ミチルと沙良

「こら、お前らちゃんと仕事しろよ」

「すみませーん」

「ごめんなさい」


 さすがに臨時募集するぐらいあって朝から晩までカラオケボックスは埋まりまくり。掃除やらオーダーやらで結構忙しい。

 たまに沙良と一緒になるとついついおしゃべりしてしまう。

 いよいよ今日でバイトが終わる。

 夕方に仕事上がってから、沙良と一緒に買い物に行っくことになっている。

 連休中はずっとバイトだったし、沙良と二人だけで出掛けるのは久しぶりだ。

 バイトが終わり、店を出て並んで並木道を歩いていく。木陰を通り抜ける風が気持ちよくって、誰かとこんな風にデートできたらいいなぁ、なんて思ってみる。


「アルバイト料一気に使ってしまいそうで怖いよね、芽衣」

 沙良は俊也さんと一緒にいたかったからアルバイトしてたわけだし、使い道があったわけじゃない。私もお母さんから、連休にこっちに来れないからってお小遣いを送ってきてくれたから、自由に使えるお金になった。


「わたしもー」

 解放感からか、ついつい笑ってしまう。

「ねぇ、芽衣って髪形変えてから明るくなった感じするね。控えめな感じだったけど今は芽衣がいると雰囲気がパッと明るくなる感じ」

「そうかなー?うれしい」

「お客さんに、あの子の名前教えてって結構聞かれたわよ」

「またからかってー。それ沙良のこといじゃない。だっていくらイメチェンしたって、もとは地味な女だし」

 沙良は深いため息をつきながら首を振った。

「芽衣、ほんと自分のことわかってないよね。イメチェンする前からあんたの事好きな人だっているのよ」

「え?だれー?」

「ほんと鈍いし。芽衣が早く彼氏作らないと私が困るのよ」

「なんで沙良が困るのよー」

 私が彼氏作らないと沙良が困る理由なんて見当たらない。

「だってね、私が俊也さん好きなのしってんでしょ。もし俊也さんが芽衣の事好きになったらどうしてくれるのよ。だからさっさと彼氏作んなさい」

「俊也さんが沙良じゃなくって私を好きになるはずがないじゃない。沙良すっごく可愛いし、わたしなんて誰も見向きしないわよぅ」

 沙良は再度深いため息をつく。

「芽衣、ちょっとこっち来なよ、鏡になってるところ。芽衣と私、髪形変えたとき入れ替わったみたいってお店の人たち騒いでたでしょ。自分で言うのは自意識過剰で嫌だけど、私がモテるんだったら芽衣も同じくらいモテるの。あんたは意識なさすぎ。連休明けに学校に行ったら分かるわよ。A組でも噂になってたってミチルが言ってたし」

「どうせよくない噂でしょー。最近ミチル私にそっけないし」

 そうなんだ。髪形変えて(お前は沙良じゃねえんだからな)っていわれてからミチルはなんか冷たくなった気だする。沙良の真似をして嫌われたんだ。


 可愛い服が並んでるセレクトショップに入ると、それぞれ思い思いの服を手に取った。ふだん沙良は結構キレカジ系で統一している。私はどちらかというとナチュラルな感じ。店員さんが沙良に持ってきてくれたスカートを「ねぇ、これ試着してきなよ。芽衣に似合うと思うよ」って渡してくれた。

 履いてみると自分の趣味より少し大人っぽいかも。

「芽衣、すごくいいよ」

 このスカートで並木道を歩く自分を想像しながら、沙良も似合うってくれるし買ってみることにした。


 その後も何軒か見て回った後、「あー疲れた。ねぇ、芽衣このあとウチに寄っていく?誰もいないし」

 ということで沙良の家に行くことになった。沙良の家は意外と私のマンションから近くって結構立派な一軒家だった。カウンターキッチンがあるリビングに通され、ソファーに座るようにすすめられた。冷蔵庫から出された麦茶を飲みながら、早速二人で今日の買い物を広げてみた。

「新しい服で出かけたいけどさすがに今日は疲れたね」二人しておばさん臭いことを言いながらまったりとしていると、玄関が開く音がして、誰かの足音が近づいてきた。「おうちの人?」と私が身構えているとリビングのドアがいきなり開き「沙良、今日はやっぱりこっちで寝ることにしたし。先にシャワーしてから飯食うわ」と言いながら入ってきたのはミチルだった。わたしもパクパクなっていたけど、ミチルもパクパクなっているみたい。

「え?え?泊まる?一緒に住んでるの?」

「芽衣、実はそうなの」

「ど、ど、ど、同棲してるぅの?」

 驚きすぎてうまく言葉が出てこない。するとミチルが「ちゃんと先に説明してから連れて来いよ」とあきれたように言った。


 ミチルがキッチンの椅子を出してきて、私のほうに向かって座った。

「芽衣、勘違いしてるだろ。俺と沙良は実の兄弟なんだよ。一緒に住んでて当たり前なんだ」

「当たり前でもないけどね」と沙良が横から口を挟む。

 ミチルと沙良は4月と3月生まれで一歳違いだったけど年子で生まれた。9歳の時に両親が離婚してミチルは父親が、沙良は母親が引き取ることになった。ミチルの親が12歳の時に再婚したが、相手には2つ上の子供がいてそれが俊也だったと説明してくれた。道理でこの二人美男美女なわけだ。血がつながった兄妹だし。そういえばすっきり通った鼻は似てる気がする。


「じゃあ、ミチルはなんでまたお母さんのところに戻ってきたの?」

 別々に暮らしていたわけだしね。

「中学2年の時かな。あいつ・・母親が仕事でアメリカに行ったっきり、しばらく帰れないから沙良の事よろしくって俺に手紙よこしたんだ」

「沙良を一人にしとくわけにいかないからってことで、神崎の家で一緒に住んだらどうだという話もあったんだけど、母親もすぐ帰るかもしれないし、神崎の家で相談してミチルが沙良と一緒に住むってことになった」

「神崎のお母さんが様子見に来たり、俊也がご飯持ってきたりしてなんとかやってるってわけ」


「でもね、2人とも同中で、同級生にも説明しなかったんだけど一緒に生活してるのって些細なことでバレちゃうじゃない?中学で噂になった時に私の周りから友達が距離置いたり、離れたりしていったの。ミチルは中学の時から女ウケ良かったから」

 沙良がなんだか寂しそうな、泣きそうな顔になった気がした。


「おい、さり気になにディスってんだよ。ま、そんなわけで沙良から芽衣にだけは話しておきたいっていうからさ。結局俺が話したんだけどな。それよりも飯にしようぜ」


 そういってミチルはシャワーを浴びに出ていき、沙良と一緒にご飯の支度をした。

「でも、芽衣と友達になれてよかった。なんか初めて会ったときに運命感じたもん」

「わたしもー」

 笑いあいながら準備しているとあっという間に用意が出来た。


 ミチルもちょうどお風呂から上がってきたので3人で一緒に食べた。

「なんか、今日の飯いつもよりうまい気がする。芽衣が作ったんじゃね?」

「自炊してるから芽衣料理の手際いいし上手なんだよ。お嫁に欲しい」

「おまえも自炊だろ。この差はなんだ」

「ミチル、教えてあげる。人にはね、得意不得意ってのがあってね。文句を言うんなら自分で作れ。もうあんたの分作らない」

「芽衣、これから毎日通ってくれない?俺の分だけでいいから作ってくれ」

「だめー、芽衣は私の友達なんだから」

「芽衣の飯、マジウメー」

 たまにこの3人でご飯を食べに行くことはあったけど、お家で食べるのとはなんか違った感じで、引っ越して以来、ずっと一人で食べることが多かったから、なんだかとっても楽しい。


「こうやって、誰かとご飯食べるのってすっごくいいねー」と私が言うと

「芽衣も一人なんだしさ、ちょくちょくおいでよ。っていうか今日泊まってってよ」って沙良が言ってくれた。

 食後のコーヒーはミチルの当番みたいで、沙良と片付けしている間に用意してくれていた。

 沙良は、私に先にお風呂をすすめてくれたけど、結局沙良が先に入ることになったので、居間でミチルと二人でコーヒーを飲んだ。

 ミチルのコーヒーは本格的で、豆から挽いて丁寧に入れたもの。私が感心していると

「俺、喫茶店でバイトしてるんだけど、最近やっとマスターからコーヒー入れるの任されてさ。まだ常連さんのは入れさせてもらえないけどね。ミルクと砂糖どうする?」

「あ、私どっちも要らない。ブラックでお願い」

「おーーーっ。この豆はブラックのほうが絶対うまいんだって。沙良なんて砂糖とミルクを入れた上に、冷めてからしか飲まないから台無しなんだよな」

「芽衣、今度店に飲みに来なよ」

 ミチルはなんだかいつもより優しくって、自分の事もよくしゃべってくれる。


「芽衣、沙良はさー。友達が離れていったとき本当はすごく寂しかったんだよ。だから俺の連れとか、男とばっかいるから女子からハブられててさ。だからさ、沙良の事よろしくな」

 へーっ、意外。ミチルって結構妹思いなんだ。

「うん、私も沙良大好き。でも、ミチルってちょっとシスコンはいってる?」

 そういって笑いながらカラかっていると、「俺、ちゃんと好きな奴いるし」と急に真面目な顔をして言った。

「えー!誰?同じクラスの子?学校で一面ニュースになるよー」


 髪の毛を拭きながら沙良がお風呂から出てきた。

「ゴメンねーミチル。お風呂出るの早すぎた?これでも私にしては長風呂だったんだけど」

「いや・・・俺もう寝るわ」


















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