第5話 妖精のマエステル



「何か…でかくないですか?」




ミルノが呆然とする。

いや、呆然としていたのはミルノだけではない。

後ろで騒ぐ御者(とギンジィ)を除いた全員が、天を見上げてただひたすらに呆然としていた。


今目の前にあるのは巨大な森。

それも予想をはるか超えての規模。


ゆうに100メートルはあろうかと巨木が立ち並ぶ。

後ろを振り返れば青い空。前を見れば緑の空。


その緑の空の下で悠々と鳥が飛び回るのが見て取れた。

地面は光をほとんど通さないからか、しっとり湿っており滑りやすい。

少し足を踏み出せば、ワッと虫達が沸いては逃げる。


それはいかにここが生命溢れる世界かという事を実感させた。


(この威圧感に圧倒されて、やっぱり止めたとか言ってくれないだろうか?)


ギンジィは勇者をチラリと眺める。




「……。」



勇者はというと、明らかに圧倒されつつもその眼差しが徐々に鋭くなっていく。


(あ、だめだこれ。完全に恐怖を克服して踏み出そうとする勇者の鏡のような目だ)


ギンジィは勇者に敬意を表しつつ項垂れた。



「皆、覚悟はできてるか?」


「お、お~~…。」


しかし声は弱々しい。あのネルでさえも。


「じゃぁわけーの!頑張れよ!3週間後にまたここに来るからよ!しっかり生き延びろよ!」


御者は観光案内のガイドよろしく、賑やかに馬を走らせ去っていった。


「……。」


もう帰るに帰れない。

4人は名残惜しそうに丘の向こうへと消えていく馬車を見送った後、再度振り返る。

そして木々の高さに思わず眩暈を覚え、前を見ればまるで夜のように暗い森の深淵に恐怖する。



「よし、…行こう。」



勇者がとうとう先導して森に一歩、また一歩と入っていく。

それを見てギンジィも続く。

そして残る3人も息を呑んで2人の後を歩き出す。








…。








「足場は割と大丈夫だな。」


勇者は息をついて先導を続けている。

木々は異常に高いが、地面の草花は背丈が低く苔が多いといったところだ。

光がなかなか届かないせいだろう。

それでも時折筋のように流れ落ちる光が皆の疲労を救い、心を安堵させる。


森に入って1時間、まだ小さな獣を見るばかりで異常はない。


「何か冒険してる!って感じだよね!」


肩で息をしながらネルが言う。

こういう時のネルは本当に前向きで助かる事だろう。


「そう…ですね…。ハァハァ、でもさすがに疲れますね。」


「ま、待って…、しんどい。」


ミルノとテトリアは少し遅れ気味。


「大丈夫か?」


勇者とギンジィが2人に手を差し伸べながらまた進む。そんな光景が続いた。









…。











「ハァハァ…、ちょっと…休憩しようか。」


勇者が光が差し込む平たい場所を指して言った。

すでに森に入ってから3時間ほど経過している。


「やったぁ…、休もう…。」


さすがのネルもヘトヘトのようだ。


「…。」


「…。」


ミルノとテトリアは言わずもがな。声も出せないようだ。

4人はドサッと荷物を降ろして項垂れた。

道中、これといったモンスターに出会う事はなかったが、ただ単純な疲労が4人をそうさせた。


(この異質な空気は、ただ3時間歩くだけの疲労とは訳が違うだろうな…)



「でもモンスター出ないな。」


勇者は息を落ち着かせて言う。


「そうですね、もっとはちゃめちゃな展開を想定していたんですけれど…。」


「今お昼時くらい?モンスターもお腹いっぱいで寝てるとかじゃない?」


「食後の運動、あり得る。」


「まだ森の浅いところ、という事でしょうな。」


ギンジィは言うが、実は違う。


何故なら、本当であれば5度ほど襲われていておかしくなかったのだ。

相手は化け茸やら化け葉っぱなどそこまで強くないモンスターだが、この疲労の中で襲われれば危険だ。


そんな連中をギンジィは密かに殺気を向けて撃退していた。


ここまではこれでいい。

しかし問題は、


(私の殺気に怖気づかないモンスターが来た時だな。それはすなわち獰猛で純粋に強いという事だ)





ゴルルルル……





一瞬でフラグが消化された。


突然暗闇から何らかの唸り声と思しき声が耳からつま先まで駆け抜ける。


4人はビクリとして立ち上がり、周囲を見渡す。


「何!?今の!」


ネルが杖を構えるが、そもそも相手が見えない。

よほど遠いのか、隠れているのか。それすらも分からない。

ただギンジィだけはすでに相手を捉えていた。


(魔装犬…、レベルは18くらいか、いきなり厄介な相手だ…)


離れた暗闇からこちらを凝視する魔装犬とギンジィだけが対峙する。


(頼む、頼む!俺の方がはるかに強いんだ。諦めてくれ!)


ギンジィは殺気と懇願にも似た気を送るが、魔装犬はひたひたと着実にこちらに歩み寄ってきている。

それはやがて、


「な、何…、あれ…。」


ネルが視界に捉えてしまう。


ひたひた


暗闇から巨大な狼が姿を現した。

熊と見紛うかのような体躯と巨大な犬歯は、見ただけで動けなくなってしまうような恐怖を覚える。

さらにデーモン・イリスには及ばないが、その狼の周りには闇が蠢いている。


(いきなり飛び掛かってはこないか、一応警戒している?)


ギンジィは一行の前に立つ。


「勇者殿、お気をつけて。」


「あ、ああ、もう泡吹いて倒れるわけにはいかないからな。」


勇者は言って、スラリと剣を抜いた。

その瞬間、ビクッと魔装犬が飛び退いた!


「え?」


一行が驚く。


「今、剣に反応した?」


テトリアが訝しげにつぶやく。

魔装犬は一層唸り声を強めたが、周囲をうろうろするばかりで近づいてこないように見える。


(デーモン・イリスもそうだったが、なるほど、あの伝説の剣には魔をよせつけない何かがあるのか)



「これは…、魔法を打つべきか?」


「いや、勇者殿、恐らく魔法を撃てば即座に飛び掛かってくるでしょう。ここは諦めて去るのをま…、」


「チャーンス!ファイアー!」



ネルがいの一番魔法を撃ってしまった!

しかし魔装犬はそれを俊敏な動きでかわすと、合図とばかりに飛び掛かってきた。


(させん!)


ガキィン!!!!


降りかかってくる巨大な爪にギンジィが前に出てそれを巨大な盾で弾いた!


そしてここでちょっとよろめいておく。


「大丈夫か!ギンジィ!」


「え、ええ!この程度…!…くっ、しかし何たる攻撃力…!」


魔装犬はまたしても周囲を回り出す。剣の存在が気になるのか、攻めあぐねているようだ。


「皆さん、無暗に魔法を撃つと危険です!」


「えええ~?じゃあどうするのさ!このままじゃ他のモンスターも来ちゃうかもしれないよ!」


「ここは相手が諦めて去るのを待ちま」



「チャ、チャンスです!」


今度はミルノが突然叫んで、何やら奇妙な動きを始める。


(何でこの娘達は私の話を聞いてくれないんだろう)


ギンジィの無常をよそにミルノはくねくねと何かをつぶやきながら…、やっぱりくねくねと…。

誘うような手の動きから、編み物でもしているような動きに変化し、下半身はダンスでもするかのような…なんだろう?これ。



「え、ごめん。意味分かんない。何?宴会芸?正直面白くないよ。」


可哀そうなものを見るような目でネルが言う。


「ち、違います!!!魔法ギルドで知り合いになった方からコツを教わったんです!魅了魔法です!テンプテーションです!!」


ミルノは至って大真面目なようだが、正直言って踊っているだけにしか見えない。

やがてミルノはふいっと杖の先端を魔装犬に向けた。

恐らく本当ならここで何か出るんだろうな、と皆は思った。


…。


当然何も起こらない。



「ブッ…フフ。」


テトリアが噴出した。


「わ、笑うなーー!!今がチャンスなんですぅ!」


ミルノは二度目と言わんばかりにまたくねくねする。


「全然魅了できてないじゃん。色気足りないんじゃないの?私がやった方がマシだよ!えーと?」


今度はネルがミルノを参考にするように、くねくねと横で踊りだした。

型がまったく出来ていないだけに、これこそ地方の宴会芸のように見える。



グルルルル…!!


(…多分、今この中で一番大真面目なのは魔装犬だろうな…)


健気に襲う機会を探る魔装犬を見てしみじみ思う。


奇妙な踊り子が突然2人も誕生してしまった事態に勇者もどう取り繕って良いのか分からない。




!!


その時ギンジィは閃いてしまった!


(ミルノさんは魔力こそ捻り出せていないが型は出来ている。本当は他にも色々と足りていないが…何とかいける!はず!)


ギンジィはそっと呟きだす。


(ゆっくり、ゆっくり…バレないように)


さりげなくミルノの横に並び立ち、盾を壁に見えないように左手をミルノに向けた。

その掌から仄かに青白いモヤがミルノに向かって飛び始める。


「皆さん、いつ襲ってくるか分かりません!絶対に目を離さないように!!」


「分かってる!」


「テンプテーション~~!!」


「何かもう飽きた。ファイアー撃ちたい。」


「目を離すとか怖くてできないし。」


(よし、皆の視線は魔装犬に集中している)


ギンジィから放たれる淡い光はミルノの腰付近から徐々にその体の中に入り始め…。



マジックフィード。



ギンジィの魔力の一部をミルノに貸し与えているのだ。

ミルノは徐々に杖が光りだしている事に気づかない。


(動きはまだぎこちない、そもそも魔力も足りてない。しかし熱意はある。後は飽和させてしまえば!)


「な、何かすごく魔力が充実している気がします!いけます!テンプテーション!」


ミルノの3度目のテンプテーション。

振り下ろされた杖から今度は、淡いピンク色のモヤが流れ出る!


「え?」


皆が異常に気付く。


淡いモヤはゆらゆらと魔装犬に迫っていく!

魔装犬は異常を感じ、それを避けようと動き回るがモヤはあっという間に魔装犬を包み込んだ!


「え?うそ本当に出たの!?」


ネルが目を白黒させている。


「狼を包み込んだ!いけるぞミルノ!」


しかし魔装を持つ魔装犬も必死の抵抗を試みる。


「くっ!あと少し…のはずです!!」


杖を持つ手に力が入る。

いくら力んでも本当は全く魔力が入っていないのだが、その演技力にはギンジィもいたく感心する。


(ミルノさん、さぁ存分に使いなさい!!)


ブオッ!!


ミルノからとうとう目を見張らんばかりの魔力が溢れ出す!


「え、ちょ、本当にこれ私ですか!?」


ミルノがあわあわと慌てだす。


「あと少しです!杖を下げないで!」


ギンジィの声にミルノはあわあわしながらも再度杖を向けた。



ガアアアアアアア!!



苦しそうな魔装犬の声が高々と森に響き渡った後…、


グルル…ル…


ゆっくりと頭を降ろし、まるでミルノに頭を垂れるような格好になった。


「せ、成功…?」


テトリアが息を呑む。


ひたひた


魔装犬がゆっくりとミルノに近づいてくる。

その巨体にミルノの震えが止まらない。


が、


魔装犬はミルノの目の前で体を伏せてハッハッと犬らしい呼吸を繰り返してミルノを見ている。


「成功した…。」


勇者が呆然とつぶやいた。


「や、やりましたーーー!!!」


ミルノが両手を高々と挙げた!


「ふえー…すごい、本当にテンプテーションかけちゃった…。こんな強そうなモンスターに。」


ネルもさすがに感心せずにはいられない。


「やっぱり胸か…胸なのか。」


テトリアはむむぅと唸る。


その横で、


「はぁ…良かったぁ。」


ギンジィはホッと胸を撫でおろした。

数多の魔法を扱えるギンジィであってもテンプテーションは使う事ができない。

例え型を完璧にこなしたとしても、魔力が魅了に転換される事はない。

女性にしか扱えない魔法、それがテンプテーションだ。


ミルノはふっふーんと指を3本立ててネルを見た。


「な、なにさ…。」


「これで私は魔法4つ目、習得です!」


「な、な、な…!何をーーー!!!!」


「あれだけの魔力を出せたんですから!もうすぐレベルも1つ上がるかも!うっふふふふ!」


「ざ、ざっけんなー!」


相変わらず大人しい魔装犬の横で2人のいさかいが始まる。





(あ”、これってミルノさんがテンプテーションする度にマジックフィードしなければならないのか!?)


ギンジィは腕を組んで唸った。















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ギンジィ(デストロイヤー・パラディン・アークウィザード)37歳 レベル88


装備:アダマンタイトの槌(表面に鉄加工)

  :アダマンタイトの盾(表面に鉄加工)

  :アダマンタイトの鎧(表面に鉄加工)

  :エルフ製の魔法着

  :海龍の服

  :ミスリルの鎖帷子


所持魔法:レベルチェッカー   (対象のレベルを測る)

     エネミーコール    (対象のモンスターを呼び寄せる)

     インパクト      (衝撃波を放つ ※ギンジィはこれを自身に撃ち込んだ)

     ブラッドフォース   (自傷して自身の攻撃力を高める)

     ワールウィンド    (自身の周囲に強力な風を起こす)

     ナイトウォーカー   (夜目が働くようになる)

     ストロングフィールド (範囲内の味方全員を強化)

     マジックフィード   (魔力を貸し与える)

     他多数


パーティーの2人目の仲間。28年もかけて勇者を探し出し勇者を勇者足らしめるため冒険を共にする。大地にハンマーを撃ち込めばクレーターができ、

ドラゴン並のタフネスを持ち、魔法を放てば周囲が焦土と化すほどの実力の持ち主。しかし実力を隠しながら勇者を押し上げなければならないという

ドドルゲン家の掟に従い、実際はこそこそと魔法を放ったり、実力をごまかしたりとせわしない。パーティーにヒーラーがいない事を嘆いている。


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「ちぇ~、5人乗れれば楽だったのになぁ…。」


ネルが歩きながらブーブーと不満を言う。

今、魔装犬の上に勇者、テトリア、ミルノの3人が、そして下で歩くのはギンジィとネルである。

いくら魔装犬が大きいと言っても5人はさすがに無理があった。さらに巨体のギンジィの場合は2人換算になるだろう。

今はこうやって交代しながら疲労を回復しつつ一行はさらに奥へと向かっていた。


「ねぇ、このテンプテーションっていつ切れるの?」


テトリアは勇者の背中を堪能しつつも、ふと気になった。


「さぁ…、そういえばいつ切れるんだ?ミルノ。」


「え、ええ?わ、私に言われても…、…ええと、正直分かりません。」


「えー!?分かんないの!?かけた張本人なのに?」


「だ、だって初めてですし!」


「いやぁ、多分大丈夫と思いますよ。あと…1時間くらいは。」


やけに具体的な数字を言うギンジィ。

彼は魔力を貸し与えた張本人のため、かかっている魔力量とモンスターの抵抗レベルからおおよそ逆算できてしまう。


「1時間~?ほんとにぃ~?」


ネルが振り向いて言う。


「ま、まぁ多分…たぶんですね。はは…。」


「それでも本当に楽になったよ。このモンスターを恐れてか、他のモンスターが全然寄ってこないみたいだし。」


森に入ってすでに5時間以上、それでも勇者の言う通り進みは早い。


「あ!見てください!あれ何ですか!?」


ミルノが緑の空を指す。

そこには黄金に輝く大きな鳥が悠々と一行を横切る姿だった。

羽を上げ、降ろすたびに金粉のような何かがキラキラと零れ落ちていく。


「黄金鳥ですな…。」


ギンジィがつぶやく。


「あれが黄金鳥か…、すごいな。」


魔装犬がいたおかげだったのかどうかは定かではないが、黄金鳥はこちらを一瞥もせずただゆっくりと闇の中に消えていく。


「きれー…。」


テトリアが見とれていた。


「ほんと綺麗~!ねぇねぇ、あれ倒したら報酬貰えるのかな?依頼書のやつでしょ?」


一言目で綺麗と言っておきながら何故二言目にそんな事が言えるのか。


「きっと返り討ちに合うだけ。」


テトリアは苦笑する。


一行は初めて見る初めての物に感動を覚えつつ、さらに奥へと進んでいく。






ドォン



ドォン






ふと、彼方から大地を揺するような低い音が鳴り響く。


「こ、今度は何だ!?」


魔装犬もピタリと足を止める。


(ああ、もう…、なんでこう立て続けに…今度はフォレストトロールだ)


ギンジィが息をついて盾を取り出す。

音の主ははるか前方の巨木の間を縫って、こちらへ歩いてくる。その人型もまたとてつもなく巨大だった。


「あああああ!あれは!!トロールです!」


ミルノが叫ぶ。


苔のついた貧相な布地を体に巻き付けだけの恰好。しかしのぞき出る四肢は巨大で筋肉質だった。その顔つきも異質で鼻はとりわけ大きく目立ち、

瞼は不自然なほど垂れ下がっている。


そしてどうしても目に入ってしまうのは丸太のようなこん棒。


(レベルは24!…巨大だが、走れば何とか…)


ダッ


「わっ!」


「う!?」


「きゃぁ!」


その時、魔装犬が突然あらぬ方向へと走り出した、いや、逃げ出してしまった!

不意をつかれた3人は飛び降りるでもなく魔装犬にしがみついてしまう。


「え?…あ!勇者殿!ってお前が走るんかーー!!犬っころおおお!!」


「えええー!!??うそぉー!!」


ギンジィも慌てて走り出そうとするが、すぐに後方を振り返る。

そこにはネルが呆然とした表情で立ち尽くしていた。


(しまった!ネルさんを放ってはおけん!)



ドォン



フォレストトロールは一瞬だけ魔装犬を目で追ったが、すぐに2人に視線を落とした。

その身の丈は、5メートル以上。


「ううううう嘘でしょ!?嘘でしょ!?」


ネルがじりじりと後退し始める。

ギンジィはもう対策を練っている暇もなかった。


すでにトロールはその大きな腕でこん棒を振り上げている!

しかしギンジィは微動だにせず、ネルの前で仁王立ち!


「ギンジィ!無理!無理だってー!!」


「ネルさん目を瞑って伏せて!」


振り向く事もなくギンジィが叫ぶ!

言われた通りネルはぎゅっと目を瞑って頭を伏せる。


「え?瞑ってて良いの!?逆じゃない!?」


ふと、目は開けずとも顔を上げてしまったネルだが、次の瞬間、




パァン!!




強烈な何かがネルに襲い掛かった!

これは光だ!


ネルは突然の事にうっと顔を背ける。そして、


ひょい。


「へ?」


ネルがパッと片目を開ける。

抱えられている。


いつの間にかギンジィの小脇に自身が抱えられていた。


ダッ!


そして猛ダッシュで走り出す!


「え?え?何だったの?あの光!?」


ネルが抱えられながらも後ろを向くと、トロールは掌で目を押さえて呻いている。


「閃光玉です!効果は短い!ダッシュで逃げます!」


「せ、閃光玉!?そんなもの持ってたの!?」


「足が速い相手には厳しいですが、トロールなら逃げきれるかもしれません!」


「さ、さっすがギンジィ!って、これ、ちょっと待って、揺れ、揺れすぎ!うおぇ…お腹が、シェイク…!」


「あ、すみません。」


ギンジィが気づいて今度はひょいっと背中にネルを乗っけた。


「………。」


まるで猫でも掴むかのようにひょいひょいとギンジィの上を移動させられて、ネルは困惑する。


「……ギンジィってまじで腕力はんぱじゃないよね。」


「そ、そうですか?お褒めに預かり光栄です!」





ドォン!





「!」


ネルonギンジィが後ろを振り向く。


フォレストトロールが片足を地面に打ち付け、頭を振っている。

そしてこちらを見つけるや否や、


ドォンドォンドォンドォン!


大股で追いかけてきた!



「ぎゃぁああああ!!!意外と早い!!ギンジィ!逃げて逃げて逃げて!!」



肩をバシバシ叩かれながら、ギンジィも必死に走り続ける!

森に流れる小さな小川をジャンプ一つで飛び越え、ぬかるむ地面も何のその!


「す、すっごいよ!ギンジィ!こんな早く走れたの!?…あ!でもトロールの方がちょっと早い!!もっともっと!」


またバシバシ肩を叩かれる。


「う、馬にでもなった気分だ…。ってネルさん、その杖で反撃してください!」


「あ、そっか。」


忘れてたと言わんばかりにネルは杖を取り出して半身の状態でトロールに狙いを定める。


「え、でもこれ森焼けちゃわない?大丈夫かな?」


「魔法で作られた火は可燃性が高くありませんし、ここは多湿なので大丈夫です!」


「あ、え?そうなんだ。たしつ?物知りだねぇ、ギンジィって。」


「良いから早く撃ってください!!」


相変わらず窮地だというのに、ネルはすっかり普段の調子に戻っている。


「よ~~~~し、当てるぞ~~~!」


(ああ、そうだった…この子は当てるところからまずダメだった…)


「ファイアー!ファイアー!」


しかし火の玉はあられもない方向に飛んでいく。


「うん、まぁ、めっちゃ揺れるし当たらないや!」


「撃ち続けて!」


「ファイアー!ファイアー!」


ボッボッといくつも火の玉が繰り出されるが、あの巨体に一つも当たらない。


「うーん、せめてメルフェリアの時みたく大きな火球を出せたら…。」



(弱めの)ストロングフィールド!!


「ネルさん!真の力を解放するんです!!」


「え?でもこれが全力だよ!…ってあれ、何か体が光ってるような…。」


「(ギクッ)それが解放された力です!さぁ撃って!」


「お、おう!いくぜトロール!ファイアー!」



ボッ!!



先ほどのファイアーと比べ3倍はあろうかという大きな火球が杖が飛び出る!


「うわぁ!!何かすごいの出た!!」


しかし当たらない。


「感想とか言わなくていいですから撃ち続けてください!」


「つれないなぁ…、ファイアー!ファイアー!」



…。




「ゼェゼェ…ファ、ファイアー…!」


ポッ


小さめの火球が飛び出る。


やっぱり当たらない。


「ギンジィ…、ごめん…、当たらないし、めちゃくちゃ疲れた…。閃光玉もうないの…?」


ネルがぐでっと項垂れる。

もうトロールとの距離は20メートルもない。

トロールはよほど怒っているのか、雄たけびを上げながらこん棒を振り回している。


「もう1個あります!私のベルトの後ろ側!」


「あ、私取れるかも、えーと…これ?」


ネルはギンジィのベルトに釣り下がっていた球のような物体を取り出して肩越しにギンジィに見せる。


「あ、それそれ!投げてください!地面に強く!」


「よーし任せろー!てい!」


コンッコロコロ…


「あっ」


グシャ!


パァン!!!


「ぎゃーーーー目がーーーーー!?」


「上手くいったんですか!?」



ドォンドォン!



足音は尚も近づいている。


「…ごめん、投げたけど炸裂しなくて…トロールが踏んじゃって…私の目が…。」


(何で自分で投げなかったんだろう…アホか私は…)


「ネルさんファイアーは!?」


「もう小さいのしか出ないよぉ…。」


(ああ、もう手のかかる!)


レストレーション! ※疲労回復


マジックフィード!


「おっ?」


ネルがふと顔を上げる。

再度体が輝き始めている。


「急にまた力が沸き上がってきたような…。」


ギンジィの激しい動きで視界がグルグル回っているネルは現状がいかにおかしい事か気づいていないようだ。


「やりましたね!真の力です!さぁ撃ってください真の力!」


「真の力!?任せろーー!!」


ファイアー!



ボッ!!!



「当たらなーーい!ちょっとジャンプとかしないで真っすぐ走ってよぉー!!」


「無茶言わないでください!」














…。













グルルルルル………


一体どれだけ走り続けたのか。

疲れ果てた魔装犬が上に乗るご主人をかばうようにゆっくりと地面に体を落とした。


「ハァハァ!…や、やっと止まった!」


勇者がゆっくりと降り、次にテトリアとミルノを降ろす。

テトリアは降りてからもフラフラと足取りがおぼつかず、勇者のマントにしがみつくが、それでもフラフラーと足から崩れる。


「う、うえええ…よ、酔いました…」


ミルノもばったりと膝が折れる。

勇者は2人を介抱しつつ周囲を探るが…、どうあってもしっとりとした暗闇が続くのみ。わずかに緑の空からこぼれる光だけが海のように波打っている。


「ネル、ギンジィ!」


走ってきた方角すら分からない。

ただより深淵に来てしまった事だけは確かだった。


「どうする…さっきの巨人も気になるが戻ろうにもどう戻れば…。」


「ああーーー!!!」


その時、ミルノがある方角を指さす。

皆が驚いて振り向くと、ミルノが指さした方向には綺麗な花が小さな密度ながら細々と咲いている。

しかし問題は花ではなく、その花の上に蝶のような4枚の小さな羽を持つ小さな人型が浮いている事だった。

その人型は、ミルノの声に驚いたのかこちらをまじまじと眺めている。


「…妖精…ですか?」


テトリアがつぶやく。


「あ、あれが妖精?」


「分からない、僕も見るのは初めてだ…。」


2人はそれを驚かせないように小さな声でミルノに聞き返す。

ミルノはというと自分のカバンからある本を取り出してペラペラと捲る。


「ありました!やっぱり似てる。」


題名はメルフェリア妖精物語。見るからに子供向けと分かるものだが、そこにある挿絵にはまさに4枚の蝶のような羽を持つ

小さな人型が描かれている。


「持ってきたんだ、その本。」


「一応、害はない。…らしいです。多分…。」


「こ、こっちに来てるぞ。」


今度は勇者が指をさす。

妖精は不思議そうな顔をしながらパタパタとこちらへ寄ってくる。

赤ん坊よりもさらに小さな体ながら、その身なりはイメージしていたものとは程遠く、赤と白を基調としたまるで貴族が着るかのような

軍服と軍帽で身を包んでいる。


「……何か本の挿絵と大分違う。」


ミルノが近づいてくる妖精と本を交互に見る。


パタパタ


さらに近づいてくる軍服の妖精は明らかに女性のような容姿。その容姿はサイズに似合わず、可愛らしいというより美しいという表現が似合う。

よくよく見れば腰に小さな剣と不思議な筒状の何かも添えている。


「い、いきなり攻撃してきたりしませんよね???」


ゴクリと息を呑む。

魔装犬は特に興味もないようで、別の方向を見て相変わらずハッハッと息を整えている。

妖精はやがて勇者の眼前で制止する。

妖精は腰に手を当てて、睨むような警戒するような表情で勇者を覗き込んだ。栗毛色の長く綺麗な髪が揺れる。


「………な、何か御用でしょうか…?(あれ、何かデジャブ)」


「…人間か。今は戦争の真っただ中だぞ。冒険好きとは言え少しは弁えろ、阿呆め。」


「「「……。」」」


3人が固まる。


(え?今誰が言ったんだ?この娘が言ったのか??)


勇者は言葉を喋ったという衝撃、そして何故か叱られたという衝撃に困惑する。


「聞いているのか?……あぁ、そうか私達に会うのは初めてなんだな。」


その妖精は、3人の反応を見て察する。


「それにしても弱いなお前達。その魔装犬を手懐けたとは言えよくここまで来れたものだな。」


小さな体でハッと鼻を鳴らす妖精に、3人も状況を飲み込み始める。


(そ、そっちの方がよっぽど弱そうに見えるのに…!)


「私の名前はマエステル。花を愛するメアー守護騎士団の一員だ。おっと、メアーというのは私達が集まっている集落の名前だ。お前たちは何処へ行く予定だ。」

「まぁ何処へ行くにしてもその弱さではすぐにここで野垂れ死にするのがオチだな。」


矢継ぎ早にマエステルという妖精は話しかけてくる。

勇者は戸惑い、テトリアは未だに勇者の目の前にいるのが本当に絵本に出てくる妖精と同じなのか、怪しむ目を向けている。


「それにさっきも言ったが、戦争に巻き込まれる可能性もあるぞ。もうこれ以上進むのはお勧めしないし私も行かせない。さっさと帰ると良い。」


「あ、あの、僕達ブルアランというハーブを探しているんですが…。」


勇者が恐る恐る尋ねる。

妖精は少し首を傾げて腕を組む。


「ブルアランのハーブ?あぁ…あのエルフ共が使っているものか?」


(あのエルフ共…???)


やや棘のある言い回しにミルノがさらに失望したような表情になる。


「私達はまさにそのエルフと戦争中なのだ。あいつら、ちょっとでかくて魔法が得意だからとすぐ調子に乗るいけ好かない連中だ!」


マエステルは苛々した様子で舌打ちする。


「ま、待ってください!確か妖精とエルフは仲が良いってこの本にも…。」


夢を壊されたくないのか、挿絵を指さしながらミルノが精いっぱいアピールする。

マエステルは今度はミルノの持つ本をしばらく凝視して、真顔でミルノに向き直った。


「一体何十年前の話だ、これは。確かにそういう時期もあった。しかし結局奴らはどうしようもない種族という事だ。」


「そ、そんな……。」


絵本では確かに妖精とエルフが仲良くしているような描写が随所に差し込まれているが…、

現実は、いや今となってはそれはまさに夢物語となっているようだ。


「しつもーん、何で戦争してるの?」


テトリアが手を挙げる。


「ん…、まぁ発端は…、そうだな。ストライキみたいなものだ。」


マエステルは少し言いにくそうに頭を掻きながら言う。


「ストライキ??」


皆が首を傾げた。


「昔はエルフ共と一緒に住んでいたんだ。エルフ郷と言ってな。そこには綺麗な花畑がたくさんあって、面白いものがあって、たまに人間なんかも来たな。いや、飽きない場所だったよ。」


少しだけマエステルは懐かしいように言う。


「エルフに協力して、薬草探しや花壇を作るのを手伝ったり一緒にモンスターを追い払った事も何度もある。……けれどあいつら本当に怠け者なんだ!」


マエステルの表情がだんだん曇っていく。


「私達妖精は自分で言うにも何だが好奇心旺盛だ。住ませてもらっている恩義もあるし最初はそう言ったお手伝いを喜んでやっていたがだんだんエルフ共がさぼり始めてな…。」

「薬草探しも、花壇を作るのもモンスターを追い払うのも全部妖精の役目になっていった。夜遅くまで一人で織物までしていた妖精もいたんだぞ!?それを堂々とエルフ製等と人間に売っていたのだ!」


もはや完全に怒り心頭の表情になっている。


「その現状をたまたま訪れていた妖精王のソラリス様が見てしまって、それはお怒りになってエルフ共に抗議したのだ!そしたら、あいつら何て言ったと思う!?」

「『違法労働ではありません。ちゃんと(エルフ側が作った)労働基準法に則ってますー。』だとさ!!!」


バシィと軍帽を地面に叩きつけるマエステルに3人は肩を竦める。


(テトリア…、ろうどうきじゅんほうって何ですか?)


(さぁ?…とりあえず奴隷でもさせられてたって事かな?)


(エルフって真面目なイメージがあったんだが…)



「私達は便利な小間使いではない!ソラリス様と私達は一緒になって今まで私達が作り上げた物の対価を差し出せと言った!しかしあいつらはそれすらめんどくさがる!」


(何か戦争って言うより、ただの口喧嘩ではないですか?これ)


(理由がしょぼい)


(テトリア、シー!)



「そして私達は決別した!二度とあんな場所に戻ってやるものか!!」


ぐっと拳を握ってマエステルは言い放った。


「あのー…、それなら別に戦いあってる訳ではないんですよね?」


ミルノが訪ねる。


「そんな事はない。妖精はこうした自然豊かな土地であれば何処にでも生まれる。そしてたまたまエルフ共に見つかった妖精は今もあの場所で…。私達は妖精を全て解放させるために戦っている。」


「えええ~…、まさか殺し合いではないですよね?」


「さすがにそこまではしない。少し痛い目にあってもらってるだけだ。とはいえ、私達は戦闘技術、奴らは魔法技術に優れていて双方怪我人が出ている状況だな。」


「わーぉ、結構やりあってる。」


テトリアが呆れる。


「マエステル、さん。その戦争は止められないのか?」


勇者が一つ前に出て言う。


「ハッ!何を言うかと思えば。エルフ共が妖精を皆解放してくれるなら止まるかもしれないな。それを聞いてどうする?」


「僕達はブルアランのハーブが欲しいんだ。それがエルフ郷にあるって言うなら、どうにか戦争を止めて手に入れたい。」


勇者は真剣な面持ちだったが、妖精はひどく呆れた顔になる。

そしてチラリと勇者の腰に下がる剣を一瞥する。


「……貴様、勇者だな?どうやってその剣を抜いたかは分からないが、メアーやエルフ郷に辿りつく事すら出来ないお前達が戦争を止める等バカげている。さっさと帰れ。」


マエステルは言って踵を返そうとする。





「勇者殿ーーーーーーーーーーーー!!!!」





その時、森の奥から勇者を呼ぶ大きな声と続いて地鳴りのような音がしてくる!


「ちょっとぉーー!!ギンジィ!さっきより集まってきてるって!走って!早く!」


そして明らかにネルの声。


ビクゥ!


寝かけていた魔装犬が飛び起きてミルノをも置いて一目散に森の奥へと逃げていった!


「ギンジィとネルの声だ!」


3人と妖精は思わず森の奥へ視線を集中する。

ネルを背負って走るギンジィと、その後ろに…巨人やら巨大蜘蛛やら巨大虫やら物凄い数のモンスターの群れが…。


「な…、何をやってるんだ!あいつらは!メアー守護騎士団、集まれ!!」


マエステルが叫ぶ!

すると、どこからか、始めからそこにいたのか、マエステルと同じく赤と白の軍服と軍帽を被った妖精達が集まってくる。


「はいはーい?」


「何かすごい声したね。」


「わっ!モンスターだよ!?」


「あ、人間だ。何年ぶり?おっすおっす。」


声の調子はえらく緊張感のないものであったが、およそ30ほどの妖精が集まっている。



マエステルは皆を確認すると、腰の筒状の何かを手に持ち、モンスターに向けて狙いを定めているように見える。


「魔力をありったけ込めろ!」


マエステルと同様に他の妖精もそれを手に持ち、体が光に包まれ始めている。


「ってぇ!!」


言うや否や、妖精達が構える筒から様々な色の光弾が飛び出した!

それらはギンジィとネルの脇をすり抜けて次々とモンスター達に着弾する!

さらに着弾した光弾はモンスターを凍らせたり、火に包んだり、風を巻き起こして吹き飛ばす!


妖精達はそれらを確認すると、筒を落として剣を抜いた。

そして隼のようなスピードでモンスター目掛けて飛び込んでいく!


「よ、妖精つよっ!強いですわ!」


「す、すごい…。」


「その本もう全然あてにならないよね。」


ミルノと勇者が呆然とし、テトリアは苦笑する。


「おい、勇者!これから私達はモンスターを排除するが、自分の身は自分で守れ、私達は助けないぞ。」


残っていたマエステルは勇者にそれだけ言うと自身もモンスターの中に飛び込んでいった!




そしてその中を逆走するギンジィとネルが3人の元へとたどり着く。


「ヒュー、ヒュー…!」


ギンジィが死にそうな顔をしている。ネルはぐったりとギンジィの背中から降りる。


「ギンジィ!ネル!無事…あんまり無事じゃなさそうだけど良かった!」


勇者が膝をつく2人の前で安堵する。


「ゆ、勇者様ぁーーー!!本当に怖かったよぉおお!!」


ネルも思わず泣いて勇者に抱きついた。


イラッ


テトリアとミルノの表情が少し固まる。

が、恐怖を体験したばかりなのはよく理解できたのでここはグッと堪えている。


「勇者殿!申し訳ございませんでした!このギンジィ、一生の不覚!」


男泣きを始めるギンジィ。


「い、いや大丈夫だ。こっちこそ済まなかった。すぐに飛び降りられたら良かったんだけど…。」


「ねぇ、勇者さん、蜘蛛きてるよ?」


テトリアが勇者のマントを引っ張った。

振り返ると、すでに妖精達にやられて傷だらけの巨大な蜘蛛がこちらへ向かってくる。


「げっ!皆、やるぞ!」










…。











「あら、倒したのね。意外。」


マエステルがふぅと額の汗を拭いながら一行の前まで来て、倒れた蜘蛛を見て言う。

その後ろからぞろぞろと今度は可愛らしい妖精たちも付いて来ている。小さいとはいえこの数となると少し怖い光景だ。


「キャー!!妖精だー!かーーわいいーー!!!」


今気づいたのかネルは飛び上がってはしゃぎ出す。


「先ほどは私達を助けていただき何とお礼を述べて良いやら…。」


「え?可愛い?ほんとー??」


ギンジィの感謝は無視されて、妖精達が騒ぎ出す。


「ちょっとお前達静かにしてくれ。もう解散していいぞ。この人間達には構うなよ?」


マエステルがムスッとした顔で振り返る。


「えーつまんなーい、折角久しぶりに人間に会えたのにー。」


「マエステルだって実は興味津々なんでしょー?」


「そこの人間おっきーい!その装備見せて見せてー!」


妖精達は更にわーわーと騒ぐ。


「あーもういいから!!さっさと解散だ!!」



「はぁーい。」


怒ったマエステルの言葉に妖精たちぶっきら棒に返事をして、皆それぞれ好き勝手な方向に飛び始めた。

そして少しバツが悪そうにまた一行に向き直る。


「コホン、まぁ何とかその蜘蛛は倒せたようだが、これでよく分かっただろう?この森はお前達には危険すぎる。さっさと…」


そこまで言って、マエステルの言葉が止まる。

その視線はギンジィに向けられているようだ。


「へ?」


ギンジィも思わず目を合わせる。


「………。お前、ソラリス様を知っているか?」


いきなり質問を投げかけられる。

なんとなくやばい。

少なくともこのマエステルという妖精の事は本当に何も知らないが、ギンジィはとっさにそう感じた。


「…いえ、知りません。誰でしょうか?」


「……。本当に知らないのか?ソラリス様だ。妖精の王だ。」


「い、いえ…何の事やらさっぱり……。」



「ほーう?私の感覚が狂っているというのか。ならばずばり当ててやろう。」


マエステルは口元を少し緩め、ギンジィを試すかのような表情になり言った。








「お前、ドドルゲンだな?」








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