5月
5月。
この一か月、知り合いのいなかった私の高校生活は沙良とミチルのお陰で楽しい毎日になった。でも大変なこともあった。それはカラオケの翌日のことだった。
学年でも人気トップクラスのイケメン、ミチルを他のクラスから覗きに来る人が日増しに増えて、上級生までが一年の教室前をうろうろしている。同じようにうちのクラスにも沙良を見に来る男子が増えている。でも、沙良は全く相手にしていない。だって、沙良には好きな人がいるしね。ミチルと沙良が付き合ってると思ったけど、沙良が好きなのは本当は違う人だった。沙良が好きな人は俊也さん。ミチルのお兄さんだ。
最近はカラオケの後、俊也さんも一緒にご飯を食べに行ったりしている。
教室で沙良と話してても、絶えず男子がこちらを見ている。私たちの会話にプライバシーなんてない。
ミチルの教室に行けばA組の女子や、廊下の女子から睨まれているような気がする。
沙良が久しぶりにカラオケ行かない?と誘ってきた。
「え~。沙良、久しぶりって意味知ってる?」
先週、ミチルと三人でカラオケに行ったところだ。登校初日に沙良とカラオケに行った日から数えるともう何回目になるだろう。おかげで私は生活費が苦しくなりゴールデンウィークのアルバイトを探しているところだ。
「私、今日は美容室予約してるんだ。それからでもいい?」
「え、そうなの?じゃぁ私も付き合っちゃおうかな。予約空いてるか見てみる。芽衣は何時で予約してるの?」といってスマホを取り出した。この間、沙良に美容室を紹介してもらったところだ。安くておしゃれな所で、沙良も使ってるらしい。
「オッケー。同じ時間空いてるって。」
そんなこんなで、沙良と二人で美容院に行くことになった。
私は今日、美容室でイメチェンしようと思っていた。
「ねぇ、沙良みたいなパーマしようと思っているんだけど似合うかな?」
といったら「え~、私はストレートの黒髪で、芽衣みたいにしようと思ってたんだけど。これじゃ、入れ変わりじゃん」と二人して笑った。
美容師さんにカラーとパーマをお願いした。沙良はストレートパーマで黒髪。
並んで座りながら、沙良が聞いてきた。
「どうして、髪形かえるの?今の髪形すっごく似合ってるのに」
「中学厳しかったからおしゃれできなかったし、高校に行ったらイメチェンしたかったの」
3年生の夏休み、学校の図書室で受験勉強してる時の事だった。エアコンで体が冷えたせいか、集中力が落ちてきたので、廊下に出て窓を開けた。窓は北向きだが、真夏の日中は校舎の陰が落ちている部分があまりない。とはいえ、わずかな日陰によく運動部員が休憩していた。その日はテニス部で同じクラスの武藤君と、隣のクラスで陸上部の荒川君がいた。盗み聞きするつもりはなかったけど、2階の私のところまで荒川君の声が聞こえてきた。
「宮下って、うちの部の葵と一緒によくいるやつだろ。ちょっと地味なやつだよな」
「そう、その宮下」
「葵はマネージャーだし、よくしゃべるから俺が・・・」
私は武藤君に片思いをしていた。
・・・ちょっと地味なやつだよな
・・・そう、その宮下
そのフレーズが私の心に刺さって、勉強どころではなくそのまま帰って泣いた。
京都へ行くと決心できたのも、この時の失恋が大いにある。地味なイメージから変わりたい。ぜったい高校デビューするんだって。
「そうなんだ、じゃイメチェン協力しちゃう。後で服も見に行こうよ」
「うん、ありがとう」
なんだかんだで、2時間後、私たちは茫然としていた。鏡の前の私たちは本当に髪形が入れ替わったみたい。美容師さんたちも、おかしかったみたいでみんなでしきりに感心したり笑ったりしてた。
「ほんとに芽衣になったみたい。ねえ、芽衣って視力どれくらいだっけ?」「0.2ぐらいだと思う」
「じゃぁ私と同じくらいだね。ちょっと眼鏡かけさせて」といってカラコンを外した。眼鏡をかけると「あ、丁度いいみたい」といってカバンをゴソゴソした。
「芽衣ちゃんはこのカラコンしてね」と言われて新しいカラコンをつけた。
美容師さんたちも悪ノリして、沙良っぽくマスカラとアイラインをひき、私にメークした。鏡に映った私は別人みたい。逆に横で沙良はメークを落としていた。
姿見の前で沙良ちゃんは折り返してるスカートを戻すと、私の横に並んで同じ長さにした。「芽衣はスカート私と同じ位に短くしてみてよ」
すっぴんに近い沙良を見ると、私って普段こんなイメージなのかと少しへこんだ。
「なんか沙良、私みたい。地味な感じだよ。ラブレター減ってしまうんじゃない?」
「何言ってんのよ、芽衣。こういうのは地味じゃなくて清楚っていうのよ。それに好きでもない人からラブレター貰ったって意味ないじゃん」
「私、入学してから誰からももらったことないんですけど・・・。沙良は沢山来てるかもしれないけど」
「あはは、それはミチルのせいよ。気付いてないの?」
「ミチルのせい?」
沙良はあきれたような顔をしてため息をついた。
「ねぇ、そういえば芽衣って好きな人いるの?ミチルが言ってたけどA組に芽衣のファンがいるみたいよ」
「うそ、またからかって」
「まぁ、その話は今はいいわ。それよりさ、ミチル呼んでカラオケ行こうよ。どんなリアクションするのか見たい」
「ほんとは、俊也さんのリアクションの間違いじゃない?」
からかったつもりが、沙良が真顔になった。
「・・・、前にね。俊也が芽衣のこと話してて」
「私のこと?」
「芽衣の髪って奇麗だよね、触りたくなる。あの髪形俺の好みって」
そういって、顔を真っ赤にして俯いた。メークしてないせいか、何だかすごくウブで可愛い。
「もう、好きな人の好みに合わせるなんて馬鹿だと思ってんでしょ」とふくれっ面した。沙良ってばいじらしい。たまらず沙良を抱きしめて「その髪型、すっごく可愛いよ」と男っぽく低い声で囁いた。
「芽衣ってイメチェンして性格まで変わって来てない?中身まで入れ替わったみたい」
私は変わりたかった。
膝上20センチのスカートは恥ずかしい。
「ねぇ、沙良。どうしよう、パンチラしそう。よくいつもこんな短いスカートで居れるねぇ」
「大丈夫よ。見せパン履いてるし」
「え?じゃあ今の私はどうなるの」
「男の視線釘づけ」
二人してダベってると、後ろから声がした。
「ワリィ、遅れちまって。ていうか急に呼び出すんじゃねぇよ。沙良」
そい言って後ろから私の首に腕が回って締め付けられた。
「うっ、沙良ダすゲて~」
そういうと、首に回された腕が緩んでミチルの腕の中から抜け出すと、沙良を見ながらミチルが固まってた。そのあと私と沙良を交互に見て、目をきょろさせながら口をパクパクさせている。それを見ながら沙良はケラケラ笑ってる。
「お前ら、何がどうなったんだ?」
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