕は一体なんなんだろう。
「実力の差だよ。野球でも僕の投げた球にバットが当たる確率少ないでしょ?」
「お前の球が早すぎるんだよ!この前コントロール関係なしに投げてもらった時150出てただろ!中学校の時の顧問入部したてのお前の投球見て固まってたわ!」
「今でもう変化球8個投げれるもんな。あとお前のあのボールはまじで打てる気がしない。」
「とかいう2人だって打率0.824と0.762でしょ?凄いじゃん!」
この会話でわかる人はわかると思うけど、僕達は本当に才能に恵まれ、天才と謳われた3人である。
...あまり自分では誇りに思っていないが。
「やっと着いたぜ〜相変わらず遠いなほんと。」
「んじゃ2人とも、今日から部活だから部活でな。」
「うん。」
僕と友樹は3組、和馬は1組なのでここで分かれる。
「...はぁ...」
...僕はいつも教室に入る前にため息が出る。
「お前は毎日大変だもんな...やりすぎた奴がいたら注意しといてやるからな。」
「あっ...うん...ありがとう...はぁ...」
教室のドアを開けるとクラスメイトが反応する。
そして一斉に口を揃えて...
「「「おはよう!」」」
わぁ、みんな息ぴったりですね!
「ねえねえ一稀君!一稀君はどの部活に入るの?」
「ぼ、僕は野球部に...」
「えー!一稀君音楽の才能あるんだから吹奏楽部入ろうよー!」
「おい一稀!お前柔道全国一位だろ!柔道部入らねえか!?」
「絵の才能もあるんだから美術部もいいと思うぞ!」
「いやいや!」
「なによ!」
皆がガヤガヤしてきて、僕が拳をプルプルすると、机に座って見守っていた友樹が近づいてくる。
「...。」
「「「あっ...」」」
クラスの人たちが全員しまったという顔をして僕を恐る恐る見る。
「あ、あのえっと、一稀君、わ、私達は、えっと、その...」
「そそ、そのえっとな一稀...あの...」
「...野球部にしか入れないって...言ってるよね?」
僕はこのことを散々言ってきたはずだ。
...そこで友樹が呆れた様子で立ち上がって僕の肩を掴む。
「おいこらお前ら。いい加減学べ、こいつがキレると怖いってこと。馬鹿か。」
「いつも友樹がフォローしてくれるから忘れちゃってよ...すまん一稀...後馬鹿が人に馬鹿って言うな。」
「やかましいわ。」
「うぃ〜...出席とるぞ〜」
...先生が入ってきて、授業が始まり、放課後に入る...つまり部活の時間だ。
「ようやくだな!おしいこーぜ!」
「気合入ってるけど僕達まだ雑用しか出来ないんじゃないの?」
「いや、この学校は実力式だから一年でベンチ入りもありえるらしいぞ。逆に三年で二軍とかもあるらしい。」
そんな説明を和馬から聞かされていると、グラウンドに着く。
一年生は全員顧問の近くに集まっているらしいので、僕達は顧問の元へ走る。
「...これで全員だな。野球部に入部してくれた47名の一年生諸君。歓迎しよう。ここが名門校の野球部だ。全員が経験者と聞いている。まずは実力を試させてもらおう。判定するのは三年だ。結果次第では二軍。あわよくばベンチ入りだ。ではこの先はキャプテンの亀井に話してもらおう。」
和馬に聞かされた通りで、実力式の様だ。
強面だが、中身は優しそうな顧問は二年生の元へ行った。
それを確認した亀井先輩は優しそうに僕達に語りかける。
「みんな、よろしく。キャプテンの亀井だ。ポジションは捕手。投手の一年生は俺が判定する...まぁ、ここの野球部は他の野球部よりもメニューが過酷だ。一軍、二軍、三軍...そして、四軍...どこに入っても同じ練習という訳では無いが、覚悟してもらおう。では...三年生集合!一年生のテストだ!...という訳で、ポジション毎に分かれてくれ!」
「じゃ、後でな。」
「あ、う、うん!」
僕を含めて三人が亀井先輩の前に集まる。
「...よお、一稀。お前ならきっとベンチ入りだろ。あとお前相変わらずのその...だな...」
「お久しぶりです。亀井先輩。わからないですよ...あと...もう...気にしないでください...」
...僕は亀井先輩と面識がある。
小学生から中学生までの間、亀井先輩と僕で練習をずっとしていた。
亀井先輩は凄腕のキャッチャーで、僕の球を落とす事は一度もなかった。
だからこそ今でもキャプテンの座を守っているのだろう。
「よし、投手のみんな。まずは投げてもらおう...一稀は最後な。」
「え、なんでですか?」
「お前の投球を一番最初に見て自信をなくされると困る。」
「は、はい...」
僕以外の二人の投球が始まる。
野球経験者ということもあり、一人は球速が遅いがコントロールが正確で、変化球が何個かある。
もう一人は球速が速いがコントロールが悪く、変化球が一種類しか投げれない。
二人の投球が終わり、僕の番がやってくる。
「おーし、一稀!思いっきり来い!」
「もうあの時の僕じゃないですよ!」
といい、僕は構えに入る。
僕は思いっきり亀井先輩に向かってボールを投げる。
「うおっ!?」
亀井先輩は驚いたものの、うまく体制を変えて僕の球をキャッチする。
「...ったく...腕を上げたな一稀。球速はバッチリだ!次はコントロールと変化球だ!変化球投げる時は球種を言ってからな!」
「はい!...じゃあ高速スライダーで行きます!」
「いきなりお前の決め球かよ!?」
僕の決め球は高速スライダーという、バッターの手前で曲がるボールだ。
球速が速く、バッターのテンポを崩せるまさに決め球である...実はまだ決め球はもう一つあるんだけども...そんな事を考えながら思いっきり投げる。
「...取ったぜ...」
亀井先輩が腕を震わせながらボールの入ったグラブを掲げる。
「流石ですね亀井先輩。」
「...さて...結果だが...投手二人。お前らは二軍だ。」
「はいっ!」
「や、やった!」
「一稀...お前は監督と相談だ。いい意味だぞ。わかっておいてくれよ?」
「あ...はい...」
亀井先輩に監督の元まで連れていかれる...正直亀井先輩と練習がしたいから、一軍に入りたいなぁ...
結果は、一軍どころかベンチ入りだった。
和馬と友樹もそうだったみたいで、他の一年生には「すげー!」とか色々言われた。
みんな僕の事を見てた気がするけど...気のせい...だよね?
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