ゴールデンウィーク
ミチルが黙って後ろを歩いている。
カラオケに向かう途中、ミチルはなんだか不機嫌でふくれっ面してる。
だんだんと私たちから距離が開いていったので、沙良がミチルのところまで戻って「何あんた、さっきからなんでそんなに機嫌が悪い・・・」と文句を言いに行った。取り残された私の前に突然男の人が現れた。
「きゃっ」
思わず声が出る。
二人の少し軽そうな男の子達が「ねぇ、よかったら俺たちと遊びに行かない」と腕をつかまれた。生まれて初めてのナンパ。少し怖い。
すかさずミチルが走ってきて「俺の連れなんだけど」というとワリィといってバツが悪そうに男の子たちは消えていった。
ミチルに「ありがとう、ナンパなんて初めてでどうしていいかわからなかった」というと
「芽衣、おまえパンツ見えてるぞ」
「えっ?やだ」慌ててスカートの裾を押さえる。
「嘘だよ。隠すくらいなら、そんな短くすんな。そんなカッコしてっから、あんなのが寄ってくんだ。お前は沙良じゃねえんだからな。早くカラオケいくぞ」
そういって今度は私たちの前を歩き出した。
(お前は沙良じゃねえんだからな)
そりゃ沙良みたいに可愛くないけどちょっとへこむ。
(なんなのよ)
中学時代はこんなイケメンの友達はいなかったから、こうやって一緒にいる事自体が不思議な感じ。でも私にも優しくしてくれるし、入学したころよりは親しくなれた。・・・なのに嫌われちゃったかな。
店に着くと、ちょうど俊也くんがカウンターにいた。「いらっしゃいま・・・」
ミチルと同様固まっている。
「髪形変えたんだ。二人とも前より可愛くなってんじゃん。ていうかメイクまで入れ替えて計算ずくだろ」そういってぽかんと眺めていた。さらっと女の子の髪形を褒めるあたり、俊也くんてやるじゃんって思いながら、沙良に小さい声で「やったね」というと少し顔を赤らめていた。ほんと可愛い。
「あ、そう言えば芽衣ちゃん、ゴールデンウィークのアルバイト探してるって言ってたよね。うちの店、今臨時募集だしたんだけどどう?二人募集だし沙良と一緒にさ」そういって張り紙を指さした。条件はまぁ良いほうだし悪くない。「私はぜひお願いします」と俊也くんにお願いした。沙良も二つ返事だ。そりゃそうだ、一緒にいる時間が増えるんだしね。
いつも通りカラオケが終わったあとカウンターに行くと、俊也君と店長がやってきて簡単な面接の後、あっさりアルバイトが決まった。
次の日、学校に行くと私たちの変化にみんな驚いてて、少し楽しかった。私はメガネじゃなくて、沙良にもらったカラコンを付けて登校した。メイクはさすがにしなかったけど。スカートは昨日より少し長くして膝上15センチ。
沙良も今までより少し長くして私と同じくらいのスカートに、控えめなメイクで確かに清楚だけど奇麗な感じになっている。
みんなと通りいっぺんの話が済んだので、私はミチルにノートを借りようと思ってA組の教室に入ると、クラスの男子が私を見ていた。ごめんね、沙良じゃなくてと心の中で誤っておこう。
ミチルは友達と話し中だった。側まで行くと私に気付いて「よう、今日は普段通りか。やっぱその方がいいじゃん」といった。横にいたミチルの友達が私に「宮下さんだよね、俺ミチルの友達で北原っす」と話しかけられた。知らない人と話すのはやっぱり苦手。「あ、はい。宮下です」とだけいうのが精いっぱい。
すぐにミチルの方を向いて「ミチル。ごめん数Ⅰのノート貸して」と頼んだ。
ミチルが「なんだよ、ノートぐらい自分で書けよ」とブツブツ言いながらもカバンを探してくれていると、沙良が後ろから「あ、芽衣ずるい、私もノート借りたかったのに」とやってきた。北原さんが「おい、ミチル。お前学年の人気女子に頼られるなんて許されへんぞ」とミチルの肩を叩いてた。
北原さんは沙良のことを知ってるみたいで「沙良ちゃん、久しぶり」と声をかけた。
沙良は「あんたは、さっさと諦めな」と相変わらずバッサリ一言。
北原さんも沙良のこと好きなのかな。
ノートを借りて教室に戻る途中、沙良は「今日からバイトか~」と嬉しそうにつぶやいた。そうだ、今日からバイト。
「なんだか不安だなー。バイト失敗しそう」
「芽衣って鈍いもんね」
「なにそれ、ひっどー」
「だってさ、さっき北原も言ってたけど、芽衣のこと好きな子って結構いるんだよ」
「え?」
「だから教室前に来てる男子、芽衣を見に来てる子結構いるよって」
「うそー、全部沙良を見に来てるんだよ」
「あんたのその鈍感なところ好きだけどね。前にいってた芽衣のファンって北原だよ。けどあいつは茶化してるだけ。そういってハッパかけてるんだよね」
「そのうち、誰かから告白されるから」
沙良は誰の事を言ってるんだろう?もしかして私って本当に鈍いのかな?
でも明日からはゴールデンウィーク。窓から入る日差しが初夏を感じさせる。バイトとはいえ楽しいことが待ってそうな予感。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます