7月

「はーーぁ」

「どうしたのよー沙良、ため息なんかついちゃって」

「だってやっと試験が終わったっていうのに、なーーーーんもたのしいことがないじゃん。私も旅行に行きたいよー。遊びに行きたいよー」

「あぁ、そういうことね。俊也君とミチルがツーリングに行くって話ね」

「ほんと、男ってわかんない」


 ついさっきの話だ。

 ミチルのとこへ沙良と二人でいくと、ミチルと北原くんが雑誌を見ていた。

「なに見てんの?」と覗き込むとミチルはツーリングの本を、北原くんはテニスの本を見ていた。

「あ、芽衣ちゃん。ここ見て」

 テニス雑誌には先日の大会の結果が書かれていて、優勝したのは北原くんが負けた相手。写真入りで大きく載っていた。その記事の隅っこに北原くんが負けた試合の写真があった。

『期待の一年生北原、健闘

 北原選手は第一シードの折原選手相手に第一セットを奪うも、後が続かず残りストレートで取られた。集中力が課題があるものの、前半の攻撃には目を見張るものがあった。北原選手は中学時代、全日本大会に出場したものの折原選手の後輩にあたる古沢選手に敗れベスト16を逃している。古沢選手は今大会でベスト16に入れず、現在ランキング20位、北原選手がこの度の活躍で16位と逆転している。中学時代の因縁の勝負は見れなかったものの来年の注目カードである。』


「すごいねー北原くん。頑張ってたもんねー」

「芽衣ちゃんが応援来てくれたお陰だよ」


「おい、私も応援行ったんだからな。その軽い口を治す事から始めた方がいいんじゃないか?せいぜい夏休み中も練習して青春しときなよ」

「お前はオゴリの餌につられて来ただけじゃねぇか」

 相変わらずこの二人は仲がいいのか悪いのかわからない。


「ミチルは何でツーリングの本なんか読んでんのよ」

「あぁ、俊也といく事になった」

「いつ?」

「休みに入ってすぐだよ。一週間くらい行ってくる」

「バカじゃないの。男二人で何が楽しいのよ」

 そう言い残して沙良が自分の教室に戻ったというわけだ。




「ようは俊也君に遊んでもらえなくて寂しいのね、沙良。よしよし」

「ふーーんだ。今日会えるもん」


 今日は例の、北原くんのオゴリのカラオケ。だけど北原くんがベスト16入りしたら私たちのおごり分半分持ちの賭けで北原くんが勝ったのだ。

 そこに祝勝会ならと、テニス部の部員やマネージャーやらが何人か加わり、パーティールーム貸し切りとなった。参加費は一人3千円だというが、私たちはもちろんオゴリ。


 集合したら結構沢山人がいてびっくりした。

 初めての人ばっかりで緊張する。こういうとこ直さないと。

 部屋に入ったら、沙良の隣に座ったけど、私の反対隣にはミチルが横に座ってくれた。ほっとしていると「芽衣、こうゆうの苦手だろ。ごめんな、巻き込んじゃって」って言ってくれたのでやっぱりミチルだーって思った。こういうところ機転が利くのがイケメンたるゆえんだ。

 沙良が「今日は芽衣をちゃんとガードしときなよ」


 前で聞いてた北原くんが「おい、ミチル。お前が沙良ちゃん、芽衣ちゃんの二人と一緒にいるから男子から恨み買いまくってんぞ。沙良ちゃんが好きなやつ、芽衣ちゃんが好きなやつを合わせると結構な数だぞ。そのうち一人ぐらい闇討ちに来るぞ」

「ばかいってんじゃねぇ。ツレと一緒にいるだけで闇討ちされてたまるか」


 ミチルが初めて私のことをツレって言ってくれた。

 私が沙良の友達だから、(内緒だけど)妹の友達だから、私とも喋ってくれてるのかなって思ってたから。

 なんだか急にうれしくなってきた。沙良ともミチルとも友達。二人とも大事にしたい。壊したくない。



「おい、芽衣」

 頭の上でミチルの声がした。

「なぁにー」

 夢かな。目を開けると沙良の顔があった。

「あれ、沙良だー」

 私は沙良に抱き着いた。

「ちょっと、芽衣ー」

 なんだかフワフワする。

「ぃつっ」

 急に頭がズキンと痛んだ。

「とりあえず水のみな」

 コップを渡されて一口飲むと、視界がはっきりして、何故だかカラオケのロビーにいた。カラオケしてたはずなのに。でもロビーがゆっくりと回ってる感じがする。

「大丈夫みたいだな。ホントに高校生が・・・。」

 俊也さんもいる。

「あれ、みんなは?」


「芽衣酔っぱらってふらふらだったのよ。トイレ行こうとしたけど、トイレの前でへたり込んで動かなくなったから、びっくりしたわよ。わたしみんなのところに戻るからミチル後頼むね」


「了解」

「俺も仕事戻るけど、お前らあんまり仕事増やすなよ」


「わたしどうしちゃったんだろ?」

 ミチルに聞くと

「飲みすぎなんだよ。おまえ、俺たち以外の奴と酒飲むの禁止な」

「わかったー」

 そういってもう一度目を閉じると、前に自転車の後ろに乗ってた時のことを思い出した。なんか安心感というか、ほっとする感じ。






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