恋の予感

「Corcovado」に行った日の夕方から降り出した雨は止まず、今日も朝から雨だった。なんとなく気分が鬱々としてたけど、学校に行くと更に気分が沈んだ。


 クラスメートから「ねぇ、宮下さん。昨日A組のミチル君と一緒に帰ったでしょ。あなたたちもしかして付き合ってるの?」と聞かれた。

「ミチルとはよく沙良と一緒に遊んでるけど、そんなんじゃないわ」

「そ〜なんだ。仲良いみたいだったから。じゃぁバイト先の人と付き合ってるってのはどうなの?A組でミチル君に好きな人がいるっていうのが噂になってるんだって」

 一瞬、清水さんとミチルが笑いあってる昨日の姿が浮かんだ。

「私は知らないわ」

「そっかー、でも並の女じゃ彼には釣り合わなさそうだもんね」


 その通りだと思う。ミチルの横にいて釣り合うのは清水さんみたいな人だろう。

 昨日、また行くって返事したけど、なんとなく「Corcovado」に一人で行きたくないし。


「ねぇ、沙良お願いがあるんだけどー。今日一緒にミチルのバイト先に行ってくれない?」

「ミチルのバイト先?昨日行ったんじゃないの?ミチルがそう話してだけど?」

「うん。帰りに店長の清水さんが、明日来て欲しいって」

「ふーん。ま、いいけどね」

 少し思案顔になりながらも沙良は一緒に行ってくれることになった。


 放課後、沙良と一緒にお店に向かった。

 今日はオープンテラスは雨で誰もいない。入り口から店に入ると明るい声でいらっしゃいませと少し鼻にかかった、透き通った声が出迎えた。私と沙良に気付くと「芽衣ちゃん来てくれたのね。、こちらはお友達?」と目の奥が探るように一瞬光った気がしたけど、すぐにいつもの笑顔に戻った。


 店を見渡すと、まぁまぁお客さんが入っているが、この前となんだか雰囲気が違う気がした。雨のせいか少し暗いような、と思って気が付いた。今日は男性のお客さんが多いんだ。

 カウンターにかけると、沙良に「あなた、もしかしてミチルの妹さん?」と尋ねてきた。ミチルから沙良のことも聞いているみたいだ。

「ごめんね、来てもらって。今、コーヒーをいれるわ」

 そういって二人分のコーヒーをいれた。

 清水さんの入れたコーヒーはミチルの言う通り確かに美味しかったけど、今日はコーヒーを飲みに来たわけではない。どう切り出していいかわからなっかったので黙っていると、「今日は静かでしょ。ミチルが入ってる日は女性客が増えるんだけど。この間もあなたたちと同じ学校のお客さんが、彼女いるんですか?って聞いてたのよ」

「そしたら彼、好きな人いるんですよって答えたわ」


 ミチルに好きな人がいるのは知っている。でも清水さんの事じゃないのかな。

「好きな人がいるってことはミチルから聞いて知っています」


「あら、そうなの?私はミチルが好きな人っていうのが芽衣ちゃんだと思ってたから、一度話してみたかったの。ミチルから聞く女の子の名前は、あなたと妹の沙良ちゃんだけだったし」


 何も言えないでいると沙良が横から言った。

「失礼ですけど、店長さんはミチルのことが好きなんですか?年上のようですけどお幾つでしょうか」


「嫌なこと聞くのね。25歳よ」

「バイトのクラスメートを呼び出して、宣戦布告だって思っていいんですかね。こんな立派な店の店長で、しかも9歳下のバイトを好きになって」


 今日の沙良はなんだか凄味がある。でも清水さんも笑顔を浮かべながら動じていない。

「どうとってもらっても構わないわ。私は欲しいものは全部手に入れる主義なのよ」



「話はそれだけですか。帰るわよ。芽衣」

 そういって沙良はコーヒーを一口も飲まないまま、財布からお金を取り出した。

「今日は頂かないわ」

「おごってもらう理由がありませんから。失礼します」


 そのまま、沙良は店を後にした。私も慌てて追いかけて店を出た。

 店を出るなり沙良は「あんなやつ、大っ嫌い。自信家で傲慢で」

 しばらく沙良はぷんぷん怒ってた。けど私はなんだか落ち込んでいた。


(清水さんはミチルが好き)


 この事実は間違いない。ミチルの好きな人が清水さんなら二人は思いあっているっていうことだよね。

 もしもミチルが清水さんのことを好きだったら・・・。


 (いや)



 ミチルは誰にもとられたくない。清水さんに負けたくない。

 もし私が変われるなら、それでミチルが振り向いてくれるなら、私は膝上15センチのスカートだってためらいなく履くし、なんだってする。

 私の恋は始まったばかりだ。














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