追想美術館

春待ち猫

第1話 ようこそ

 カーテンの隙間から差し込む光で目覚める。良い朝だ。窓を開け、部屋着に着替えて時計を確認すれば8時46分。コーヒーを入れてパンを焼き、ニュースを見ながら朝ごはんを食べる。放火だの事故だの物騒なニュースもあれば最近の流行りだのイベントだの、まぁ私には関係ないのだが。そんな事を考えているとパンを食べようとした口が空振る、もうパンは食べきってしまっていたようだ。残りのコーヒーを飲み流し台へ。そして外に置いている花たちに水をやるため外へ出る。ここまではいつも通りだった。しかし人生というのは案外一瞬で変わってしまうものらしい。最後に見たのは眩しいヘッドライトと此方に飛び込んできた車だった。




 軽い頭痛と柔らかい光に目を覚ます。

体を起こし辺りを見渡すと、全く見覚えのない何処かの廊下で落ち着いた雰囲気を醸している。静寂が続いているが不思議と落ち着くような静けさだ。オレンジ色の照明と茶色い床、窓のない白い壁に囲まれており、壁には何も描かれていない真っ白な絵の入った額縁が等間隔に置かれている。それを眺めつつ何故こんなところにいるのかと頭を抱える。しかし心当たりが無いどころか自分の名前すら思い出せない事に気付く。自分が何者で何故ここにいるのか、ここは何処なのか。全てが疑問に変わる。

「わっ...!」

俯き考えながら歩いていたため何かにぶつかってしまった。さっと頭を上げ、視線を向けると目の前に黒いドレスを身に纏った少女が佇んでいた。高校生くらいだろうか、しかし一体何処から現れたのか。この廊下は真っすぐに続いており、誰も居なかったはず。そう考えていると少女は恭しく頭を下げ、口を開いた。



「ようこそ、花浜美術館へ」


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追想美術館 春待ち猫 @Harumati13

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